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高校教員が1年間、ベンチャー系の教育NPOに留職してみた

0 はじめに

まず、みなさんにご報告があります。
「留学」ならぬ「留職」として、1年間勤めさせて頂いたvery50を3月末をもって退職し、4月からは学校現場に戻ることになりました。
今後もvery50には色々な形で関わっていきますので、「退職」と言うと自分の中にはかなり違和感があるのですが、一応「社員ではなくなる」という一区切りであることには違いなく、ご報告させて頂く次第です。
そして、この節目にお世話になった皆様にお礼をお伝えするとともに、まだ日本では比較的珍しい「往還型キャリア」である私の経験について、シェアさせて頂けたらと思います。

私は大学卒業後、千葉県にある私立高校にて、2年間勤務しました。
授業を持ち、担任を持ち、部活を持って、充実した教員生活を送っていました。
しかし、「学校現場」には、思いもしなかった課題が山積であったこと(ここでは割愛しますが、壮絶な闘いでした…)、そして自分自身の力不足を痛感したことなどから、学校の外で教育に関わってみたいと思うに至り、vey50への転職(留職?)を決めました。
教員→民間→教員というキャリア自体、日本ではまだほとんどない中、快く受け入れてくださったvery50とメンバーの皆さんには、心から感謝しています。

そこで1年間勤務させて頂いた中で、もしそのまま学校現場にいたら得られなかったであろう、多くの学びがありました。
本稿ではそのうちの3つをご紹介したいと思います。

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1 自立すること

第一に、教員が「自立する」ことの重要性です。
教員時代、「研修」や「養成制度」はほとんどなく、あってもせいぜい生徒指導や授業など、「教育活動」に関わるもののみでした。これは私の前職だけでなく、おそらくほぼ全ての学校が同じだと思います。
しかし、民間に出て私が痛感したのは、「社会人」「ビジネスパーソン」としての圧倒的未熟さです。
タイピングの速さからショートカットキーの活用、基本的なビジネスメールの作法、Office系アプリの活用などなど、できていないことばかりでした。
さらに、very50は元々ビジネススクールとして、社会人に対して「問題解決能力の養成」を行っていたこと、そして何より代表の菅谷さんはマッキンゼー出身ということもあり、基本的な問題解決の技法を基礎から叩き込んで頂きました。
仮説思考やデザイン思考など、多くのフレームワークを学びました。
民間企業なら一年目に叩き込まれるのでしょうが、公立でも私立でも、そのような学びの場はありません。
決してそれを批判したいのではなく、それによって圧倒的に生産性が変わる以上、先生たち自身のためにも、そしてその浮いた時間で向き合える生徒たちのためにも、教員が基本的なビジネススキルを身につけることは極めて重要だと感じたのです。

そもそも、教員時代に「生産性」や「ROI」を意識したこと自体あまりなかった私にとって、まさにパラダイムシフトでした。
このような「効率性」の議論をすると、「教育現場に効率性はなじまない」という声が聞こえてきそうですが、私はそうは思いません。
たしかに生徒と向き合っているときに効率性は意識すべきでないことの方が多いですが、こと日常業務においては、効率性を意識することで、むしろ生徒と向き合う大事な時間が増えるのです。


2 優しくなること

第二に、教員が「優しくなる=共感する」ことの大切さです。
優しくなるには、現実を知ることが不可欠です。
私はこの一年間、何度かアジアの途上国に行く機会に恵まれ、ほんの一部ですが、その現実をみてきました。
私は社会科、とりわけ公民科の教員でしたので、当然経済格差や南北問題についても取り上げてきたわけですが、実際に世界をみる前と後とでは、自分の中での「共感度=優しさ」が格段に変わりました。
理論は、現実を理解し、より良くするためにこそ存在します。
つまり、学校における教育でも、理論を教えることは目的ではなく、社会をよりよくするための「手段」に過ぎません。
よって、私たち教員自身が根底にその問題当事者への深い共感と、優しさをもって授業に当たることは不可欠であるはずです。
しかし、例えば経済格差の現実を「数字」や「理論」で「知っている」ことと、実際に現場にいき、見て、感じることとは、天地の差があります。
現場でしか学べないことが、間違いなくあるのです。
その意味で、実際にアジアの現場に行き、社会企業家の方たちとともに働けたことで得た経験は大きく、その中で自分の中に育った「優しさ」を今後生徒たちに伝え、広げていけたらと思っています。

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3 挑戦すること

第三に、「挑戦すること」の大切さと面白さです。
これからの時代は複線型のキャリアが増え、プロジェクトベースの働き方が進んでいくと言われています。
さらに、時代の変化とともに今ある職業の半数が消滅し、新しい仕事になるため、今まで以上に「やったことのないことに挑戦する」力が重要になると言われています。
しかし、翻って私達教員自身はどうでしょうか?
制度的な制約が大きいこともあって、基本的に副業ができず、転職も極めて少ない職種です。学校外でプロジェクトを立ち上げるのもなかなか難しいのが現状です。
ところが、そんな教員が「挑戦すること」の大切さを生徒に教えなければならない。
これは矛盾しています。

私は前職を退職する際、あえて自分の未来を「白紙」にしました。
教員という「安定した」職を退職し、自分の前に敷かれていたレールから脱線してみました。
脳科学者の茂木健一郎さんの言葉をお借りするならば、「偶有性の海に飛び込んだ」のです。
その結果、私は自分の本当にやりたいこと、情熱を燃やしたいことは何なのか、そして自分には何ができるのか、まっさらな気持ちで考え直すことができました。
その過程で、社外でもいくつかのプロジェクトに関わる経験を得ました。
教員時代ならできなかった、選挙の責任者や政策提言のとりまとめ、新しい団体の立ち上げなどなど。

そして、これはいつも菅谷さんが言っている言葉ですが、今までよりは少しだけ「視野広く・視座高く」自分のキャリアについて考え直すことができました。
その上で、私のミッションは「ミクロに目の前の生徒と向き合いながら、マクロに日本の教育システムをより良くするために貢献すること」だと、今の時点では「仮置き」しました。
そのために、学校現場に戻ることを決めました。
ミクロには学校現場で目の前の生徒たちに向き合いつつ、very50などいくつかの団体と関わり続けながら、マクロには日本の教育に少しでも貢献できたら、と考えています。

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4 まとめに代えて

very50では「自立した優しい挑戦者を育てる」ことをミッションに掲げ、スタッフはまさに人生をかけて、本気でこのミッションに挑んでいます。
私も、この人材育成のために、何人もの高校生・大学生にトレーニングを行い、現地で一緒に活動してきました。
しかし、結果的には、私自身が「自立した優しい挑戦者」になるために、多くを鍛えられたと感じています。
そして、まだまだその理想像には程遠いと痛感しています。
これから現場に戻りますが、中・高校生を中心とした人材育成に励みつつ、より一層、自分自身が自立し、優しさを持ち、そして挑戦し続けられるよう、この一年間の経験を糧に精進していきます。

この記事をお読みの先生方、ぜひ私たち自身がもっと「越境」し、「やったことがないこと」に一緒に挑戦していきませんか?
very50では、先生方の留職をこれからも受け入れる予定です。
また、海外研修プロジェクトMoGには大人版もあり、そちらには先生方の参加も可能です。

もし迷っている先生方がいたら、ぜひ、外の世界に一歩踏み出してみませんか?
そして、その先にある「日本の教育を良くし、子供たちの未来を共に創る」という壮大な夢に、ともに挑戦しませんか?
その背中を示すことこそが、子供たちの挑戦を後押しする最大の力になると、私は信じています。

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