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わたしのおくりもの~こどもたちのための16のおはなし〔翻訳・リトアニアの童話〕

「わたしのおくりもの~こどもたちのための16のおはなし」原題:16 pasakėlių mažiausiems skaitytojams ir klausytojams)は、1913年に出版されました。その題のとおり、16話の掌編が収録されています。

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プラーナス・マショータス(Pranas Mašiotas)は、リトアニアの児童文学・童話の作者の祖と言われています。1863年に生まれ、1940年に死亡しました。500冊以上の著作を残しており、教科書の著者でもありました。翻訳者としては、「ガリバー戦記」や「ロビンソン・クルーソー」を手掛けています。2013年にはその肖像が2リタスの記念切手の図案になりました。

この本の表紙には「マショータスと生徒たちによる選定と再話」と書かれているので、マショータスの創作ではなく、民話等を集めたもののようです。また、類似した著作の中でも、出版年代は最初期のものです。
どのおはなしも、起承転結的に展開しないですし、教訓や説教のようなものもくっきり見えないので、とつぜんはじまって、あっけなく終わるように思えるかもしれません。まずは、どれかひとつ読んでみてください。

マリアちゃんとこねこ

(原題:Marytės katytė)

マリアちゃんが、ぎゅうにゅうを、うつわといっしょにもちかえっていると、じぶんのこねこにあいました。
「あら、ぎゅうにゅうがほしいのね」マリアちゃんはたずねました。「まってて、すぐもってくるからね」
こねこは、りかいして、へいのうえにすわって、しっぽをまるめて、まちました。

どうしてないているの?

(原題:Ko paukštelė čiulbėjo?)

ヨーナスくんとオーナちゃんは、とりのすをみつけました。とりのすから、ことりがとびだすと、こえだにとまってさえずりはじめました。
「どうしてないているの?」
こどもたちはそういって、かあちゃんにきくためにかえりました。
かあちゃんは、いいました。
「ことりさんはたぶん、パンくずをもってきてって、たのんでいるの。みて、こどもたちにたべさせたいのよ」
ヨーナスくんとオーナちゃんは、パンくずをもっていくと、とりのすのまわりにまきました。ことりは、パンくずをあつめてとりのすにもちかえりはじめました。

ペトラスくんのおえかき

(原題:Petriuko piešiniai)

ペトラスくんは、おえかきがだいすきです。どこにでも、おえかきをします。かみ、つくえ、とおりすぎるところすべてに、えをかきます。あるひ、ペトラスくんは、てんしをみつけました。
「てんしは、へいにかくのいいな。どうぶつもえがこうかな」ペトラスくんはいいました。
へいのそばでたちどまって、おえかきをはじめました。にわとり、ぶた、ねこ、うさぎ、はくちょう、そして、ぞうをえがきました。
ペトラスくんのこいぬのクドラスくんは、しずかにそばにたって、ペトラスくんのおえかきをみていました。ペトラスくんがぞうをかくと、クドラスくんはさけんでにげてしまいました。
クドラスくんは、ぞうをこわがっていたのでしょう。とてもおそろしかったのです。みみはおおきく、あしはふとく、はなはながくてまがっていました。そんなどうぶつ、クドラスくんはみたことがなかったのでした。

ユリアちゃんのうさちゃん

(原題:Julytės kiškelis)

ユリアちゃんは、すてきなうさちゃんのおくりものをもらいました。とてもよくできていて、まるで、いきているみたいでした。ユリアちゃんは、そのうさちゃんをとてもきにいって、ずっといっしょにあそんでいました。うさちゃんをすわらせると、ごはんのおちばをあげたり、おどらせたりしました。
あるとき、ユリアちゃんはうさちゃんをひとりおにわにのこして、ひとりでみずをのみにかえりました。すると、いぬのルチュキスとドゥルチュキスが、にわをよこぎりました。うさちゃんをみると、すぐにじめんふせて、ひとりじめしようとしました。そして、うさちゃんにとびつきました。あしとみみにそれぞれかみついて、ひっぱりあいがはじまりました。あやうく、さけてしまうところでしたが、ユリアちゃんがいそいでもどってきて、うさちゃんをまもりました。
どれほどないて、どれほどなげいたことでしょう!けがをしたうさちゃんは、ユリアちゃんのかあさんが、いやしてあげることができました。みみをぬって、あしをまっすぐにして、おはだをつくろわないとなりませんでした。
ユリアちゃんは、ふたたびうさちゃんとあそぶようになりました。でも、もうおきざりにはしません。

こねことこひつじたち

(原題:Kačiukas ir avelės)

「きてよ、こねこちゃん」こひつじたちがよびました。「ぼくらが、きみに、おいしいくさをとってあげるよ」
「ありがとう。でも、くさはたべないんだ」こねこは、こたえました。
「じゃあ、なにをたべるの?」
「わたしがすきなのは、ぎゅうにゅう、おにく、ケーキ、それに、おおきくなったらねずみをとるよ」
「そうなんだ!おしえてよ、きみはけがり、、、をされないの?」いっとうのこひつじがききました。
「しらない。かあちゃんは、なにもいわないの」
「ぼくたちひつじはね、にんげんにけがり、、、をされるんだ。それで、ぼくらのけ、をにんげんがみにつけるんだ」
「それって、もしかしてすごくいたい?」こねこはききました。
「ちっとも」
「じゃあね、こねこちゃん!きいて、ひつじかいがよんだから、いかなきゃ」
そして、はしりさっていきました。

スタシスくんとりす

(原題:Stasiuks ir voverėlė)

スタシスくんは、くるみのきのうえのりすをみて、ききました。
「かあさん、あれはなんのどうぶつなの?」
「あれは、りすよ」
「なにをしてるの?」
「くるみをあつめてるのよ。りすは、くるみをたべるからね」
スタシスくんは、じぶんのくるみをりすがとっているのがきにいりませんでした。つかまえて、こらしめようときめました。
ともだちのカザスくんをよんで、きにのぼってゆさぶるようにいって、じぶんはきのしたで、りすがおちてくるのをまちました。
カザスくんがきにのぼって、ゆさぶると、りすはとびました。きからきへと、とんで、きえました。

こねこたち

(原題:Kačiukai)

こねこたちが、ぎゅうにゅうをめぐって、くちげんかをはじめました。
「ぼくがとしうえだもん、さいしょにのむんだ!」アシュトゥラシスがさけびました。
「いや、ぼくがさいしょだもん!」アシュトゥラダンティスがなきます。あらそってあらそって、ぎゅうにゅうのおいてある、ひじかけいすにぶつかりました。ひじかけいすは、ひっくりかえって、うつわはわれて、ぎゅうにゅうはとびちりました。
こねこたちはよろこんで、ぎゅうにゅうをなめました。そして、だれがかたづけるのかで、またけんかをはじめました。
そのとき、ドアのかげでいぬがほえました。こねこたちは、へやのすみへとにげました。

すずめたち

(原題:Žvirbliai)

チュンチュン、チュンチュン―へいのうえにとまって、すずめたちがかなしげにはなしあっています。ふゆをいきのびることは、かんたんではありません。まわりはただ、ゆきにゆきで、とうもろこしはかりとられて、こくもつはしまわれています。はらぺこのせいかつです。
「おれ、あさっぱらから、なにもたべずにとびまわっているよ」
なげきながら、わかいすずめがぐちをこぼしました。
「なかまみんなで、とんでたべものをさがしにいこう」
としおいたすずめが、いいました。
すずめがみんなでいっしょにとびたって、おおどおりのそばのかばのきにとまりました。そして、あたりをみわたしました。
「にんげんがきたぞ」いちわがさけびました。
「さて、なにをはこんでいるのかな?」としおいたほうが、ききました。わかいほうが、めがいいのでしょう。「みてくれ、ひょっとして、こくもつじゃないのか?」
「にだいに、ふくろが!」いちわがさけびました。
「ふくろから、こくもつがこぼれてる!」ほかのすずめが、もっとおおごえでいいました。
「それはいいな!それはいいな!」みんなでいっしょにいいあって、おおどおりのうえでまちかまえました。
わだちには、じゅうぶんなこくもつがおちていました。
すずめたちはとんで、ほかのすずめたちにさけびました。
「もっと、さけぶんだ」としおいたすずめがいいました。「ほかのすずめたちにもきこえるようにな。これなら、みんなのぶんも、まにあうぞ」
すずめたちがとんでとびました。ついばむと、あたたまるために、おうちへととびたちました。

ヨーナスくんのぼうけん

(原題:Jonuko kelionė)

ヨーナスくんは、とおくのくにへ、いくことをきめました。かばんに、パンとにくとりんごをふたついれて、そとへでました。あるいて、あるいて、おがわまであるきました。でも、はしはなくて、とびこむのがこわくて、およぎかたはならっていませんでした。
「さあ、おうちにかえろう」ヨーナスはいいました。
そして、かえりました。
「どうして、こんなにはやくかえってきたの?」かあさんは、ききました。「それに、たべものもぜんぶもってかえってきたりして」
「おがわがあったんだ。もし、おがわがなかったら、もっともっと、たびしてたんだけどね」

おしゃべりのツバメとはなしずきのおさかな

(原題:Žvirblelis-šnekutis ir žuvytė-čiauškytė)

おしゃべりのツバメは、ごはんのあとはいつも、おがわにみずをのみにいきました。はなしずきのおさかなは、ちかくにおよいでいって、ツバメとおしゃべりをしたものでした。
「りくのうえって、どんなかんじなんだい、ツバメさん?」おさかなは、たずねました。
「あたたかくて、たいようがてらしていて、すなはまでゆったりするのはたのしいよ」ツバメはこたえました。「こっちまで、あがっておいでよ」
「みずのなかのほうが、いいぞ。ここは、ひんやりここちよく、およげるのさ」おさかなは、じまんしました。
「いやだよ」ツバメは、そういったものでした。
「おいらも、いやだよ」おさかなは、そうこたえたものでした。
あるひ、かわぎしに、ツバメがはえをはこんできました。すいこんで、みずでのみこむのです。そのとき、はなしずきのさかながおよいできました。
「つばめさん、りくのうえって、どんなかんじなんだい?」
ツバメはこたえようとして、くちをひらくと、はえはおちていきました。
おさかなは、つかんですいこみました。
「かえして、わたしのなの!」ツバメは、さけびました。
「みずにおちたものは、おいらのものだい!」おさかなは、こたえました。
そのときから、おしゃべりさんとはなしずきさんは、はなすのをやめてしまいました。

くもとか

(原題:Voras ir uodas)

いとにぶらさがった、はらぺこのくもは、みていました。ここらのどこで、たべものをつかまえようか。せめて、こばえでもあらわれればいいのに。
そこに、か、がぶーんととんできました。
「あなた、ぼくのくものすで、くつろぎたくはありませんか?」くもはたずねました。
「ありがとう」か、はこたえました。「わたしには、ふたつのすてきなはねがありまして、それをやすませられるのなら、どんなにいいでしょう。だれか、わたしのために、きみのくものすをこわしてくれませんかね?」

ことりたちのてがみ

(原題:Paukštelių laiškas)

「どこへいそいでいるんだい、とりさん」
「ゆうびんきょくだよ」
「なんで?」
「にんげんのこどもたちみんなに、てがみをおくりたいのさ」
「いったい、なにをかくんだい?」
「ふゆがちかづいて、みちもくさっぱらも、どこもかしこもゆきがおおっていくんだ。ぼくらとりたちには、たべものをさがすのはむずかしくて、はらぺこをがまんしなくちゃいけない。だから、こどもたちみんなにパンくずをあつめて、とりたちのためにまいておくことをたのみたいんだ。こどもたちにはむずかしいことじゃないし、ぼくらちいさなとりたちには、パンくずでじゅうぶんだからね」

つばめたちとすずめ

(原題:Kregždės ir žvirblis)

つばめは、のきしたのすみかから、おいだされました。あるひ、たべものをさがしにとんでいったときのことです。つばめが、かえってきてみたものは、じぶんのすみかのなかでないているすずめでした。
「おとなりさん、どうして、わたしのすみかにひっこしてきたのかな?」つばめは、たずねました。「わたしはここで、こどもをそだてるんだよ。でていってちょうだい」
すずめは、うまいことばを、つばめにかえせませんでした。ここがきにいって、ここにすんでいるのです。
つばめは、すずめとはなしているうちに、さけびだしました。
「どろぼう、どろぼう!」
すぐに、なんわかのつばめがとんできて、みんなでいっしょに、すずめをおいだそうとしました。じぶんのすみかでふあんになって、くちばしをみて、つばめのほうから、あざわらいました。
つばめたちは、みんなでいっしょにさけびだしました。
「どろぼう、どろぼう!」
つばめのむれのみんなが、とんできました。とんできて、はなしあって、いけのそばにとんでいきました。そこで、どろをくちばしであつめて、とびもどって、すみかにあなをあけました。
「きにいったのなら、ここですむがいいさ」みんなでさけんで、あたらしいすみかをつくるのをてつだうために、とんでいきました。

ペトラスくん

(原題:Petriukas)

「すぐに、すぐにとりのすまでたどりついて、とりたちをもってくるよ!」きのぼりしながら、ペトラスくんはさけびました。
こわがっているとりたちがわめいているとりのすに、もうてがとどきそうなとき、バキ!えだがおれて、ペトラスくんはじめんにおちて、ひどいけがをしました。
ことりたちが、ぶじにいきのこることができて、よろこびました。

けんか

(原題:Ginčas)

うしとうまといぬが、かいぬしにあいされているのは、だれなのか、けんかをしていました。
「もちろん、おれだ」うまはいいました。「おれは、ばしゃをひっぱって、もりからまきをもちかえって、かいぬしさまをまちにつれてくこともするんだ。おれがいなきゃ、かいぬしさまは、しんじゃうよ」
「ちがうよ、かいぬしさまはおいらをいちばんあいしてるさ!」うしはさけびました。「おいらは、かぞくみんなのぎゅうにゅうをだしているんだ」
「いや、ぼくさ!」いぬがほえました。「ぼくはだいじなものをまもっているよ」
かいぬしがやってきて、いぬをしばらくつれだして、うしのためにかべをつくって、うまにはおおいをかけました。さんにんはみんな、おさまりました。


出典:Mano dovanėlė : 16 pasakėlių mažiausiems skaitytojams ir klausytojams, Pranas Mašiotas, 1913.
https://www.epaveldas.lt/preview?id=C1B0004200789


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