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ガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』パーカッション版

以前にラヴェルのピアノコンチェルトのオケパートをパーカッションヴァージョンで演奏されたコンサートを紹介した。(記事はここ)なんと今回はガーシュウィンの『ラプソディ・イン・ブルー』パーカッション版!

場所は前回と同じラ・スカラ・パリ。ピアニスト、ヴァンサン・ミュサ Vincent Mussat の初ソロアルバムリリース記念コンサートの第二部で披露された。

ラヴェルとデュティユー

第一部はアルバムの中からモーリス・ラヴェル Maurice Ravel の『水の戯れ』と『夜のガスパール』、アンリ・デュティユー Henri Dutilleux の『Au gré des ondes』と、ガーシュウィン George Gershwin。デュティユーは流れるような曲想の6曲からなる組曲で、曲名にある ondes は掛け言葉になっている。onde(複数形で使うことがほとんど)とは、波、波動、電波などうねりのあるものを指すので、文字面だけで無難に訳すと「波のまにまに」とか「波動の中で」などとなる。しかし実はこれらの曲はラジオの番組の合間に流す目的で作曲されたものなので、「電波のまにまに」と訳すのが適当かもしれない。(副題は「6つのラジオ用小品」。) いずれにせよフランス語独自の命名で、さらに音楽的にも ondes という流動性 (メロディだけでなくリズムにおける流動性も) が特徴なので、個人的にはあえて訳さずそのまま置いておきたいと思う。

ヴァンサン・ミュサの演奏は、ラヴェルはとてもいいのだが、いまいち拍感が抜け切れていないかな、という印象を受けた。2〜3週間前にCDを受け取って聴いていたのだが、やはり同じ印象を受けていた。また、この日は曲に没頭していないような感じもあった。
ただコンサート後に、聴衆として聴きに来ていた別のピアニストや、コンサートシーズンをオーガナイズしている友人などと話をしたところ、彼らはそんな印象は受けなかったのとのこと。個人的な趣味も入ってくるので何とも言えない。

デュティユーの小品はところどころにサティやプーランクがちらっと顔を出していて、フランス・パリのエスプリに溢れたエレガンスが特徴。フランス語で話す音楽と言えようか。ミュサはそれをとてもうまく表現していて感服した。曲ごとに変わる表情もそれぞれがしっくりきている上、6曲をただ次々と演奏すると言うのではなく、1つのサイクルとして有機的に捉えているのが魅力。第5曲の「バッハへのオマージュ」は、メロディがどちらかというとベルカントオペラのカヴァティーナのように聴こえる。ラヴェルに比べると、デュティユーの方がずっと手の内に入っていて、表現もより幅が広く自由だと思った。

CDでは、他にデュティユーのソナタが入っている。第1楽章のテーマはなんとなくジャズっぽい揺れが魅力。続く2楽章は瞑想風でドビュッシーやメシアンを思わせる。終楽章の「コラールと変奏曲」は次々と変わる変奏曲のキャラクターが面白く、ここでもジャズに通じるリズム感が踊っている。全体的に大いに納得できる好演。

どちらも演奏機会が少ない曲なので、ぜひCDでお聴きすることをお勧めする。

パーカンション版『ラプソディ・イン・ブルー』

最後はガーシュインの『ラプソディ・イン・ブルー』。パーカンション版への編曲は、前回のラヴェルと同様、ピエール=オリヴィエ・シュミット Pierre-Olivier Schmitt によるもので、演奏はラ・スカラ・パリが提携を組んで教育プログラムを進める音楽院のパーカッションのクラスの生徒たち。

編曲は、ラヴェルに比べると少々精彩に欠けていたように思った。この曲のオケ部分は、ジャズのビッグバンド的な要素がふんだんに問い入れられているが、それをマリンバやヴィブラフォンをはじめとする打鍵楽器と、ティンパニや太鼓類だけで表現するのは難しいのかもしれない。とは言え、編曲自体は大変に優れたもので、そのセンスには脱帽。パーカッショニストたちもところどころつめが浅い部分はあったが、学校でのいわゆる発表会ではなく、聴衆を迎えてのコンサートで演奏することで、貴重な体験を積めただろう。彼らの中には近い将来本格的に音楽院で学びたい人もいるとのこと。ピアノやヴァイオリンはともかく、パーカッションでこのような演奏の機会を持てるのは幸運と言えよう。
ピアノも、オーケストラとは異なる響きやタイミングを考慮する必要があり、相当なアダプテーションが要求されると察するが、ミュサは彼らに合わせつつおおらかに主張していた。聞くところによると、彼は1ヶ月のアメリカ公演を終えてフランスに戻ったばかりだそうだ。アメリカでは1日ごとに一つの大都市で様々なプログラムを演奏したという。
最近はクラシックベースの演奏家でもジャンルを超えた演奏ができる若手がどんどん増えているが、彼もその一人らしく、即興などもするとのこと。一度マルチジャンルのコンサートを聴いてみたいと思った。

写真は全て © Victoria Okada (禁無断転載)



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