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【本編まとめ読み】『ナイキスTAS』6節「夢月、考える」

夢月「――さぁ! 今日からどうする!? 夢想師の修行って何をすれば良いんだ!? って言うか、今までなんで何にも教えてくれなかったんだ!? こんなことになる前に始めておけば――」

吏星「慌てるな。順を追って説明する。そもそも夢想師の才覚とは本来、自分で気付くものであって他者に教えられて学ぶものではない。だから、明確にこうすればできるというやり方は存在しない。それがお前に何も教えてこなかった理由だ」
夢月「そ、そうだったんだ。難しいな」
蓮夜「まぁ倣うより慣れろ、見て覚えろってやつ? これで意外と職人気質な世界なんだよねぇ」

吏星「俺達が教えられるのは、成功に至るまでのヒントだけだ。役に立つかもしれないし、そうでないかもしれない。それを決めるのはお前自身だ、早乙女。……頼んだぞ」
夢月「プ、プレッシャーかかるなぁ……。けど、頑張ってみせるよ!」
そら「頑張ってね、夢月くん」
吏星「ひとまず、夢想師が他人の夢の中で何をするのか、改めて確認しておこう」

吏星「想像力をつけるには知識を持っておくことが大前提になる。……感覚派のお前向きではないかもしれんが、だからこそ今は必要だろう」
夢月「……分かった。正直、避けて通ってた部分ではあると思うし……」
蓮夜「フフッ、急がば回れ。基本は大事だからね」

吏星「夢想師の仕事――"夢入り"とは、文字通り他人の夢に入り込むことを指す。心に巣食った夢魔を直接叩くのが目的だ」
蓮夜「心のパイプを繋いで、患者の夢の世界にアクセスする。そうして夢空間を現出することで、物理的な行動が可能になるんだ」

吏星「早乙女が普段やっているのは、最初の心のパイプを繋ぐところまで。実際は夢の世界にアクセスするところまではできるはずだが……」
夢月「あれ、そうだったの?」

吏星「空間の現出ができなければ、肝心の治療まで至れないからな。不要に患者の心に触れる人間を増やしても、不安を煽るだけで意味がない」
夢月「うう……きびしー……」

蓮夜「逆に言えば課題は明確さ。夢空間の現出さえできれば、夢魔を狩るのは遊びみたいなものだし」
吏星「自分を基準にして物を語るのはやめろ。全てに必要なノウハウはある」

夢月「吏星や蓮夜は夢の世界でどんなことしてるんだ? いやまず、夢の世界ってどんな感じなんだ、かな? 今まで聞いても全然教えてくれなかっただろ? "いつもと変わらん"とか言ってさ!」

吏星「どんな感じ、か。空間さえ上手く現出できれば、実際ほとんど現実と変わらんのだが……」
蓮夜「吏星は空間の構築が上手すぎるから、あんまり参考にならないかもね。かと言って僕は慣れすぎてて、やっぱり参考にならない」

蓮夜「……ここは、実際に治療を受けたそらちゃんに聞くべきかな?」
そら「わ、私ですか?」
蓮夜「うん。新鮮な感想をお願いね」

夢月「そら! 教えて! どういう感じだった!?」
そら「そ、そうだな……」

そら「現実と変わらないっていうのは本当にそうだったかも。夢だって言われても信じられないくらい、はっきりしてたと思う」

夢月「…………」
そら「でも何だかそこにいる私は、いつもの自分じゃないみたいで……。良くも悪くも、色んなことに素直に反応できてた気がする……かな」
吏星「! なるほど、それは貴重な感想だ」

吏星「夢空間は患者の最も根源的な部分から作り出されるからな。素直な反応ができるというのは的を射ているはずだ。流石だな天崎。これは俺も1つ勉強になった」
そら「え、あ、ありがとうございます……?」
夢月「……あれ? もしかして話がズレてる?」

蓮夜「続けて良いよ、そらちゃん」
そら「は、はい。あとは……」

「ちょっと寝不足っぽい感じっていうのかな。はっきりしているけど、視界がぼんやりしているというか。意識ははっきりしていても……すっきりはしてなかったかも……?」
夢月「それ、どういう意味?」
そら「ご、ごめん。やっぱり分かりにくかったよね」
蓮夜「分かりやすかったけどなぁ」

吏星「要は完璧に動けるわけではないということだ。天崎は自分の夢の世界だったからその程度で済んでいるが、夢想師は他人の夢の中で動かなければならない。間の現出が甘いとそれだけ夢の世界での行動が制限されてしまうから、夢魔を祓うのも難しくなる」

吏星「……最悪、空間が崩壊して1からやり直しというパターンもあるからな」
そら「あ……」
吏星「せ、精神だけでなく肉体的な事情も現出には絡んでくる。ベストを目指そうと思うと、意外と調整が難しいんだ。……すまん」

蓮夜「ちなみに、空間の崩壊に夢想師が巻き込まれると、しばらく意識を持って行かれちゃうから注意してね。なくなったら自分から離脱するのが基本だよ」
夢月「あ、頭が割れそうだ……」

夢月「……そうだ夢魔! 夢魔を祓う時は何をしてるんだ?」
吏星「夢の世界では、俺達と同じように夢魔も実体を持つ。だから武器を用意して、直接攻撃すればいいだけだ」

吏星「夢想師は患者のイメージできる範囲の中でなら自由に行動可能だ。武器を即座に生成できるし、魔法のように光弾を打ち出したりもできる」
夢月「つまりは明晰夢……みたいな?」
吏星「考え方としてはそれでいい。だがあくまでも"他人の夢の中にいる"ということだけは忘れるな」

夢月「わ、分かった」
吏星「現実では不可能な芸当もこなせるが、それだけに自身の想像力が試される。ある程度何でもできるとは言え、そこに向き不向きはあるからな。最終的には自分に合ったやり方を、自分で見つけていかなければならない」

蓮夜「特に今回は子供の治療になるからね。できると思っていたことができなかったという状況にも陥りやすい。ヨウタくんが理解できることを事前にリサーチして、使う選択肢を絞っておいた方が確実かもね」
吏星「早乙女にいきなりそんな器用なことができるとは思えんがな」

夢月「えーっと、だからその……吏星と蓮夜にも必殺技? みたいなのがあるってこと?」
吏星「ひ、必殺技……?」

蓮夜「! もちろんあるよ。例えば吏星はカタストロフィジエンドって技名をつけてて――」
吏星「ない! つけていない!」

そら「吏星さんは確か、夢魔を檻に閉じ込めてから攻撃するんでしたよね?
夢月「あ、そっか。そらは2人が戦うところも見てるんだったな」
そら「うん、一応ね」

蓮夜「檻に入れる時「カタストロフィ……」って言ってたでしょ?」
そら「え? えっと……言ってましたっけ?」
吏星「天崎、それは本当に確認が必要か?」
そら「す、すみません」

吏星「まぁ必殺技ではないが……夢想師はそれぞれ得意技――と呼ぶべき一連の流れを持っていることは多い。天崎が言ってくれた通りだが、俺はまず檻のようなもので対象を囲ってから攻撃するやり方を取っている」

吏星「夢魔の中には特殊な性質を持ったものもいるからな。その確認と確実な駆除を兼ねて、このやり方を徹底しているんだ」
蓮夜「僕は吏星みたいにまだるっこしいのは嫌いだからね。種類や大きさ問わず一網打尽ってことが多いかな」

夢月「そ、そんなことできるんだ……」
そら「まぁ……すごかったよ……」
夢月「すごかったんだ……」
そら「うん……」

蓮夜「ちなみに技名はね―」
吏星「言わなくて良いぞ。いつまで引っ張るつもりだ」

紫吹はこれでも、夢魔の駆除についてはスペシャリストの域にいる夢想師だ。今、話を聞くのはやめておいた方が良い。自信を無くすだけだろう」
蓮夜「(ドヤ顔)」

夢月「うーん、何となくイメージは湧いたけど……。結局、俺は今から何をしたら良いんだ……?」
吏星「最初に言った通りだが、俺達が授けられるのはヒントだけ。どうしたら良いかは、お前が自分で気付いていかなければならんことだ」

夢月「うーん……じゃあ吏星と蓮夜はどうやってできるようになったんだよ。それくらい教えてくれたって良いだろ?」
吏星「……俺の場合、どうしてできるようになったか自分にも分からん」

吏星「ただ……やらざるを得なかったからできるようになっただけだ」
夢月「??? 蓮夜はどうなんだ?」
蓮夜「僕? 昔のことすぎて忘れちゃったな」

蓮夜「――あ、でももしかしたら最初からできてたかもしれない」
夢月「えーどういうことだよ! そんなんじゃ何も分からないよ! 2人ともいつも言ってること難しすぎるんだよな~……!」

そら(夢月くん、私が来る前はこの2人と1人きりで話してたんだよね……。――苦労してたんだろうなぁ……)

蓮夜「……夢月ちゃんの場合やっぱり、人を想うことから考えていくのが良いと思う」
夢月「想うこと?」

蓮夜「うん。心のパイプを繋ぐのが上手いということは……それだけ相手の心をしっかり掴んでいるってことさ。なのに空間の現出が上手く行かないというのは、その気持ちのコントロールが上手くできていないってことだと思う」
夢月「コントロール……」

蓮夜「空間の現出は、基本的に患者の心の在り方を理解して固める作業なんだ。夢月ちゃんはその"理解"の部分がまだまだ甘いってことかもしれないね」
夢月「う~ん? だ、だから難しいってば~」

吏星「相手の本心や本当に望んでいることを考える……といったところだな。実際、お前は少し前のめりすぎる節がある。力の抜き方を覚えた方がいい」

夢月「……もう少し分かりやすく!」
吏星「大人になれ」
夢月「余計分かんないよ!?」

蓮夜「フフッ、まぁ空間の現出に関しては吏星が最高のお手本になるからね。夢月ちゃんが思う、吏星の良いところを参考にしてみたら良いんじゃない?」
夢月「な、なるほどなるほど……!」

吏星「……あまりジロジロ見るんじゃない」

そら「……蓮夜さんって意外とアドバイス上手ですよね」
蓮夜「そう? 吏星と比べてそう見えるだけじゃない?」
そら(本当はもっと具体的なこと言えるんじゃないのかな……?)

吏星「今日はここまでにしよう。伝えるべきことは伝えた。噛み砕くのに時間が必要だろうし、一旦自分で考えてみろ」
夢月「りょ、了解!」

吏星「明日は表も休業日だからな。早乙女は裏にも出勤しなくていい。"分からないところが分かる"くらいまでは煮詰めておけ」
蓮夜「それじゃ、今日は店じまいってことで。お先に失礼するよ。あー疲れた。夢月ちゃん、頑張ってね」
夢月「う、うん!」

「カフェが休業の時は、私もこうして羽を伸ばします。香澄市は町の外に出なくても大抵のレジャーが揃う、暮らしやすい地域です」

そら「……えっと、ここかな?」

「今日は、最近オープンしたばかりの雑貨屋さんに来てみました。人気のカフェで働く身として、たまには女子っぽいこともしておかないと!」

そら「……思ってたよりかなり広いなぁ」

「香澄市にあるこういうお店では最大規模の1つになりそうな予感……。品揃えも豊富そうです。どこから見て良いのやら……」

そら「……! あれ……!?」

そら(り、吏星さん……!?)
吏星「…………」
そら(何か物凄く真剣に選んでるみたい……)

吏星「…………うーむ」

そら「……何かお悩みですか?」
吏星「いや、このマスコットが最近流行っていると聞いてな。仕事柄、流行というのも一応押さえておいた方が良いのでは……と」
そら「そうなんですね」

そら(……こういうところにも、仕事道具を探しに来るんだな)

吏星「諸事情で子供の心を掴むものが必要で……。人相が悪いせいで苦労させられる……」
そら「あ……」

ヨウタ(回想)「お前、悪い奴だな?」

そら「(もしかしてめちゃくちゃ気にしてる……!?)」

吏星「調べたら、一番流行っているのはこのオレンジだと出てきたんだが。部屋に飾ることも考えると、青の方が好みなもので悩んでしまっている……」

そら(……部屋に飾る?)

吏星「お前はどう思――」

吏星「どぅうわ!!!?!!!」

そら「キャッ!?」

吏星「あ、あ、天崎……!? な、何故ここに……!?」
そら「え、何故って……気付いてなかったんですか!?」
吏星「て、てっきり店員が話しかけてきたのかと……!」

吏星「ハッ……! もしや今の会話……聞いていたのか?」
そら「聞いてるも何も、話してたの私ですし……?」
吏星「お、そ、そうだったな……」

吏星「あ、あれだ。少しでも早乙女の助けになれればと思ってな。……他意はないぞ」
そら「でも部屋に飾るって――」

吏星「他意はない」

そら「あ、はい」

吏星「ゆ、夢うさぎに飾ったら喜ばれるのではと思っただけだ。ほら、店に飾ると言うと話が拡がって面倒臭いだろう? そういうことだ」
そら「そうですね」

そら「あれ、買って行かないんですか?」
吏星「……今日は視察に来ただけだ。他の物も調べて改めて出直すことにする。天崎も休日を楽しむんだぞ」
そら「は、はい、ありがとうございます」

そら(…………。お、お見送りしようかな!)

そら「あれ……? ちょっと! 吏星さーん!」
吏星「? なんだ!」
そら「どこ行かれるんですかー!?」
吏星「夢うさぎに戻る! やることがあるのでな!」
そら「左から行った方が近いですよー!?」

吏星「――――」
そら「…………」
吏星「…………」

吏星「……遠回りしたくなっただけだ!」

そら「…………?????」

蓮夜「誤魔化すにしたってもう少しマシな言い方があるよねぇ」
そら「キャッ!? れ、蓮夜さん……!? いつからそこに……!?」
蓮夜「えー最初からいたよ。気付いてなかった?」
そら(うそ……!?)

蓮夜「まぁ僕、こう見えて影薄い人間だからねぇ」
そら(うそ……!?!?)

蓮夜「そんなことよりさ、これ見てよ。かわいいマスコット見つけちゃった。流行ってるんだって」
そら(さっき吏星さんが見てたやつだ……)

蓮夜「夢月ちゃんが赤で、吏星が青で、僕が紫。そらちゃんはピンクにしたよ。オレンジの方が良かった?」
そら「いえ、ピンクで良いですけど……」
蓮夜「そっか、なら良かった。4つ揃えて夢うさぎに飾ろうよ。きっと人気出るよ~」
そら「そ、そうですね?」

蓮夜「じゃあ、僕はこれで。そらちゃんもせっかくの休日なんだから、しっかり休んでね」
そら「あ、ありがとうございます。……あっ、れ、蓮夜さん」
蓮夜「ん、なに?」

そら「……何しに来てたんですか?」
蓮夜「買物だけど?」
そら「……本当に?」

蓮夜「……まぁ強いて言うなら」
そら「言うなら?」

蓮夜「情報収集……かな?」
そら「アッハハハハハハ……」

Nightmare Kiss...
- The Awakened Story-
episode07に続く

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