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【番外編】国連YPP合格者が語る国連でのキャリアの作り方

プロフィール
氏名:太田千晶さん
現職:国連政治・平和構築局(DPPA) アジア太平洋部 Associate Political Affairs Officer

元自衛官のキャリアインタビューの番外編で、国連で勤務する太田千晶さんに国連で働くことのやりがいや国連への入職の仕方をインタビューしました。元自衛官のキャリアと同じくらいなかなか世間で知られないキャリアだと思います。是非ご覧ください。

経歴

ーーキャリアを考えるインタビューにご対応いただきありがとうございます。まず、太田千晶さんの経歴を教えていただけますか。

太田さん:米国のジョージタウン大学を卒業したのち、同大学でプログラムアシスタントとして学長室に5年間勤務し、平和構築やHIV/AIDSに関した国際貢献プロジェクトの企画やその調整に携わりました。

そして、2009年にジョージタウン大学の法科大学院へ進み、4年間学びながら、同大学の法務事務所でリーガルアシスタントとして勤務。7人の弁護士の補佐として、国や州の法コンプライアンスや様々な案件に関するリーガルリサーチを行いました。

2013年に大学院を卒業、同年イリノイ州の弁護士資格(Bar exam)を取得した後、日本に拠点がある人道支援NGOに転職し、4年弱ヨルダン、イラクのクルド人自治区とスリランカで緊急および開発支援事業の管理を行いました。

ヨルダンではシリア国境近くにあるザータリ難民キャンプで、20人の現地スタッフとともに水・衛生、衣料配布やメディアプロジェクトを難民へ提供。イラククルド人自治区では国内避難民を対象に水・衛生やシェルター支援に携わり、治安が不安定な場所でのニーズ調査、配布事業などを調整していました。

2016年に事務所長代行として、スリランカへ配属となり、日本人スタッフと11人の現地スタッフを統括し、2009年まで続いた内戦で避難していた方々が帰還したあと、自分で生計を立てるための農業を通した生計回復活動の支援をしています。

その後、国連入職を目指していたところ、2017年に日本政府が主催しているJPO制度に合格。外務省からのJPOの派遣で、スイス・ジュネーブにある国連人権高等弁務官事務所に2年勤務しています。アジア太平洋部に所属し、南アジア諸国の人権促進支援の仕事をしていました。

現場に戻り、南アジアの知識をさらに深めたいという希望から、JPO延長の許可を得て3年目は国連ネパール事務所に移り、国連常駐調整官(Resident Coordinator) の事務所でスペシャルアシスタントととして4ヶ月勤務しました。

国連正職員になるためのヤング・プロフェッショナル・プログラム(YPP)に、2017年度試験で合格した為、2020年1月からアメリカ・ニューヨークの本部での現職に異動し現在に至ります。

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NGOでの活動

ーーまず国連勤務前のNGOにてイラクで国内避難民支援をしていますが、どのような活動をしていましたか?

太田さん:私はイラク北部、クルド人自治区のドホークというところで活動していました。現地の避難民のニーズ調査や優先順位付け、アセスメント、そして実行と評価までを一貫して行います。

当時、避難民へ支援の中でも主な活動は、越冬支援と給水支援でした。

越冬支援でも我々は避難民へバウチャーの発行と必要物資の購入促進支援を行いました。越冬支援用の物資を購入するためにどの方法を選択するかは、その支援地の状況によります。

例えば、自然災害の直後では、お店は機能していない事が多いので、バウチャーや現金の配布は現実的ではありません。当時、我々が活動していた地区では、人々の必要な物資が家族によって大きく異なることや、避難地の物流および経済が正常に機能していることから、バウチャーの配布を行うことに決定しました。

活動で重要なバウチャーを受け取る人の登録やバウチャーを受け入れるお店との調整と全て企画実行し、無事避難民が越冬のための物資配布ができました。

給水支援においては、当時一番必要だったのが、人々が避難をしている場所での水へのアクセスの確保でした。

集落から水タンクや給水場への距離が大変遠い場所などでも、そこに住んでいる方々の水へのアクセスを向上させるために大型の水タンクを設置し、給水トラックにより緊急の水供給なども行っていました。水が毎日届けられているかの確認も集落に住むコミュニティの代表と協働で行っており、支援において、多方面の方々と協働で活動をすることの重要さを学びました。

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国連に入るための道

ーーマネジメントだけでなく、かなり現場レベルで動くんですね。ここから国連関連の話を聞きたいと思います。国連のJPO制度とはどのような制度で、試験は難しいんですか?

太田さん:JPO派遣制度とは、国際機関に務める日本人職員を増やすために外務省が実施している制度です。日本政府が人件費などの費用を負担してくれ、一定期間若手職員を国際機関に派遣して、経験を積む機会を与えてくれるんです。

原則2年間の派遣(場合により国際機関の該当組織との人件費シェアによる3年目の延長あり)を通して、国連の正規職員への道をひろげられる、国際機関を目指している若い人にとってはとてもありがたい制度です。

JPO派遣制度の詳細はこちら

試験も、一般応募や国連事務局が実施している国連事務局ヤングプロフェッショナルプログラム(YPP)と違い、日本人同士のみの競争となるので、倍率も約6倍と、国連機関に比較的入りやすい道といえます。

国連事務局YPPの詳細はこちら

公表されている外務省の資料によると、JPO卒業生の約7割が任期終了後でも国際機関に残っているようです。

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ーーJPOから入職して、現在はYPPで正規国連職員なんですよね。コロナの対応で特に話題になっていますが、太田さんは現在国連でどのような仕事をしていますか。

太田さん:現在は国連ニューヨーク本部の政務・平和構築局で働いています。この部署は、紛争予防と平和構築を目的として、国連加盟全193カ国の情報収集・政治分析などを管轄しています。

私はアジア太平洋部に属しているため、南アジアの国の政治や経済的社会的動向の情報を集め、各国の国連事務所と協働で政治分析をしたり、国連事務局幹部のためのブリーフィングなどを作成しています。また、担当している国の国連カントリーチームの補佐も行っています。

内勤ばかりと思われますが、担当している現地へ出張行くこともあり、忙しい中でも大変やりがいがあります。ただ、今はコロナ禍なので、ほぼリモートですね。

国連で働くことのやりがい

ーー仕事のやりがいと反対に大変だったり苦労することを教えてください。

太田さん:国連は、国際平和と安全の維持、社会発展や人権など、世界が直面する幅広い課題について問題提起し、加盟国の協力を促したり、行動を起こすことのできる組織だと思います。

私も国連に入り、人権高等弁務官事務所、ネパール国連事務所や現職の政治・平和構築局のどこにおいても、支援を必要としている人や国の状況を向上するために何をすればいいかを考え、行動することや大きな場で働けることにやりがいを感じています。

また、一緒に働く同僚や上司も、みんな常にどうすれば現状を変えられるか、よくしていかれるかを考えていて、同じように情熱を持った人たちと働き、学べることは日々のモチベーションにつながっています。

その他、日々政局が動いているので、上司からの指示を待たずに自主的に動くことも求められ、新しいことを学べることもやりがいに繋がっています。新らたな課題であっても、今まで培ってきたスキルを応用すれば対応できることも多く、着実にスキルアップしていると実感しています。

特にここ数年で学んだと思えるスキルは、色々な情報源から情報を集め、それらを素早く簡潔にまとめ分析をするという業務や他の部署と連携を行う調整力です。

日本人としてヒエラルキーや役職を重視する社会で育ってきて、それに慣れてしまっているため、役職のレベル構わず意見を求められる環境に戸惑うことがまだあります。ただ、それだけ一人ひとりの意見や考えが評価される職場なので、良いプレッシャーとなっています。

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ーーよい環境でキャリアもスキルもアップできることは大変やりがいにつながりますね。では、国連に入ろうと思ったきっかけとどのようなキャリアアップで国連に入職したのでしょうか。

太田さん:初めて国連に興味を持ったのは中学生の頃でした。テレビで難民のニュースを見て、支援を必要としている方々の役に立ちたいという意識をもっていたり、当時日本人女性初の難民高等弁務官を勤められていた緒方貞子女史に感銘を受けたことも、後に国連という道を目指したきっかけの一つです。

叔父の影響で弁護士になりたいとも思っていたのですが、中学の公民の授業で国連の仕事を学んだとき、法を使って紛争や人権を尊重しない国政で被害を受けている人々の役に立てる仕事に「これだ!」と決意しました。

その後、米国弁護士の資格を得て、NGOの仕事を通して、現地の状況を目の当たりにした時、その気持ちはさらに強くなりました。

人道支援の現場では、さまざまな国連機関と仕事をすることが多々あり、スケールの大きさや決断能力と、さまざまなプロテクションメカニズムを駆使して一人ひとりを守っていく姿に魅力を感じ、私も自分の能力と経験を使い貢献したいと強く思うようになりました。

ただ、国連に入ると決めてからも、一直線のキャリア形成で国連を目指せた訳ではありませんでした。初めは、どのように国連に入ればいいかなど見当もつかず、まわりにも国際機関を目指している人があまりいなかったというのもありました。

遠回りしたように見えますが、結果的には、国連に就職するにはいろいろなキャリアを重ねたうえでチャレンジした方が入りやすかったと感じています。

国連に入るための太田さんのキャリア構築

ーーどのようにキャリアを重ねたのでしょうか?

太田さん:私の場合、国連職員には司法関係者が多いことを知り、まずは弁護士の夢を叶えつつ、そこからは、興味をもった分野、やってみたい仕事を追求する形でまず進みました。

大学院在学中に国連関係者の方とお話をする機会があり、国連に入るために、やりたい仕事に関連する職歴を積むことが必要というアドバイスがありました。

そのため、大学院卒業後は人権や子どもの権利、法整備などを行っているアメリカのNGOや団体などに色々応募しましたが、ことごとく職歴が足りず通過しませんでした。そこで目を向けたのが現場で人道支援を行う日本のNGOです。

人道支援の道に入ったきっかけは、もともと関心は持っていたのですが、さらに2011年の東日本大震災のときに痛感した、緊急の現場で動ける・役に立てる人材になりたいと思ったことです。

私がいた日本のNGOは小さい団体でしたが、国によっては中規模のプロジェクトを運営しており、若いうちからプロジェクトマネージャーや現地事務所長代行として、プロジェクト管理やチームのマネージメントを任されたり、経験できたのはプラスだったと思います。

そうしたNGOでのフィールド経験・マネージメント経験が英語力以外に国連JPO合格時も評価されたと思います。

ただ、YPPは少し勝手が違い、国連自体が実施しており、世界の候補者と戦うため、なかなか狭き門でした。NGOにいた間2回ほど受けましたが、書類選考は通過するものの、筆記試験で落ちたり、面接で落ちたりと苦労しました。

YPPは近年の統計が出ていないので競争率はよくわからないのですが、受ける分野によってはとても難しいと聞いています。私の場合、最終的に合格したYPP試験では、筆記試験に向けて大量の文献を読んだり、あとはJPO期間内で人権の仕事をしていたこともアドバンテージとなりました。

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ーーなるほど、かなり難易度が高そうです。国連に入るにあたって、事前準備やスキルセットがあったら教えてください。

太田さん:まず第一には語学力です。

英語かフランス語で不自由なく仕事のできるスキルが必要です。特に書くことが多いので、限られた時間で文章を作成する力や、ミーティングなどで話せるプレゼン能力は試されます。

他の日本人JPOを含め、国連は何ヶ国語をも話す方々で溢れています。JPO1年目に出会ったブラジル人の友人はすでに7言語を話し、圧倒されました。

国連ではさまざまな国のメンバーと仕事をするので、コミュニケーション能力も必要とされます。文化の違いからコミュニケーションの仕方も違ったりするので、柔軟性と適応力が求められますね!

ーー選考のチャンスは多いのですか?またどのような対策をしていましたか?

太田:比較的数は多いと思います。ですので、国連を目指している日本の方は特にJPOやYPPなどの機会をどんどん活用していくことをお勧めします。とくにYPPは競争率が高い試験である上に、年齢制限も32歳となっていて、毎年募集している分野も変わるため、私はできるだけたくさんの数の試験を受けられるように、気になる分野が出る度に受けていました。

そうして、最終的に合格したのは、政治、人権、人道(POLNET)部門です。

試験対策の中でも筆記試験は、自分が受験する分野で国連が出しているレポートや決議などを読んで、国連がどういう活動をしているか、どういうイシューに着目しているか、そしてどのような書き方をしているかなどを把握、理解するのも重要だと思います。また、ニュースは毎日チェックし、世界で何が起こっているかも把握することも必要です。

面接対策は、練習あるのみでした。私は、英語と日本語両方で母に相手になってもらい、面接対策をしました。国連はコンピテンシーベースという形式をとり、今までしてきた経験をどのように応募したポストに活用できるかを聞かれます。

限られた時間で簡潔かつクリアに自分の経験と長所を伝える必要があるため、国連コンピテンシーを理解し、自分が応募するポストに求められているコンピテンシーについて、自分の経験に基づいたシナリオを書き出しておき、数分でこたえられるための練習が必要です。私は、国連コンピテンシーベースの詳しい友人に練習相手になってもらいました。

すべての面接でいえることだと思いますが、友人や家族相手に真剣に面接ができれば、本番はそこまで緊張しないものなんですね。

国連へ入職を目指す人へのアドバイス

ーーこれから国連入職を目指す人に向けてのアドバイスをお願いいたします。

太田さん:私は、国連経験が4年弱と長くありませんが、経験から言えることは、国連に入る道はたくさんあるので、どんどん自分が興味を持ち、学ぶことのできる機会を見つけて知見を広めていくことだと思います。

結果的に、国連を目指す際にも、どの機関や事務所でどのような仕事がしたいかというのも明確になり、国連への就職活動にも有利になると思います。

国際協力の経験は国際機関に限らず、NGOでも貴重な経験ができるので、国連ボランティアやインターンシップなどに加えて他の機会にも目を向けてみるのもいいかと思います。また、できるだけフィールド経験を積んでおくのも重要なのではないかと思います。

そして入職のために必要なのは、「自信」と「アピール力」ですね。国連ではJPOでも一日目から雇われた分野の専門家として扱われることが多いです。

直属の上司やシニアマネージメントに自分の担当分野についての意見を求められることが多いので、そういう場に対応できるために常日頃から勉強をしておき、必要な知識を備えて、専門家として伝えられるための自信が必要となります。私も日々、そのための勉強や情報収集をしています。

また、当たり前の話でもありますが、志望動機は明確にして欲しいと思います。面接時は、国連に入ってどこで何がしたいのかを自分の言葉でしっかりと話せる必要があります。

ただ、何をしているのか想像しづらいため、言葉にできない場合は、インターンシップや国連で働いている人からの話を聞くことをお勧めします。セミナー開催やLinkedInで直接あたってみるのもありだと思います。

国連での仕事は、タフな部分もありますが、得られる経験は非常に多く、国連でキャリアを進めていくこともできますし、中にはNGOに移ったり、世界銀行などの他の国際機関に移行されたりする方もたくさんいらっしゃいます。日本人がまだまだ相対的に少ない組織と言われており、関心ある方は是非チャレンジしていただきたいと思います!


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