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ユーザーインタビュースクリプトは「観察・理解・解決策」が最適解

ユーザーインタビューは、製品やサービスの開発において、ユーザーの深層にあるニーズや課題を明らかにするための強力なツールです。しかし、単に質問をするだけではなく、インタビューのプロセス自体が戦略的に計画され、実施される必要があります。本記事では、質の高いユーザインタビューを設計し実施するための核心的なステップを解説します。


ユーザーのインサイトとインタビュースクリプトを揃える

質の高いユーザーインタビューを実施するためには、まずユーザーのインサイトとインタビュースクリプトを適切にマッチさせることが重要です。UXデザインプロセスの初期段階で設定されたペルソナや、それらのライフスタイルに近い人物をリクルーティングすることが求められます。

そして、リクルーティングした参加者全員に対して、統一されたスクリプトに基づいた質問を行います。この方法で得られたフィードバックは、よく準備されたユーザーインタビューから得られるものとして、非常に価値があります。

適切なユーザーインタビューの条件を不適切な状況と比較することで、その重要性がより明確になります。例えば、参加者が20代から60代まで年齢が異なり、性別や年収が様々で、生活状況や日々の悩み、求める解決策がバラバラだとすると、一貫した情報を得ることは非常に困難です。このような場合、有益なフィードバックを得ることは期待できません。そのため、ユーザーのインサイトを統一することが必須です。

同様に、インタビュースクリプトに関しても、同じような背景を持つユーザーをリクルーティングしていても、質問内容が一貫していなければ、彼らの共通点や共有する悩みを把握することが難しくなります。加えて、質問者の立場も重要です。質問は中立的な立場から行い、ユーザーの率直な回答を引き出すよう努めることが大切です。

インタビュースクリプトはオープンクエスチョンにする

ユーザーインタビューの質を高めるために、インタビュースクリプトはオープンクエスチョンを中心に構成しましょう。オープンクエスチョンとは、単純な「はい」や「いいえ」では答えられない、回答者が自由に説明することを促す質問のことです。例えば、「休日は外出しますか?」というクローズドな質問ではなく、「休日はどのように過ごしますか?」といったオープンクエスチョンを使用します。このような質問形式は、ユーザーの個別のインサイトや体験を引き出すのに有効です。

ただし、場合によってはクローズドな質問が必要な場面もあります。そのような時は、クローズドな質問に続けて、なぜその回答になったのかを掘り下げるオープンエンドのフォローアップ質問を加えることで、より深い洞察を得られるよう工夫しましょう。たとえば、「休日は外出しますか?」に対する回答後に、「それはなぜですか?」と追加で尋ねることで、回答者はより自由に自分の意見や経験を共有できるようになります。

インタビューの流れは「観察・理解・解決策」

ユーザーインタビューは「観察・理解・解決策」の順番で進みます。
それぞれの概要や例をご紹介します。

観察

ユーザーインタビューは、観察から始まるプロセスです。これは、ユーザーの生活に先入観を持たず、彼らの日常や行動に関する情報を正確に収集することを目指します。例を挙げると、自動車操作アプリの開発を考えている場合、企業は自然とアプリと自動車の連携に対するユーザーの意見を先に知りたくなりがちです。しかし、重要なのは最初にそうした質問を控え、ユーザーが現在どのような状況にいるのかを理解することです。

具体的には、ユーザーが通勤や休日に車をどのように使用しているか、その前後で何をしているかなどの情報を集めます。朝食を食べるか、出勤までのルーティンは何かなど、日常生活の詳細を聞くことも含まれます。このような観察を通じて、ユーザーの日常生活に関する深い理解を得ることができます。

理解

インタビューが進むにつれて、スクリプトは理解を深めるフェーズへと移行します。この段階では、ユーザーの課題や期待に関するこれまでの仮説を検証します。例を挙げると、北国のユーザーが冬の間、自動車に乗る前にエンジンを早めにかける行動に関するインサイトがあり、これが寒い車内に入るのを避けるための行動であるという仮説が立てられている場合、インタビューではこの仮説が正しいかどうかを確認する質問をします。

具体的には、朝のルーティンについて話を聞いた後で、なぜそのタイミングでエンジンをかけるのかを尋ねることが適切です。もし「寒いのが嫌だから早めにエンジンをかける」という回答が得られれば、チームの仮説はある程度正確であり、ユーザーを理解できていることを意味します。

解決策

ユーザーの課題を理解した後、次は自社が提案する解決策をユーザーに提示しましょう。この例では、アプリを使って自動車のエンジンを遠隔でかけるサービスが提案されています。そのため、朝のルーティンでスマートフォンを使っているシーン、例えば朝食を取りながらニュースをチェックしている最中に、そのアプリを使って車のエンジンをかけることができたらどう感じるかという質問が適切です。

この質問により、提案されたソリューションがユーザーにとって便利かどうかのフィードバックを得ることができます。スマートフォンをほとんど使わないユーザーには魅力的でないかもしれませんが、朝にスマートフォンを頻繁に使用する人には、このソリューションが非常に役立つと感じられる可能性があります。

インタビューのサマリーを作る

ユーザーインタビューの後は、その結果のサマリーを作成することが重要です。このサマリーは、インタビューを通じて得られた学びをチーム全体で共有するためのものであり、個々のユーザーからのフィードバックをチーム全体に伝える役割を担います。UXデザイナーがこのサマリーをどのようにまとめるかによって、チームの進むべき方向性が左右される可能性があるため、情報を整理する際にはバイアスがかからないように特に注意が必要です。このサマリーは、プロジェクトの進行中にチームが方向性を確認するための「道標」のような役割を果たします。

ユーザーのニーズやインサイトに沿った方向に進むか、それとも異なる方向に進むかを判断する際の基準となります。山登りでいうと、どの道を選べば安全に進めるか、どの道が最も効率的な登山路かを示す目印と同様です。そのため、サマリーの作成はチームの将来の指針を定める上で非常に重要なプロセスとなります。

インタビュー結果をもとにUXデザインプロセスに立ち戻る

ユーザーインタビューを実施し、初期のフィードバックを得た後、場合によってはUXデザインプロセスの早い段階に戻る必要が出てくることがあります。例えば、観察や理解のフェーズで明らかになったのが、もともと設定したペルソナが実際のユーザーと大きく異なっていたり、ユーザーが抱えていると想定された課題が実際には存在しない場合です。このような状況では、ペルソナの設計段階までプロセスを戻して、再検討が必要になるかもしれません。

また、観察や理解で特定された課題に対して提案された解決策がユーザーにとって役立たないと判断された場合、アイデアの再考が求められます。例えば、高齢者層をターゲットとしたアプリを介した自動車操作サービスが、ターゲットユーザーがアプリに慣れ親しんでいないために受け入れられない場合、異なるアプローチやサービスの提供方法を模索する必要があります。このように、ユーザーインタビューから得られる学びをもとに、UXデザインプロセスの特定のポイントに戻って対応策を検討する柔軟性が、UXデザインの大きな強みの一つです。

まとめ

観察から始まり、理解を深め、最終的に解決策を提示するこの一連のプロセスは、チームがユーザー中心の設計思考を実践し、より価値ある成果を生み出すための基盤となります。インタビュー後のサマリー作成は、得られた知見をチーム全体で共有し、プロジェクトの方向性を定める上で重要な役割を果たします。

このプロセスを通じて、ユーザーインタビューがもたらすインサイトは、ただのデータポイント以上のものになります。それは、ユーザーの真のニーズに基づいた製品やサービスを創出するための羅針盤となるのです。

弊社ではUXデザインコンサルのご相談をお請けしております。お気軽にお問い合わせください。

株式会社VERSAROC
代表取締役 江渕大樹
hiroki_ebuchi@versaroc.co.jp

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