学校の授業だけで獣医になった少女の幼少期②

私は獣の女医である。
本章は前回の続きを綴っていこう。

そう、幼少期の私は紛れもない動物バカだった。
小学生の頃は毎日20時に就寝していた健康児である。
そんな私がはやりのドラマより好きな番組、それがどうぶつ奇想天外である。
若い方にはわかるまい。志村動物園ではない、どうぶつ奇想天外である。
毎週私は画面越しにサバンナを臨み、ジャングルを拝んだ。
師匠は千石先生なのだ。
この番組で得た知識は大人になって、獣医になってからも役立っている。
なんといっても野生動物を診療するためには、その種の動物の群れ構成や
生活環境を知ることが大切だからだ。
まして治療をするとなれば、その種の攻撃の種類を知らなければならない。
爪か?牙か?前蹴りか?後ろ蹴りか?
食事の仕方や戦い方も、このどうぶつ奇想天外から学んだ。
動物園の猛獣は狩りをしない。
動物園の草食動物は群れで大移動をしないのだから。

それから私が生涯憧れるアイドル・・・今の言葉では推しだろうか。
それがムツゴロウさんである。
ムツゴロウさんに憧れ、これもまた、テレビの画面越しに沢山のことを
学んだと思う。
いろいろな意見があるかもしれない、噂もたくさん聞いた。
ムツゴロウさんの全てを尊敬しているわけでもない。
(私はたばことギャンブルが大嫌いだから・・)
しかし、ムツゴロウさんはすごい。
そこいらの下手な飼育員より150倍すごい。
(すごい飼育員さんももちろんいる)
動物のことを知っていて、動物を心から愛している。
そしてちゃんと動物から愛されている(ように見える)。

最近ムツゴロウさんの追悼番組をみて、さらに尊敬の気持ちが強くなった。

この仕事を始めて4-5年の頃、ムツゴロウさんに直接お会いする機会があった。
足取りもおぼつかない(?)昔テレビで見ていたより随分と老いたムツゴロウさんがそこにいた。
ムツゴロウさんはそこにいたアリクイと戯れていた。
そのころ私は急患のウサギの治療に忙しく、お話することができなかったのが悔やまれる。
ぐったりしたウサギを腕に抱え、治療のため移動をしているとムツゴロウさんとすれ違った。急ぎ足に挨拶だけかわしたが、それだけでも私の自慢の経験、忘れられない出逢いとなった。

のちに聞いた話だが、その日ムツゴロウさんとお話ししていた知人から、ムツゴロウさんが私の働きぶりをほめていてくれたそうだ。(実は治療とは関係のない仕事についての話だったが)
新卒そこそこ、日々奮闘中の私があの憧れのムツゴロウさんにお褒めの言葉をいただける日がこようとは、それこそ夢にも思わなかった。
そもそもムツゴロウさんに憧れてこうして動物に関わる仕事を始めて、その仕事ぶりをムツゴロウさんに見てもらえるなんて、とても光栄で感慨深い。
今でも思い出すと幸福感が全身に巡ってくる。

自慢話はここまでにしよう。
自慢と認識して読んでくれている読者がどれだけいるかは別として。

書籍の話に戻ろう。
イルカの調教師を諦めた私は将来の夢について考え始めた。
両親ともに大学卒だったこともあり、大学には当たり前に行くつもりだった。
もっと動物と関わりたい。もっと動物のことを知りたい。

そんな中で出会ったのが、私の人生を導いた運命の本である。
「医者も結婚もやめてジャングルに行く!」
なんて魅力的な本なんだ。。。
私はタイトルだけでこの本のとりこになった。
出会いが図書館だったのか、本屋さんだったのかは覚えていない。
ただ、今も自分の本棚に大切に飾られている。
この本は、順調な人生を送り、お医者さんとして活躍する女性が、同じくお医者さんと婚約したものの、自分の人生を見つめなおし、結婚破棄してアマゾンに移り住むお話である。
とんでもないように思えるかもしれないが、実話なのだ。
この本と出合った日から、この本の著者(林さん)が私の道しるべとなった。
お医者さんになってお金を稼いで、たまったお金でアマゾンに移り住む。
素晴らしいじゃないか。(と、小学生の私は喉から手が出るほどに欲していた)
この人に出会わなければ今頃どんな人生を歩んでいたのだろう。。。

ただ、お医者になる気はさらさらなかった。
なぜなら、今、動物と関わりたい。動物のことをもっと知りたい。
将来アマゾンに住むためにそれまで別のことを学ぶということは考えられなかった。

もともと動物が好きで子供が将来の夢として思い描く職業と言えば、動物園の飼育員、ペットショップ経営、獣医さん、王道であろう。
なのでもちろん獣医という選択肢はあった。
でも、決定打がなかった。
犬や猫を飼ったこともなかったし、ペットが獣医さんにかかって、とか、死んだときに悲しくて、自分で治してやれるようになりたくて、とか、そう言うものがなかった。
飼育員を目指した時間はとても短かった。
飼育員は高卒でもなれる。そして早く入社して経験を積んだほうがいい飼育員になれると思っていたのだ。高卒で就職して飼育員になるという選択肢は消えた。


本屋さんで動物に関わる仕事や、進学についての本を立ち読みしたこともあった。動物行動学や、動物なんとか学、そんなものを学べる学科も多少は存在した。でも、私は動物の全てを学びたかった。イルカセラピーの存在を知り、動物には自分の知らない力がもっとあるかもしれないと思い、どうせ学ぶなら、体の構造から薬物代謝の違いまで。
動物のことを全て学べる大学?私の視野の狭い思考回路では獣医大しか思いつかなかった。

そこで来た、林さんの導き。
自分はお医者ではなく獣医になってお金を貯めよう!そしてアマゾンに行こう!
言うまでもない。獣医の収入はお医者さんとは桁違いに安く、アマゾンに移り住む資金なぞ到底貯めることは困難であった。
まして野生動物の診療をして、誰が治療費を払ってくれるのだろうか。野生動物が助けてもらってありがとうと対価をよこしてくれるだろうか。
せいぜい威嚇や攻撃をくらわされるくらいだ。
でもそれは結果論。今こうして楽しく誇りをもって仕事をしているのだから、それはそれでいい導きだったのだと思う。
そんなわけで、私が獣医を志すにいたったのは、もちろん動物が好きで、動物について学びたくて、それで行き着いた選択肢であることに間違いない。
しかしその後押し、決定打となったのは医者をやめたアマゾネス林なのである。

林さんはその他にもアマゾンでの生活を綴った書籍をいくつか出版しており、私はその全てを何度も読み漁った。
ピラルクやアロワナ、亀の食べ方、庭でカピバラを買う大変さも林さんから教わった。
大人になって読み返すと、結構ヤバイ系のお方である。はたから見たら随分落ちぶれた人生を歩んでいる変わり者かもしれない。
でも、幼少期の私には神様のような存在だった。

機会があったら是非読んでいただきたい。
この方が私の人生を導いたお方だから。





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