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ゲームコーナーに行こう

 心の中にゲームコーナーがある。

洗練されたいわゆるアミューズメントパークではなく、無駄に広くてスカスカなゲームコーナー。忙しく殺伐とした現実に追い詰められた時、わたしは心のゲームコーナーへと向かう。

18歳の夏休み、親友と呼べる友もなく、迫りくる将来(スラッシュ・メタル志望)に漠然とした不安を抱きながら無為に毎日を過ごしていた。
時折バイクで外出した。「友達と遊んで来る。」
当然友達はいない。あまり家にばっかいると両親に友達がいない事がバレると思ったからだ。きっと父は失望し母は悲しむだろう。

雄々しく息づく稲穂の緑の中を一直線に伸びる幅2.5mほどの道路は車がすれ違う事ができない。しかし、対向車が来るかどうかは1km先からでも分かる程、遮るものが何もない一面の田んぼ。空の青さには入道雲がますます大きく睨みを利かせ、わたしは一刻も早くこの美しくも恐ろしい景色から逃れたかった!自分のしている事が優しい両親への裏切りだとはっきり自覚していた。

無駄に1時間近くバイクを走らせ、家から何十kmも離れた勝田市(現ひたちなか市)のデパート、サンバード長崎屋の島村楽器で100円のギターピックを買った。時間は午後2時。──ふと、無性にゲームがやりたくなり、長崎屋のゲームコーナーを見ると格闘ゲーム全盛期ということもあり楽しそうな中高生たちで賑わっていたのでわたしはデパートを後にした。

夕方4時頃、地元の町に着いた。わたしはバイクを路上に停め、「亀宗(かめそう)」のゲームコーナーに足を向けた。「亀宗」は3階建ての衣料品店で、子供用から大人用までだいたいの服や靴が揃えてある店。21世紀を待たずして閉店してしまったが、1993年当時はまだ長い歴史とともに地元に強く根付いていた。
しかし中高生はまずここのゲームコーナーには来ない。「ストリートファイターⅡダッシュターボ」がないからだ。代わりにあるのは「獣王記」「オペレーションウルフ」「サイドアーム」「ブラックドラゴン」「レインボーアイランド」「コンバットスクール」など当時でも微妙に古く感じるゲームばかり。しかしわたしは何でもいいからゲームがやりたかった。
何でもいいから不安を忘れてしまいたかった。

西日が差し込む3階ゲームコーナー。客は一人も居ず、スカスカの空間がより一層広く感じる。ゲーム筐体と筐体の間はやけにスペースがあり、テレビで見た北朝鮮のスーパーの陳列のようだ。陽に焼けたエレメカのパネルはプラスチックの塗装が浮き上がり、窓際の新幹線の乗り物は夕陽をバックに静かに乗客を待ち続けている。
その時じゃんけんマシンの声が響き渡った。

『ミテー ミテー ミテー アッソボ!』

見て、見て、見て、遊ぼう──

本当は俺も見て欲しい!遊んで欲しい!
しかし誰もいないので晩ごはんまで「獣王記」を一人でやりまくって帰った。

──忙しく殺伐とした現実に追い詰められた時はこの事を思い出す。
さて、そんなわたしだがやはり息子にも心の中にゲームコーナーを持って欲しく、大きくなってきたのでたまに散歩がてらゲームコーナーに連れて行く。すると先日
「コレヤリターイ」
と言うので『太鼓の達人』にお金を入れた。すると
「オトウサンガヤッテー」
と言うのでやろうとしたら知ってる曲がねえ!と思ったら「アンパンマンマーチ」がギリあったのでやった。すると息子が全然見てくれず隣のガチャガチャを凝視しているので「いきなり一人でアンパンマンを叩いているヤバいおっさん」みたいになってきた。真冬にも関わらず額に大粒の汗が浮かぶ。ちょっと息子、恥ずかしいから見てて!見て!見て!見て!だめだ。プレイ途中にも関わらず逃亡しました。

おわり






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