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ラ・フォル・ジュルネ、 本場ナント レポート その2 

今年のフォルジュルネは、1月31日の前夜祭(公式プログラムにはないので、おそらく招待制)に始まり、2月1日水曜日から5日日曜日まで5日間にわたって開催されました。私は金・土・日の週末に現地取材しました。

朝9時半のTGV(フランスの新幹線)で、2時間あまりでナントに到着。電車の中で聴きたいコンサートを全てリストアップし(この時点で一日のコンサート数は約20)、そこから時間帯が重なるものの優先順位を決めて、1日5つから7つ程度に絞っていくという方法をとりました。

15世紀建造のブルターニュ公の城。ナント駅の北口を出て左にまっすぐ行くとすぐに見えてくる。
© Victoria Okada

以前はあらゆる時間帯にいろんなコンサートがひしめき合っていて、プレス関係者のバッジを最大限に利用して、あるコンサートを半分だけ聴いて次にハシゴ、ということもできました。が、今年は、何よりも人の流れがスムーズにいくことを優先してタイムテーブルを組んだということで、以前のような強行ハシゴがちょっと難しくなったように感じました。

それでも午後から入った2月3日金曜日は、7つのコンサートを聴きました!時系列を追って感想を述べます。

ちなみに、これまでのタイムテーブルは大きな紙を折りたたんだもので使いにくかったのですが、今年は1ページがA5サイズの屏風状で、とても見やすくなりました。

新しくなったタイムテーブル。後方右に見えているのは
フランス・ミュージック局の特設ラジオスタジオ。© Victoria Okada

会場のシテ・デ・コングレに着いて、まずは腹ごしらえ。プレス用のバッジをもらってから、アーティスト、スタッフ、ジャーナリスト用の食堂に直行。後ろのテーブルでは、最近独自の「オルケストル・コンスエロ Orchestre Consuelo」を創設して本格的に指揮に乗り出したチェロのヴィクトル・ジュリアン=ラフェリエール Victor Julien-Lafférière(エリザベート王妃国際コンクール第1回チェロ部門優勝)と、ピアニストのジョナス・ヴィトー Jonas Vitaud が、食事中も熱心にお勉強していました。

食事の時間も惜しんで楽想を練るヴィクトル・ジュリアン=ラフェリエール(左)と
ジョナス・ヴィトー(右)© Victoria Okada

トリオ・エリオス

最初に聴いたコンサートでは、トリオ・エリオス Trio Hélios が他の3人の若手を招き、「ファンタスマゴリー」(異世界的な幻想を示す言葉)のテーマでメンデルスゾーンの『真夏の夜の夢』から「夜想曲」、エルンスト・ブロッホの『ピアノトリオのための3つの夜想曲』、そしてワグナーの『ジークフリード牧歌』を演奏。
トリオ・エリオスのメンバーはカミーユ・フォントノー Camille Fonteneau(vn)、ラファエル・ジュアン Raphaël Jouan(vc)、アレクシ・グルネルAlexis Gournel(p)。結成は10年ほど前の学生時代にさかのぼります。今、ものすごい勢いがあるフランスの若手トリオの中でもトップクラスです。3人の招待演奏家はマノン・ガリー Manon Galy(vn)、ヴィオレーヌ・デスペルー Violaine Despeyroux(viola)、マキシム・ケネソン Maxim Quennesson(vc)で、彼らもフランスの室内楽シーンをリードする若手。演奏は、エネルギーの使い方が秀逸。つまり、曲の構成力に長けており、曲が内包しているエネルギーをうまく引き出す力が素晴らしい。最初のコンサートで彼らを聴いて大いに満足でした。

トリオ・エリオスと招待演奏家 © Victoria Okada

トリオ・パスカル

パリ国立高等音楽院で多くの逸材を輩出している有名ピアノ教授、ドニ・パスカル Denis Pascal と、その息子オレリアン Aurélien (vc) とアレクサンドル Alexandre (vn) からなるファミリートリオ。オレリアンは、エリザベート王妃国際コンクールの第1回チェロ部門で入賞している(前出のジュリアン=ラフェリエールが優勝した年です)ので、日本でもご存知の方もいると思います。ちなみに彼は今年の「ヴィクトワール・クラシック音楽大賞」の器楽部門新人賞にノミネートされています。
プログラムはシューベルト 2曲。このコンサートは今年ハシゴできた数少ないコンサートの一つで、最初の『ノットゥルノ』D.897 op.148 だけを聴きました。ちなみに聴けなかったのはピアノトリオ第1番。
彼らはずっと前から家族でいつも一緒に弾いていたこともあり、息のぴったり具合が誠に素晴らしいです。アレクサンドルとオレリアンは天性としか言いようのない見事な音楽性を持っており(とくにオレリアン)、もし彼らが日本で演奏する機会があるのなら、是非聴かれることを強く強くお勧めします。

トリオ・パスカル © Bernard Martinez

サロメ・ガスランとヴィオールのコンソート

あんなにうまいトリオ・パスカルをなぜ最後まで聴かなかったかというと、ヴィオラ・ダ・ガンバのサロメ・ガスラン Salomé Gasselin を何としても聴きたかったから。
彼女は1月にミラーレ・レーベル Mirare から初録音を出し、一挙に名前を知られるようになった新鋭です。
プログラムも魅力的。中世からバロック期にかけて、ヨーロッパでは夜中に一旦起きて軽く活動し、再び寝床につくという習慣が一般化していたことが最近わかってきたのですが、それをコンサートに反映させたもの。音楽愛好家が夜中に起き上がったときにどんな曲を演奏していたかを想像してみたというわけです。ルイ・マルシャン Louis Marchand、アンリ・デュモン Henry Dumont、ジャック・ボワヴァン Jacques Boyvin、ニコラ・ド・グリニー Nicolas de Grigny、ジャン=アダム・ギラン Jean-Adam Guilain、ルイ=ニコラ・ド・クレランボー Louis-Nicolas de Clérambault、ルイ・クープラン Louis Couperin、ピエール・デュ・マージュ Pierre Du Mage、そして単に「クープラン」(おそらくどのクープランか判定されていないのでしょう)の鍵盤曲を集めて組曲に構成し、クラヴサン付きのヴィオラ・ダ・ガンバのコンソートに編曲しています。色々な作曲家のいろいろな曲を集めて一つの組曲にするというのは当時は普通に行われていました。初めて名を聞く作曲家もいますが、選曲はジャストで、若い世代の演奏家が持っている見識と様式感の深さにはいつもただただ感心するばかりです。
演奏は、サロメ・ガスランの他に、アンドレアス・リノス Andreas Linos (dessus & basse de viole)、マティアス・フェレ Mathias Ferré (ténor de viole)、ジュリー・ドゥサン Julie Dessaint (basse de viole)、そしてクラヴサンのジュスタン・テイラー Justin Taylor。皆、著名なアンサンブルで活躍する演奏家ばかりです。
こういうプログラムは知的好奇心を大いに刺激されると同時に、彼らの完成された演奏は深い満足感を満たしてくれます。フォルジュルネが提供する多様性を実感できるコンサートでした。

サロメ・ガスラン © Romain Charrier-La Folle Journee 2023
コンサートの後、サイン会でのサロメ・ガスランとジュスタン・テイラー
© Victoria Okada

金曜日の続きは次の記事にて。

トップ写真は、フォルジュルネ常連のイギリスのアカペラヴォーカルグループ 「Voces 8」 © Romain Charrier-La Folle Journee 2023




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