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【本編まとめ読み】『ナイキスTAS』1節「プロローグ前編"夢うさぎ"の人々」

『Nightmare Kiss...』
-The Awakened Story-

「……夢を見る」
「何度も何度も、繰り返し同じような夢を」
「始まった時に"あぁ、まただ。またこの夢だ"と気付く。いつ見ても色褪せない……でも、どこかぼんやりとした景色」

夢月「…………」

「遠くを見ると、いつも同じ場所で同じ男性が笑っている。会ったことも見たこともないのに、何故か懐かしさを感じる人だった」

男性「――――――――」
夢月「…………?」

「彼は、いつも自分に何かを伝えようとしてくれる。精一杯に何かを語りかけてくれる。けれど……一度としてその声を聞けたことはない」

男性「――――――――!」
夢月「…………!?」

「突如として、景色が鈍く、暗く、昏く染まって行く。……そう。この夢は最後には決まってこうなるのだった」

男性「―――――――――!!」

「少しずつ少しずつ、遠くにいた彼はその闇の中に飲まれていく。最後まで自分に何かを伝えようともがきながら……」

「自分はいつも、足が竦んでその場から動くことができない。いつもいつもいつも、助けられない」
「なんて情けないんだろう。なんて惨めなんだろう」

夢月「…………ま」

「なんて――弱いんだろう」

夢月「……待って!!」

「ベッドの上から天井に向かって伸びた、自分の腕が目に入る。それを静かにベッドの上へとずり降ろした」

夢月「…………はぁ」

「……まただ。またあの夢を見た。いつもいつも同じような夢。それを同じように見て、同じように起きてそして同じように」

「――忘れる」

夢月「……何なんだよもう」

「思い出せない。自分が何を見て、何をしていたのか。誰に会ったのか。どうして腕を伸ばしているのか。どうして言葉を発していたのか」

夢月「……こんなんじゃ本当、"夢想師"失格だな」

「夢を扱う者なのに自分の夢のことすら把握できないなんて、恥ずかしくて誰にも話せない。こんなだから自分はいつまで経っても半人前なんだろう」

夢月「……って、やっべ、もうこんな時間!? 支度しなくちゃ!!」

「……気持ちを切り替えて新しい一日を始めよう。今日も自分のことを待ってくれている人達がいる」

夢月「……行こう、"夢うさぎ"に!」

「5月初旬。暖かい日を超え、少し暑く感じる日が多くなってきた今日この頃。ここは香澄市滝明町にある"カフェ夢うさぎ"」
「私、天崎 そらがここで働くようになって半年。今日も朝から開店準備作業に忙しく動き回っています」

そら「ふう……これはここに置いておけば良しと」

「このお店には私の他に3人のウェイターさんが働いています。それぞれが料理の準備やお店のセッティングを進めてくれているんですよ」
「だから朝の雑用は私の仕事。……いつもは、ですけど」

そら「えっと、次は……」
吏星「天崎、悪いが店内の掃除を優先してくれないか。人手が足りてない」
そら「あっ、はい!」

「この人は宝生 吏星さん。カフェ夢うさぎの店長的存在で、あらゆることに気が配れるしっかり者です」

吏星「振り回してすまんな。早乙女には後できつく言っておく」

そら「アハハ……そういう日もありますよ……」

「最初はちょっと恐い感じがして苦手だったけど、それは見た目だけ。本当はすごく優しい人だと知りました。今ではとても信頼しています」

蓮夜「夢月ちゃん、そらちゃんが来てからちょっと気が抜けてる気がするなぁ。やっぱり後輩ができると雑用なんてやりたくなくなるのかな?」

「こっちの方は紫吹 蓮夜さん。びっくりするくらいカッコいい、夢うさぎの名物ウェイター。彼の接客を求めてくるファンも多いんですが……」

吏星「おい、そういうお前はいつまで鏡を見ている気だ紫吹手伝え。今すぐ準備を手伝え」

「たまに……と言うかいつも何を考えているのかよく分からない、不思議な人です」

蓮夜「何言ってんの?ファンを悲しませないようにするのが僕の一番の仕事じゃない」

吏星「やかましい。彼女達はお前を見れれば何でも満足だろうに。無駄なことに時間をかける必要はない。手伝え」
蓮夜「分かってないなぁ吏星は。ああいう子達ほど細かい変化も見過ごさないものなんだよ」

蓮夜「たまには、常に完璧でいなきゃいけない僕のことも考えてよ。そらちゃんもそう思うよね?」
そら「えっ、そ、そうですね?」
吏星「ふん、じゃあたまには不完全なお前の姿でも晒した方がありがたがられるんじゃないのか?」
そら(吏星さん、いつになく良い切り返し……!)

蓮夜「フフッ、その着眼点は悪くないかも。成長したねぇ吏星。僕もこうやって頑張ってきた甲斐があったってもんだよ」
吏星「そうかそれは良かった。手伝え。即手伝え。今すぐ手伝え」
そら「ま、まぁまぁ2人とも……」

「この2人は仲が良いんだか悪いんだか、時々分からない時があります……」

夢月「お、おはようございまーす!」
蓮夜「あ、来た来た」
そら「あ、おはよう! 夢月くん!」
夢月「おはよう、そら! ごめんギリギリで……!」
そら「ううん、大丈夫だよ」

吏星「何がギリギリだ。余裕で遅刻だ馬鹿者」
夢月「ごめん、ごめんて」

「走り込んできたのは早乙女 夢月くん。すごくすごくまっすぐな魅力を持った男の子です。彼がいるだけで場がパッと明るくなるような、お店みんなの人気者です!」

夢月「今日だけのことじゃん! いつもは間に合ってるしさ! 許して!」
吏星「あぁ、もちろんしっかり減給しておく」
夢月「えぇ~~~~!?」
吏星「……まったく、今回だけだからな。今後はよりいっそう気を付けろ」
夢月「やったー! ありがとう吏星!」

吏星「天崎が掃除はしてくれている。お前は厨房でランチメニューの準備をしろ」
夢月「了解!……あ、本当ごめんなそら。絶対今日中に埋め合わせするから!」
そら「うん。いつでも大丈夫だよ」

「遅刻は悪いことだけど……そんなところもどこか可愛らしく思えてしまう、純粋で純真な人なんです」

蓮夜「ねぇ夢月ちゃん。ちょっと相談なんだけど」
夢月「あ、おはよう蓮夜。なになに? 俺で良いの?」
蓮夜「うんもちろん。――今日、お客さんにお皿を右から出すか左からにするか悩んでてさ。どっちが様になってるか見てもらっていい?」

夢月「なんだそんなことかよ。……うーん、そうだな~」
吏星「乗るな! 準備をしろ準備を!!」

そら「アッハハハ……」

「こんな感じで何故か慌ただしく始まるのが、カフェ夢うさぎの日常です(笑)」

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「開店すると、カフェ夢うさぎはいつもフル稼働。香澄市では老若男女問わず、皆に人気のお店なんです」

女子高生A「蓮夜様! 今日もカッコイイですね!」
蓮夜「フフッ、ありがとう」

女子高生B「ねぇ、蓮夜様ってお店がしまった後は何してるんですか?」
蓮夜「それは秘密だよ。だってプライベートを教えたら平等じゃないでしょ?抜け駆けは禁止って皆が決めてるの、知ってるんだから」

女子高生A「いじわるー!」
蓮夜「ごめんごめん。……でも、良い子にしてればもしかしたら夢の中で会えるかもしれないよ?」
女子高生B「私たちは本物の蓮夜様のことが知りたいんですー!」

蓮夜「夢の中だって本物だよ。だって君達の中にある僕の姿が、偽物であるわけないじゃない」
吏星「お待たせした。ランチセットAとB、それぞれ適当に置いておく」
蓮夜「僕はいつだって、皆のそばにいるよ」
女子高生A&B「キャー!!」

そら「吏星さん、よく割って入れますよね……」
吏星「いちいち気にしてたら仕事にならん。次に行くぞ」

老婆「まぁ夢月くん。今日も元気が良いわねぇ」
夢月「おばあちゃんこそ元気そうで何より。今日は何にする?」
老婆「そんなことよりこの髪飾り見ておくれよ。孫が私のためにってわざわざ遠くから送ってくれてねぇ」

夢月「そうなんだ、見せて見せて。わぁすごい、これ手作りじゃないの?」
老婆「そうみたいだねぇ。孫は昔から手先が器用でねぇ…。こんなこともできるようになったんだねぇ」
夢月「きっとおばあちゃんのためにできるようになったんだよ。これをプレゼントしたくて、一生懸命練習したんだって」

老婆「そうなのかねぇ。そうだとしたら嬉しくて……泣けてきちゃうねぇ」
夢月「……俺、写真撮ってあげるからさ! それお孫さんに送ってよ! 待ってて! 今スマホ持ってくるから!」
そら「あ、夢月くん!(自分のスマホで撮っても意味ないんじゃ……)」

吏星「…………」
そら「…………」

吏星「……天崎、何か注文だけ取ってきてくれないか。流石に何も頼まない人間に居座られるのはまずい」
そら「わ、分かりました」

そら「……そう言えば、吏星さんって絶対にお客さんに帰れって言わないですよね」
吏星「そんなこと言えるわけないだろう。皆、この店を楽しんでくれているには違いないんだ」
そら「……そうですね。行ってきます!」

「3人とも本当に個性的でたまに困ってしまうこともあるけれど……私はこの夢うさぎに流れる空気が大好きなんです!」

「夕方5時。カフェ夢うさぎは閉店します。夜営業の要望もあるのだけれど、それは理由があってできません」

夢月「はー、今日も終わった~」
蓮夜「ちょっと流行りすぎなんじゃないかな。このままだと色々支障が出そう」
吏星「休んでいる暇はないぞ。すぐに"裏"の準備に取り掛かる」

蓮夜「おっ、今日は予約が入ってるんだっけ?」
吏星「あぁ、事前メディカルチェックシートが来ている。見たところによると研究者として働く男性のようだな」
蓮夜「仕事の重圧でって感じか。まぁよくあるパターンだね」
夢月「大変だなぁ大人って」

吏星「"夢魔"に憑かれて日が浅いわけではなさそうだ。早く解放してやらなくては」
蓮夜「そうだね。悪夢にうなされて、仕事どころじゃなくなってるだろうし」

「実は……カフェ夢うさぎは閉店後に、もう1つの顔を持つお店なんです」

蓮夜「それじゃ、参りましょうか」
夢月「あぁ」

「閉店後に開かれるもう1つのお店――」

吏星「始めるぞ、"夢想師"の仕事を」

「悪夢から人々を救う"夢うさぎ亭"の夜が始まります」

Nightmare Kiss...
- The Awakened Story-
episode02へ続く

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