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ユーザーに寄り添うだけではUXデザインとして不十分

UXデザイナーは、プロダクト開発にユーザーの視点を取り入れる手法を採用していますが、それはユーザーの要望に完全に従うことを意味するわけではありません。むしろ、ユーザーのインサイトに基づいて問題を解決する一方で、ビジネスを妨げないようにバランスの良い解決策を見つけることが求められます。

この役割の重要性を示す一例として、自動車とスマートフォンを連携させるアプリの開発を挙げます。この事例では、ユーザーの心理と行動を深く理解し、すべてを実現することなくインサイトを適切に捉え、適用した経験を共有します。


ユーザー・ステークホルダー共に好評だったアラートの機能

今回紹介する事例は、車からのアラートをスマートフォンに通知するシステムです。運転中にランプが点灯するなどのアラートを目にすることは珍しくありませんが、多くの運転者はこれらのアラートの意味を完全には理解していないことがあります。

この問題に対処するため、アラートが発生するとスマートフォンに通知を送り、そのアラートの意味や必要な対応について説明するシステムを開発しました。このシステムはステークホルダーから高く評価され、自動車ディーラーとユーザーの間に深いつながりを生み出す契機となりました。また、消耗品購入の機会を増やすことが期待されています。

ユーザーからディーラーへの連絡がオペレーションコストになる

ステークホルダーに高く評価された機能であっても、UXデザイナーはそれが実装された際にユーザーがどのような行動を取るかを詳細に観察する必要があります。

このプロセスで明らかになったのは、アラートが鳴ったユーザーは、購入した店舗や担当ディーラーへの連絡回数が増えるということでした。これは一見、予想していた消耗品購入などのタッチポイント増加に貢献するように思えますが、同時にディーラーのオペレーションコスト増加という問題も引き起こします。

このような行動から派生するリスクとリターンを考慮し、ディーラーへの連絡を過度に増やすようなアラートはユーザーに意図的に通知しないという方針を取りました。これはユーザーにとっては望ましい機能かもしれませんが、その緊急度やディーラーへの負担を総合的に評価した結果です。この例は、ユーザーの満足だけを追求するのではなく、全体のバランスを考慮して機能実装を判断する良い事例と言えるでしょう。

ユーザーに全ての情報を提供すると危険な事態に陥るケースもある

緊急度の高いアラート、例えば盗難に関する通知であっても、ユーザーに全情報を提供することが必ずしも最善ではないことが分かりました。最近の車両にはGPS機能が搭載されているため、盗難が発生した際には車の位置情報を取得することが可能です。技術的には、車両盗難のアラートとともに、車がどの位置を走行しているかをユーザーに通知することもできます。

しかし、このような情報を受け取ったユーザーがどのように行動するかをUXデザインの観点から観察した結果、ユーザーが盗難された車両に自ら接近し、それが更なるトラブルに発展する可能性があることが明らかになりました。ユーザーが不本意な状況に巻き込まれるリスクを避けるため、すべての情報を提供することは避けるべきであるとの結論に至りました。

ユーザーの行動を制限しつつ最大限にサポートする機能を探る

車両盗難時にユーザーに位置情報を提供すると、ユーザーが危険な状況に巻き込まれる可能性がありますが、サービス提供者ができることはアラート通知に限定されるわけではありません。盗難が発生した際のユーザーの行動を詳細に分析すると、警察への連絡と、名前や住所などの個人情報や車両の詳細を伝える必要があることが明らかになりました。

このプロセスをアプリがサポートできることが判明しました。車両が盗難されると、GPSを通じてその位置情報は取得されますが、その情報はユーザーには共有されず、盗難事実のみが通知されます。一方で、この位置情報やユーザーが事前に登録した個人情報や車両情報は、裏側で警察に直接送信することが可能です。

これにより迅速な対応が可能となり、ユーザーを危険にさらすことなく問題を解決できます。これが、最終的に実装されたアラート通知とアプリ機能の連携です。

ユーザーのインサイトは「車が無事に戻ってくるか知りたい」

この議論の核心は、どのような機能を実装するかということではなく、ユーザーが実際に何を望んでいるかという点にあります。今回の例では、ユーザーが最も知りたいのは、盗難に遭った車が無事に戻るかどうかということです。

この要望に応えることができれば、ユーザーの満足度は自然と向上します。そのために開発されたのが、今回の機能です。この機能では、まずユーザーが車両盗難の事実を知ることができます。しかし、その後、危険な追跡行動を取ることなく、アプリを介して警察に連絡するプロセスが裏側で行われます。

これにより、警察は連携して車両の捜索に最大限の努力をすることができます。この一連の流れが、ユーザーの深層のニーズに対応している点を示しています。

ユーザーインサイトとステークホルダーとのスイートスポットを見つける

ユーザーのニーズを理解し、必要な機能を特定しても、その後には多くの課題が待ち受けています。技術的な課題、特にアプリ開発に関わるものや、警察との連携時に個人情報を扱う際の法律的な問題などがそれにあたります。UXデザイナーには、これらの複雑な問題を解決しながら、ユーザーのニーズとステークホルダーの要求の間で最適なバランスを見つけるという中立的な役割が求められます。

UXデザインは単にユーザー体験を設計することだけではありません。実際には、ユーザーからのフィードバックをプロダクト開発に取り入れ、ステークホルダーとのスイートスポットを捉えてプロジェクトを推進することがUXデザイナーの真の任務です。

弊社ではUXデザインコンサルのご相談をお請けしております。お気軽にお問い合わせください。

株式会社VERSAROC
代表取締役 江渕大樹
hiroki_ebuchi@versaroc.co.jp

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