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サイバー作業員 キレられる

 作業員同士のケンカは嫌なものだ。身内ならまだしも、業者x業者のケンカは長く深い遺恨を残し現場の進捗にも悪影響を及ぼす。
ある現場で内装ボード屋さんが電気工事屋さんにキレた。理由は単に邪魔だったからだそうだ。ボード屋さんは工事が遅れていて気が立っていた。電気屋さんは黙って引き下がったが、次の日の朝、ボード屋さんのエアタッカー(空気圧ででかいホッチキスを撃ってボードを取り付ける道具)用のコンプレッサー(空気を圧縮する機械)のキャプタイヤ(電気コード)が、1つ残らず機械の根元から切断されているのが発見された。これをやられては断線箇所を途中で結び直しすることができない。修理にはコンプレッサー(1台だいたい15万)を分解するしかなく、内装工事はストップ、犯人は誰か明らかだったが電気屋さんはボード屋さんからの数々のいじめに近い嫌がらせの証拠を提示、番頭どころか社長同士の話し合いにまで発展、その間全部の工事がほぼストップ。結局みんな残業になった。2ヶ月ほど現場に泊まり込んだ。
現場はチームプレイ、多くの会社が入り交じって1つの建物を竣工へと導くためには我先にとがむしゃらに突き進むだけでなく譲り合いの心も大切なのだ。
 
 さてわたしも現場でのケンカに無縁だったわけではない。職長という立場上数々のケンカを仲裁し、他業者に頭を下げに行った事も多いが、わたし自身が作業中チョクでキレられた事も多い。
ある時急に予定にない足場解体が始まり、解体しながらのガラスクリーニングを組に依頼されたので慌てて道具を持って解体中の足場に上り必死に作業していたが、多勢(鳶職の方15人)に無勢(わたし1人)、みるみるうちに足場が無くなってゆく。
「ごめん鳶さんちょっと待って!そこまだクリーニングしてないんですけど!」
と言うと
「ハア!? 『ごめん』じゃねえだろ~!?
『すみません』だろうが!!」
とキレられた。
動揺してモタつくわたしにさらに追い打ちをかけるように、
「日本人みんな勉強して大学行っていい会社入る。お前日本人だけどパカだからこんな仕事してる!!」
と、海外から働きに来たと思われる若い鳶さんに怒鳴られた。
わたしは頭の中で「そうだよパカだよ」「それが どうしたパカだよ」とパーク・マンサーのラップを繰り返す事で難を逃れた。仕事はギリ終わった。

本文とは関係ありません



またある時、鉄骨梁の耐火被服の欠損が多数発覚し、このままでは消防検査に通らないので至急との依頼を受け耐火補修の材料と道具を持って現場に行ったところ、もうシステム天井工事が始まっていてフロアーには天台↓が敷き詰められていた。システム天井を貼られては天井裏で作業することは不可能に近い。

こんなの

耐火補修は天井内の上のほう、鉄骨梁に対して行うゆえ電気で動く4.5m高所作業車を使うが、これでは車が走れない。仕方がないので天台をどかしたり畳んだりしていたら、

「ピッピロポペポペポー ポポパッポ ピロリロパラララ ポポポッポパポ」


ヘルメットからはみ出た赤やピンクや青に染めあげた髪、上下セットアップのギラギラジャージを捲り上げ日サロで焼いた肌を露出させたサイバーギャル夫の集団が、大音量の音楽を鳴らしながらあらわれた!システム天井屋さんだ。音楽はかわいらしくピコピコしている。

「オッサン何やってんだテメー!」「勝手にウチの天台イジってんじゃネー!」

サイバー軍団にキレられるわたし。
「すみません!耐火補修終わったらすぐ戻します!」
しかしこの音楽、どこかで聴いたことがある…

あっ ドラクエⅣのマーニャとミネアの戦闘シーンのBGMだ。(第4章)

…ドラクエⅣの戦闘シーンのBGMをバックにサイバーギャル夫軍団の罵声を浴びながら必死で耐火被服を補修するわたし。(それにしてもギャル夫の間ではこのような原理主義的チップチューンが流行っているのか…?)などと思っていたら

「オイガキウルセエぞ!!!!!!!!!!!!!!!!」

と、大地を揺るがすような怒号が鳴り響いた。
現場ヒエラルキーの最上位中の最上位、鳶職の職長さんだ。

サイバーギャル夫Aはドラクエのおんがくをけした!
サイバーギャル夫Bはおどろきすくみあがっている!
サイバーギャル夫Cはおどろきすくみあがっている!
サイバーギャル夫Dはにげだした!

とんかつはざんぎょうした!


おわり


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