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『 青いパパイヤの香り』映画レビュー(ネタバレ、感想)

原題:  L'odeur de la papaye verte

製作年:1993年

監督:トラン・アン・ユン


レビュアー:守山 修平(現代社会学部)


この映画はムイという少女の生き様が中心のストーリーである。ムイは子どもの頃から大きな屋敷の使用人で、そこで様々な人に出会い様々な経験をする。
 この映画はセリフがとても少なく、ストーリーの展開もあまりない。基本的にムイの働く様子や日常だけが描かれていた。ただ観ている映像からは感じるものがたくさんあった。まずその映像からは、生暖かい風や湿度の高いジメジメしたら空気感、虫の囀り、緑豊かな植物など自然の雰囲気を画面越しにリアルに感じることができた。それはきっと、1993年に作られた映画にも関わらず映像がクリアなことと音質が良いおかげだと思う。ストーリーの内容があまりなくても飽きずにずっと観ていられるというのがこの映画の魅力なのではないかと考えた。特別大きな出来事が起こったり、急な展開があったりしないので、なんとなくぼやーっと映像を観ている感じで、それでも気付けば心が癒されていた。youtubeなどでよくある作業用の映像のような感じをこの映画から受けた。
 またこの映画を観ることで、その当時(1951年)のベトナムの普段の生活感を感じることができるのも一つの魅力だと思った。この映画はベトナムが舞台となっているが、撮影自体はフランスのパリで行われた。それを知ったのはこの映画を観た後だが、そのことを知らなくてもベトナムの生活感を感じることができたのは、セットによる表現力や空気感の作り方に相当な努力があったのだと考えられる。
 この映画の良くない点としては、登場人物の名前があまり出てこないので、人物を顔で判別しなくてはならないという点だ。特に日本人は字幕で見るしかないので名前を覚えるのが難しく、最後まで覚えられない人物もいた。映画を観た後感想を共有しようとしても、お互いに思い浮かべているのが同じ人物なのか分からずやりにくい部分があった。もう少し登場人物の名前を呼ぶシーンを増やして欲しかったと感じた。
 これは観た私の捉え方に問題があったのかもしれないが、この映画の監督は映画を観た私たちに何を伝えようとしていたのかがまったく分からず疑問が残った。また、パパイヤが登場するシーンはいくつかあったが、なぜ「青いパパイヤの香り」というタイトルなのかも、考察も浮かばないくらい分からない。この映画監督は、言葉ではなく目にしたもので何かを分からせようとしていたのかもしれないが、私にはその理解力はなかった。セリフが少なくストーリーに展開がないということは、魅力であり難点でもあると思った。
 このように私はこの映画の良くないと思った点がいくつかあったが、他のレビューを見てみると評価は割と高かった。また、先日ベトナム人学生とオンラインで交流をした際、この映画について聞いてみると、「ベトナムでも若い世代にはあまり知られていないような映画だけど、私はこの映画は素晴らしいと思う」と述べていた。なのでこの映画は、深く映画に入り込みしっかりと考察できる人(映画玄人やベトナム人)には好まれる作品だが、映画初心者やベトナム語が分からない日本人にオススメするのは少し厳しい作品なのではないかと考えた。しかし、私のような映画初心者にとって理解するのが難しい作品だからこそ、一度観ていろいろな考察をした後もう一度見直すことにより、映画のおもしろさがより伝わってくるのではないかと思った。なので、この映画を観ていろんな考察や疑問点が残った人には、是非もう一度その疑問や考察を持った状態でこの映画を見直して欲しいと思う。

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