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病院のなぞ

サッカーが好きでよく見て居るし、選手やらチームのSNSもよく見ている。時たまだが、怪我をして、手術などをしたplayerがベッドに横たわっていて「手術は成功しました。早くピッチに戻ってきてね」みたいなキャプションがついている投稿を見ることがある。

なんとなく、どのイングランドのチームの病院からの投稿もなんだか、なんというか、結構「あらら」と思うことが多い。

だいたい手術着の柄みたいなのでわかるが保険内の病院にいるような気がするし、背景に移っている医療器具などが古めかしい場合があって、逆に「こんな病院で大丈夫なの?」と思うことがある。有名選手なのに、相部屋でよく写真を見れば隣に誰かが明らかに寝てるんだろうな、と思うような写真もある。(選手によっては相部屋の人が何かの痛みで夜眠れないと言っていたので、自分が怪我してるのに一晩マッサージしてあげたとかそういう逸話がある人もいる。)

プレミアリーグの選手でSNSに乗っかるような選手なら、正直ものすごい年棒をもらっているはずだし、手術代も球団が出すんじゃないの?と思っているのだが、時々「あらら」という写真がある。

まあ、たぶんクラブがお金出すのでプライベートで治療を受けているのだろうが、病院によってはNHSの患者とごちゃまぜにされている場合もあるのだと思っているが、一瞬そういう写真などを見るとぎょっとする。

私がイギリスに来た頃、Girls aloud というガールバンドが全盛期だった。スパイスガールズで成功したイギリス芸能界が味をしめて、ガールバンドの二番煎じで作った雨後の竹の子の中の1グループだったような気がする。

ただし、このバンドについたスタッフがそれなりによかった。服装はエレガント路線(昔のマリリンモンローやブリジットバルドーあたりを元ネタにしたようなドレスや髪型、化粧が多かった。)で、曲はクラブDJが喜びそうな仕掛けのついたゴージャスな曲が多く、ヒットチャートをにぎわしていた。彼女たちのアルバム、活動を休止してからしばらくしたら、レコードで全部復刻されていた。それが何よりの評価であると思う。

このバンドのメンバーは正直、売れだしてからは、もうダンスや歌というよりは、どれだけ自分が格の高い男に見初められていい思いができるか、になんとなく比重がかかっていたように見える。毎日のように恋愛ネタで、タブロイド紙をにぎわせていたし、現に一人はその当時に飛ぶ鳥落とす勢いがあったチェルシーの確かDFと結婚した。

メンバーの中で一人、歌が抜群にうまく、なんとなく雰囲気が下町っぽいおばちゃん臭い雰囲気の人がいた。その人はフツーに見ればゴージャスだし、ビデオや歌はいいパートを持って行っていて、ファンにも人気があった人だったが、なんか、親しみやすい感じの人だった。サラという名前のメンバーだった。

2021年、コロナ禍でみんなが家に引きこもっていたとき、サラは自分のSNSで、「乳がんになった。転移した。たぶん致命傷になると思う」みたいなことを書いていた。もう先が長くないんだろうな、と思ったらある日、サラのSNSにお母さんが「亡くなりました」と書き込んでいた。39歳だった。

コロナで治療方針が予定通り、うまく行かず、何もかも手遅れになったみたいな話が後から出てきた。

なんだか、ちょっと悲しすぎるというか、今でもお気の毒だったなと思う。あれだけゴージャスでいろんな人と浮名を流し、テレビにもバンバンでて歌って踊っていた人がまさかガンで早世するとは、そして最後に面倒見て看取ったのが母親というのもなんだか、ちょっと寂しかった。(余計なお世話だが。)

しかし、だ、サラだって有名人だし、お金もあったろうし、コネもあったろうから、治療、ある程度受けられなかったのかな、とか、とも思うが、コロナ禍はもうそんなこと言ってられる状況でもなかったから、ついてなかった、ということなのだろうか。
正直、今でもこの手の話は結構ある。治療が全然進んでいない人、イギリス中にたくさんいる。

一緒に家をシェアしている人が今年の初め頃、ヘルニアの手術を受けた。お母さんが看病にやってきた。息子の病院がひどいと愚痴っていた。口の軽いお母さんで、「あれだけお金払って私的治療で、手術受けたのに、手術の後の経過を見るのに、1カ月以上待たないとダメみたい。」と愚痴っていて、私も意地悪だから、「結構お金払ったんですね」と言ったら、帰ってきた言葉が「1万6000ポンド」だった。1ポンド179円だったら、286万程度である。

普段からしまり屋というかあまりお金使わない人で、堅実な人だと思っていたが、まさかこんなところで貯金を吐き出すとは、と本人も思っているだろう。(保険入っていたかもしれないけど。)

私が普段からイギリスの病院についてなんだかよくわからないと思っていることを書いている。とにかくイギリスの病院のシステムは未だによくわからない。

まず、一応国民皆保険で、NHSという組織があり、基本的に治療は無料である。各個人、家の近所の病院に登録をし、何かあるとそこにかかりに行く。もし、近所の病院ですまない話になると、そこの医者が紹介状みたいなのを書いてくれ、NHS総合病院に行くことになる。

ただし、だ、すぐにでもNHSとつながってそれなりに治療を受けられれば、それでいいが、そうじゃないとなると話は難しくなってくる。そうなるとプライベートで治療(保険がきかない、無料ではない)という選択肢が出てくる。

保険会社に相談し、医者や施設を紹介してもらったり、あとよくあるパターンだが、午前中はNHSの医師であるが、午後はプライベートの先生になるという医者もいたりする。(似たようなパターンで週3日はxxクリニックで保険内治療をし、2日は総合病院でプライベートの先生になるなどという人もいる。)そういう医者は「僕は半分プライベートだから、保険外だったらすぐに見てあげられるけど」などと言う人もいたりして、この辺は本当にあたった医師やクリニックに命運が左右される。

医療保険も、会社で団体で入っているところもあれば、そういうものには入っていない会社もある。例えばだが、最近の傾向ではあるが、どちらかというと会社の福利厚生を減らして、会社の運営費用を減らす、その分出た利益は社員に還元しますという会社もあるし、雇われている人とその家族が適用される保険に入っている会社もあれば、本人だけ、などと言う会社もある。その辺は会社会社で異なるので、なんとも言えない。(そして転職が日本より多い社会なので、家族が「入ってるはず」などと思っていても入っていなかったりして、あとから大騒ぎになってしまうパターンもある。)

あと、これも病気によってだが、NHSが緊急だと認めれば、いろいろなものをすっ飛ばして、いきなり「明日手術です」という時もあったりする。

もうイギリスの場合、大きな病院に行くような病気になったら終わり、ある種病気はもうそこから先はギャンブルのような気がする。

日本のように安定して、みんながみんな同じサービスを受けられるわけではない。一応皆保険という話ではあるが、その地域の医療格差などもあり、全部が全部同じでないというところが悩ましいところではある。

ただ、ここが変なところだなと思うのだが、時々場合によってはものすごい医療をただで受けることができたりするのもイギリスだったりする。

お知り合いの方の話ではあるが、クリスマス休暇時に旦那さんの実家を訪問した際、子供がやけどを負った。かなりひどいやけどで、救急車で病院に行くことになった。旦那も自分の実家を離れて久しいので近隣の事情などはよく分からない。救急車はなぜか一番近くのNHS病院には行かず、ちょっと離れた別のNHS病院へ行ったという。

結果として、その病院の近くには大学があり、そこには医学部があった。で、そこの医学部の付属研究所はやけどや皮膚がんの研究で有名であり、救急隊に呼びだされた医者は簡単には見てもらえないくらい有名な医者で、セーター姿でやってきて、ちゃんと見てくれたという。しばらく通いでその病院に行かなくてはいけないので、滞在は長引いたが、やけどはちゃんと治り、治療費はなし、軟膏とパッチのお金及び処方箋のお金を払っただけで済んだという。ロンドンだったら、どうなっていたか、と言っていた。

まあ、私もイギリスでプライベートで歯を治療してもらい、日本に帰国した際、日本の歯医者さんに歯を見てもらったが、「あなたがひどいっていうからどんだけひどいのか楽しみにしていたのに、ちゃんとこれ治療されてますよ。お値段と見合った治療ですから」と言われて「そういうものなんだ」と納得したこともあった。

なので、まあ、みんなが言うほどひどいのか、となるとそこまでではないのかなとも思うが、NHSの欠点はとにかく「待たされる」「医療にアクセスできるまでの段階が不透明」というところであろうか。

まあ、そういうこともあり、人によっては、まあ、何か自分の身に起ったときにもう「なにも治療しない」という選択をする人も多いし、病院へ行かない人も多い。

コロナ前には下火にはなったが、ある時まではイギリスは代替療法全盛で、何かあればみんな「アロマオイル」「フラワーレメディ」「おばあちゃんの知恵的な民間療法」「サプリメント」などに頼る人が多かった。とにかくたくさん日本の女性がワーキングホリデーや留学でアロマテラピーやらフラワーレメディ、オーラソーマなどを学びに来ていた。そういう女性たくさん見た。

代替療法の前にちょっとしたスピリチュアルブームがあり、あちこちでスピリチュアルの集まり、スピリチュアルフェアのようなもの、スピリチュアルをテーマにしたカフェ、学校、教会などがたくさんあった。が、リーマンショックで人々がスピリチュアルにお金を全く落とさなくなり、すっかり影が薄くなった。

まあ、スピリチュアル好きな人達の行き場がなくなり、そういう人達が、代替療法にはまったりしていたのだと思う。なんとなくそういう感じだった。が、代替療法もコロナで陰が薄くなり、最近はそこまで聞かなくなった。まあ、もちろん代替療法する人もいるのであろうが、最近、今までたくさん売っていたオーガニックショップにあった、アロマオイルやフラワーレメディの棚なども縮小されており、専門書なども本屋が置かなくなったりと、今までとは扱いが変わってきたなと思うことしきりである。

(そして、この国に留学してくる人達もアロマや代替療法セラピーを熱心にやるふうでもなくなった。)

じゃあ、どうするかというと、何もしない、と言う人が増えたなという印象である。痛み止めくらいはもらうけど、それ以上は何もしない。積極的には治療をしないというやつである。

あと、お年寄りで結構多いのが、延命はしない、食べられなくなったら終わりにしますという人である。が、結構寝たきりになっても食べられるという人が多いんだよね、イギリス、なぜか。近所で101歳まで生きたおじいさんがいたが、ギリギリまでヨーグルトとくだいてペースト状にしていたナッツ類は食べていたという話なので、まあ、この辺はなんとも言えない。(基本的にNHSは胃ろうはまずしない。)

NHSに関わればストレスがたまるし、関わらなければまあ、もうそれでいいじゃんという考えである。プライベートだとお金が尽きたら終わり、それもどうなんだろうね、無限にあるわけではないからね、ということで何もしない、と言う人は結構多いような気がする。周りが慌てて「まだ若いのだから治療受けなさい」と無理やり病院に連れていかれる人もいるくらいである。

しかし、もうある程度の年になった人で「何もしない」という決意をした人がいたら、周囲は放っておく。まあ、何かあったときにということで、教会の牧師さんを紹介したり(この手の人達のお話を巡回して無料で聴くというボランティアなどをしている人もいたりする。)、ホスピスケアやターミナルケアなどを支援するチャリティもあるので、そういうのにつながって置きなよ、とアドバイスするくらいで、放っておくというのも結構多い。

何もしない、と言う人はとにかく増えたなと最近思うことが多く、時々だが、自分ももしかしたら何もしないという選択肢を持つことになるのかなと思うこともある。

つらつら書いたが、とにかく、イギリスの医療システムはなぞなのである。
謎が解けるあたりで、たぶん、私は死んでいるのかと思うくらいなぞである。





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