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ソウル親子留学2003年⑥福笑いとちびまる子ちゃん

2003年。私はソウルで新年を迎えた。

しかし韓国のお正月は、旧暦の2月なので町はいたって普通通り。

メロン(4歳)だけご機嫌さんだ。なぜなら明日メロン父がソウルへ来るから。お父さんと会うのは、約ひと月ぶりで嬉しいのか、早朝から何度もつぶやく。

「早く明日にならないかな〜」

そして

「お父さん、忘れないで持ってくるよね?」

メロンのお楽しみはもうひとつ。

1週間ほど前


メロン父がおもちゃを買ってきてくれるというので、子供雑誌を一緒に眺めていたときだ。

「これが欲しい! これ、なんていうおもちゃ?」

と聞かれた。
覗き込むと『福笑い』だった。

「えー、、福笑い? おままごとセットとかキティちゃんとかにすれば?」

「いいの、これがいいの、ふくわらい!」

福笑い一点張りの4歳。かくして、メロン父は師走の東京にて、昨今あまり売ってない『福笑い』を探し回ったそうだ。

ソウルへ来てくれた福笑いに、もとい父にメロンは大喜びしていた。ロッテワールドへ行き、美味しい参鶏湯を食べ、最終日は部屋でゲームざんまい。

久しぶりの父と子の団欒だが、2泊3日はあっという間だ。

私たちは、別れるときメロンが泣きじゃくると想定した。だから土産の中で、このタイミング(帰る間際)用にメロンが大好きな『ちびまる子ちゃんビデオ』を取っておいた。

「何時に帰るの?」
メロンが時間を気にし始めたので

「そうそう、これも持って来たよ。ちびまる子ちゃん」


ワァと飛び上がるメロン。嬉しそうにビデオを見始める。

「あはは、ホントちびまる子好きだね。じゃお父さん帰るね。でもまたすぐに来るからね」

しかしメロンはテレビに顔を向けたまま返事しない。

「メロン、メロン? お父さん帰るよ」

玄関で靴を履きながら言うが、それでも振り向かない。

固まっている。
大泣きの前兆か。

緊張が走る。

ドアを開けたメロン父がもう一度

「じゃあねーメロン、お父さん行くよ、またすぐ会えるからねー。ママの言うことちゃんと聞くんだよお……メロン! バイバ」

その時だ。
一瞬だけ振り向いた。

「オッケーバイバイあ、お父さん、寒いから早く閉めて」

ガラガラスッテン。新喜劇スタイルで倒れる。

泣かれるのを心配してたのに、早くドア閉めてくれと言われたメロン父。心外及びプチ憤慨の顔で帰っていった。

アパートの下まで見送った私は、しかし
4階の部屋まで一気に駆け上がった。

メロンはきっといま、ひとりで泣いている。

寂しさを紛らわせるため、あんな態度をしたに違いない、健気な子や、あかん、母も泣いてまう。ごめんなメロン、母のわがままで父と離ればなれしちゃってさー

と、息を切らしてドアの前まで戻ると

「ヒャハハ! 馬鹿じゃん、そんなことしてええ、ちびまる子ちゃん、なにしてんの(と、玄関の私に気付き)あ、ママもほら見てちびまる子ちゃんね、こんなことしてるのアハハハ!」

めっちゃ笑てるやん。

ちびまる子ちゃんの威力は
半端なかった。

【すごいじゃろ ワシの孫だよ ちびまる子】
by友蔵

続く

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