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紳士の国からこんにちは

イギリスはよく紳士の国などと言われる。カントリージェントルマンがいて、とかファッションはイギリス流で、とかいろいろある。そうなのかな、と思うことがなんとなく多く、イギリスに紳士なんかいないし、日本の人にこれを言われると「紳士なんかいないから、紳士の国とか言ってんじゃん」ということにしている。

確かにファッションはすごい発達しているし、この国は女より男の方がよっぽどおしゃれで行き届いていると思っていい。イギリス人の女のおしゃれとかはあまり思い浮かばず、おしゃれな人と言えば男ばっかり浮かんできてしまう。お店に売っている靴下の柄から、上着の色やらなにやら、本当にため息のでるくらいおしゃれなのは、イギリスの紳士ものだと思っている。

が、お店の人なんかに言わせると「これ、日本人が復刻させたいみたいで、日本のバイヤーから問い合わせが多くてね、だから、こっちでも売ることにしたんだよ」などと言ってきて、日本の紳士物の雑誌などを見せられることも多くない。「日本語わからないけどね、うちの商品載っているから日本語の雑誌も買うときもあるんだ」などと言われ、そうなんだ、という感じである。わざわざお店に持ってきて置いていってくれる日本人もいるんだよとか言われたときもある。最近は日本人だけでなく、韓国の人もそういうのに積極的だよと言われたこともある。

ファッションだったら日本の方が進んでいるのかもしれないし、日本の方がイギリスの紳士ものに詳しいのかもしれない、そんなことを思うときもある。じゃあ、イギリスの紳士ってなんなの?という話になると「いません」としかいいようがない。

「それはあなたの付き合っている人たちが下流だからじゃないですか」とも日本の人から言われます。確かにそうかもしれませんが、上流も見てますが、みんながみんなヒューグラントみたいな人達ではないし、あの彼だってかなり性格がエキセントリックなので、「紳士」だともあまり思わない。彼の写真やらしぐさやら醸しだしている雰囲気はフォトジェニックだし、紳士っぽいが、素でテレビなどに出てくるのを見ると「皮肉屋」さんだなと思う。普通の女性などがうかつに近づくと、ばさっとやられて嫌な思いをして終わりだろうなあと思う。チャールズ王子だって上流中の上流だが、結構な皮肉屋さんだと思う。だから、普通の女の子だったダイアナさんだと物足らなくって、そういうのを流したり、いなしたり、その上からかぶせてくるような気がいのあるカミラの方が相性はよかったんだと思う。それくらいカミラさんは気が強いというかキャラクターが大人というか、そういうイメージがある。

上流になると変な人が多いような気がする。服装とかもいい加減でものすごいよれよれという感じの人が多いが、脱いだ上着のボロボロになったラベルを見たら超一流のテーラーのラベルが張ってあったとかそういう話が多いような気がする。ボリスなんかその典型でしょうか。普段よれよれだし髪型とかめちゃくちゃだが、着てるものとか、持ってる自転車とかは「いいもの」をさりげなく持っていたりするので、そういうものかと思うことが多い。上流はそういう人が多いような気がする。エキセントリックというか、ちょっと常識で測れない人が多い。日本の常識で測ると「嫌な奴」が結構多いような気がする。

ミスタービーン、ちょっと意地悪なんですよね。アレやっている人もものすごいインテリで上流の出。あれ、話すと余計意地悪さが出てしまうし、ひいてしまう人が出るから無言にしたのかな、とうがった見方をしているときもある。特に、英語の発音には、その人の背景や出身のクラスが一発でわかるという特徴があるから余計なのだろうなあ、、、、イギリスのコメディはこの辺の背景がわからないと楽しめないことが多い。

白洲次郎さんだっけね、戦前ケンブリッジに留学していたという実業家でものすごいおしゃれな人がいるけど、この人も普通に接したら単なる「嫌な奴」だったのではないかと思うことが非常に多い。エピソードなどを聞いていても「あんまり好きじゃない」ことが多いので。この人だから言える皮肉であるし、言われたほうはそのまま受け止めるしかないのだろうなあ、と思うことがある。(だから上流階級の人なんだろうな。)目下の人には優しかったのだろうが、なんというか、そういうところまでイギリス人だったのかなとは思う。この人の盟友と思われている吉田茂も英国仕込みとされている人だが、「うーん」なんだよね。紳士というよりは「皮肉屋」なんだよね。皮肉屋に国が背負えるかというか、これ、微妙で。

正直、イギリス人男性、上流に行けば行くほど、女性にはそこまで優しくないし、皮肉屋で意地悪が多いような気がする。ただし、欲があまりないというか、そこまでがめつくないので、淡々としている人が多いかな。でもその反対にものすごい意地汚いような気がするし、その辺は個人差があるのかな。

ただね、上に行けば行くほど、「冷たいな」と思うことが多いし、ある程度、「そういう人達だ」と割り切って付き合わないといけないような気がする。特に会社なんかの場合、「そこで切るんだ、ふーん」と思うことが結構多い。「替わりはいくらでもいますから」という感じなんだろうなあと思う。あと離婚などの経緯やらその後を見ていると、「あー冷たい冷たい」と思うことが非常に多い。これも「替わりはいくらでもいますから」なのであろう。バッサリ切って、終わりである。お金だってアメリカほどドッカンとはくれないのである。(ダイアナさんなんか、まさにこの典型だよね。)

日本男児でよく言われる美点というか、利点として「男らしい」「男気がある」「潔い」などという特質があるが、イギリス人の男性にこれを求めるのはかなり違うような気がしている。これの全部真逆なのである。潔くなく、男気もなく、女々しいし、ずるいし。ところ変われば人変わるではないが、この手の日本人が求める美徳、というものはあまりないと思っていいだろう。海外に来てだいぶたつが「その辺を美徳として他人に求めるというのは間違っていたんだな」と最近になってしみじみ思うことが多い。

前に、イギリス代表のサッカー選手3人が集まって、なぜ自分たちが代表だったときにイギリス代表が勝てなかったのかを話し合った番組だか、コーナーだかを見たことがある。メンバーはスティーブンジェラード(元リバプールのキャプテン、ワーキングクラス出身。)、リオファーディナンド(元マンチェスターユナイテッド、ペッカム(ロンドンの下町)出身洋服仕立て屋の息子)、フランクランパード(ロンドン出身、元チェルシーで裕福な家庭に生まれパブリックスクール卒業、頭もよく、上流なのに下流の人と一緒にサッカーやっていた人としてよく名前があがる。)だった。責任感が強く、真面目に自分の責任でこうなったみたいな話しっぷりをするジェラード、よくしゃべるがいまいち何が言いたいかよくわからかなったファーディナンド(この人とにかくおしゃべりというイメージがある。)、あまり話には入っていかず、人の話をじっくり聞いて話し出すランパード(でもあまり自分の責任だとか他人の責任だとかとは言わず、核心には入らずいいも悪いも言わない感じ。)と三社三様だった。これは、なんか、ジェラードの責任感が目立って、他二人は分が悪いよなあ、と思う。これだけ切り取ってみたら、ファーディナンドはお調子ものという感じだし(まあ、そうなんだけど、さ、もちろんリオはリオでいいところがあるのに。)、ランパードは冷たい人だし、責任は持ちたくない人なんだなと思われてしまう。

なんか、この番組を編集している人の意図も感じられて、なんとも言えなかった、が、割になんかわかりやすく「この人はこうなんだな」とわかってしまうような鼎談だった。だからと言ってステレオタイプ的に「この人はこう」「こういう生まれだからいこう」みたいに人を決めつけるのはちょっと違うような気もするけど、割に日本などよりも「この人はこうだからこう」みたいな決めつけはものすごい強いような気がする。その辺は頑固だ。(まあ、それでそれを裏切らないような行動をしてくれるから余計なんだろうなあ。)

前に仕事場で仲良くしていたアフリカ系のイギリス人の男性がいた。まだ若い子で、非常に向学心があり、何か国語もあやつり、その中に日本語が入っているという人だった。仕事に関してはあんまり向上心がなく、言われたことだけという感じの人だった。お金を貯めたら得意の語学を生かして、自分の興味ある国に移住して、仕事をしたいなあという感じの人だった。

お話していてとても面白い人で、残業などで一緒になると、そのあとパブに行ってお話などをすることが多かった。ムスリムの人だから、コーヒーを注文され、まあ、私もお酒を飲まないからお茶という感じだった。

ロンドンで結構若い人に人気のあるエリアで一人暮らしをしていたが、実家はもともと南ロンドンの結構貧困層が多いと言われている地域の出身だった。彼もワーキングクラスの出で、女好きのお父さんがいて、お母さんと子供をもうけるだけ設けて出て行ったという。それでもお父さんとは疎遠でもなく、月に何回かお父さんとその後妻さんの家にピザを持って遊びに行くと言っていた。後妻に子供が最近生まれたらしく、「年の離れた弟ができたんですよ」と言っていた。

とにかくお母さんはお父さんに去られて、金銭的には苦労をした、そして、自分のお姉さんが3人いるが、そのお姉さんが中学を出るとすぐに就職して、家計を助けるようになり、自分と弟がなんとか上の学校に行けるくらいまで頑張ってくれたという。

その人はよく、「なんでも願い事を一つかなえてくれるなら、一度イギリスの上流階級の暮らしを2年くらい満喫してやってみたい」と言っていた。「どんなに頑張っても、そこには行けないんです。お金があっても、学歴があってもそこには行けない世界があるんですよ、イギリスには。僕はイギリスに生まれて、イギリスの下級の暮らしはいやってほど見てますけど、上流の暮らしは見られないんです。同じイギリス人でも見られないのです。日本だとそこまでではないと思います。どこかで何か、イギリスほどは厳しくないと思いますし。」とも言っていた。

「でも上流は意地悪で自分のことばっかりしか考えてない人達がたくさんいるでしょ。そんなところ行ったってあなたの美点が全部なくなってしまうから行かないでよ」と私は言ってみた。考えてみれば、本当に考えてみれば、イギリスに来てほんとに紳士だと思った人が何人かいるが、この彼はその中に入るくらい人間的に本当によくできた子だし、人を思いやれることができる子だった。

「確かにそうかもしれないけど、そこに行かないとわからないところがあるんですよ。そういう意味ではイギリスの上流階級は秘境なんです。イギリスには秘境がアフリカとかに行かなくてもあったりするんですよ。」とも言っていた。うーん、よく見てるというかわかってる人が言っていることだなと思う。確かに私も部分だけ知ってるが、その先はどうなのかはわからない世界である。そういうちょっと「秘境」があるというのがこれまたイギリスなのかな。そしてもしかしたら、その秘境こそが紳士の国なのかもしれない。














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