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「デザイナーになりたい!」人が勘違いしている思い込みと覚えておきたいこと。[ベテランよりその1]

どうもこんにちは、ベテランデザイナーの『はしあや。』です。

デザイナーも長くやっていると、たくさんの新人さん達の面倒をみることとなります。常に社員の数が同じにもかかわらず、なぜたくさんなのかは推して図るべし。

その新人さんの中には、他で修行を積んできた「何も言われなくてもできるレベルの人」から「Mac触るの初めてですぅ〜!ふぉとしょっぷならちょっと授業で触ったことありますぅ〜!」って人まで様々。
(一般的には後者に会うことはほぼないはずですが、どういう訳か採用面接日に私が休んでいたりするとこういう方が入ってくるという謎環境)

全くの初心者さんの勘違い「その1」

なかなかに強烈だったのが、導入部に話した「Mac触るの初めて〜」なかわいらしいいかにも新入社員!な女子さんのエピソード。

彼女は、少しだけ受付兼事務をしていたことがあるそうで、笑顔がとっても素敵でおしゃべりも大好きな社交的な女性でした。しかも若くて小柄でかわいらしく、髪の毛もくるっくるという、『来るところ間違えたでしょキミ』と言わざるを得ないほどの正のオーラを纏っていました。当然ながら、周りの男性スタッフは彼女にデレデレ。いやまぁそれはいいんです。職場が明るく華やかになったわけです。あの「朝出勤してきて挨拶すらしなかった連中」が挨拶するようになっただけでもワタクシとしては進歩!と思っておりました、ええ。

本当に何もやったことがないけれど、彼女は「デザイナーにあこがれていて、ずっとなりたいと思っていたんです」ということで、心の奥底から湧き上がるものがなかったとは言いませんが(苦笑)、彼女にまず『初心者にもわかる』系のソフト指南書を手渡しました。彼女のためにわざわざ会社が購入したものです。

もともといるスタッフは私をはじめ、あまりにも忙しかったのでとりあえず「わからない個所が出てきたら声をかけてね」と言い残し、クライアントとの打ち合わせやら電話応対やら実作業やら見積もり作成やらでてんてこ舞い。

昼休憩はフレックス(※実質そんなものは存在しないw)なので、誰一人として気づかなかったようで…私が困った顔をしていた彼女に声をかけ、周りにいた別部署の派遣でヘルプに入ってくれていた女性数人とでランチへ。

そんな感じで初日終了。
初日なので定時で終わってもらうようにしました。

翌朝、朝礼後に彼女にどこまで進んだのかの進捗を確認したところ…。

「何もできてません」

確かに本を開いていたのを見たのは、最初に手渡した直後のみ。確かに当日が締切日で忙しかったとは言え、新人さんを放置してしまったこちらにも非があるとは思っています。しかしだしかし。

採用を強引に推し進めた上司がとっとと逃げてしまったのはなんでやねん。
…取り乱しました、申し訳ない。

彼女からはまず『本を読むのが苦手』という斜め上の理由を伝えられました。その上で話を聞いてみたらでるわでるわ。

・資料とか本を読んで勉強するのが辛くて受付事務を辞めた
・それなのに本を読まなくてはいけないのはちょっと違うと思う
・デザインをしたいので、デザイン案件をさせてほしい
・作品を作ったことはないので、やり方を最初から教えてほしい
・前の職場では、全てマニュアルがあった
・電話応対しなくていいと思っていたのにみんな電話している

実務未経験の人に初日から実案件を振る会社は危険

私は実際、最初にグラフィックデザイナーとして就職した時に初日から実案件を振られたという実績があるのですが、これって相当危険なわけです。

最初からやれって言ってくれる会社は。

多分、ミスしたときに責任はアナタよってことになるでしょうね。なんで素人にいきなり仕事を任せちゃうかというと、「他に人がいない」か「クライアントを重要視していない」かのどちらかでしょう。

私が最初にいた会社は、社員はたくさんいましたがデザインの部門を立ち上げたばかりで、誰も先輩がいなかったということ、さらに私がもともとMacを使っていてイラレ・フォトショは普通に使いこなしていたり、学生時代から冊子を作って印刷会社に入稿していた知識があったためにいきなりの実案件(しかも16ページの地方自治体物という恐ろしいやつ)だったのだと思います。

その後悲劇で、別部署(写植)から移動してきた先輩が担当したページにデータミスがあり、最終データを触った私のミスということで処理され、いきなりの「始末書」を書かされて給料まで減らされ、帰宅後に大泣きした苦い記憶…。

やっぱり黒かったw

まぁ昔の思い出です。就職氷河期組なら就職できてるだけでももうけもんだった時代なので、誰もこれが黒いとは思わなかった時代のお話。

紙媒体デザイナーが必要知識

紙媒体のデザイナーに限って言ってみれば、下記のものが「必要」です。

・紙面デザインの基本的なレイアウト知識(黄金比率等の感覚的な知識)
・Z視点によるユーザの目線移動に従ってのデザイン知識
★デザインを行うためのソフト(Illustrator、Photoshop、InDesignなど)の操作知識
★トンボの知識
★印刷可能範囲の知識(小口・ノド・背・天・地 など)
★印刷に関連した色知識(CMYK、2色3色印刷、特色の取り扱い)
★スミベタの色知識(単純スミ、リッチブラック、掛け合わせ)
・トラッピング処理について(これは中堅でも知らない人もいる)
・印刷所の入稿後の工程(これも中堅だと知らない人もいる)
・最終印刷物の用紙と発色に関する知識
・印刷加工に関する知識(トムソン加工、コーティングなど)
・単ページものと冊子もののレイアウト方式の違い
★使っていい最小フォント級数、最細線幅等の知識
★フォント周りの取り扱い、アウトラインについての知識
・CMYKでの基礎的な色彩感覚
・印刷方式(オフセット、オンデマンド、その他)の知識
・印刷所別の入稿方法とデータ作成の知識
・文字校正の書き方と読み方について
・そもそもの文字校正のやり方についての知識

上記の中で「★」のついているものは最低限必須要項です。これがないままでデータ入稿すると、印刷所側のオペレーターさん修正では間に合わずに差し戻しになったり、最近流行のネットから直接入稿してその後の内容補償しない系の格安印刷所だと、想定していたものと違うものが納品されて再印刷(全部会社の赤字になる)とか、目も当てられない悲劇となるのです。

たまにWebデザイナーさんに「デザインしているから印刷もできるよね?」って簡単に依頼しているのを見かけますが、根本的なデザイン概念が違うのと、特殊なものが多々あるということもあり…やはり餅は餅屋ということで、Web出身で紙をあまり取り扱っていないデザイナーさんに依頼した場合は「一切の文句も言わない」くらいに割り切って依頼されると良いでしょう。でないとみんなが不幸になります。

ただただ美術系の大学を出て、絵を書くスキルが出来上がっていて、なおかつソフトを操れるっていう新人さんですら覚えることは盛りだくさんなのに、全くのど新人さんの場合はまず覚えることをある程度覚えていった時点で初めて小さな案件を先輩に見てもらいながらデザインし始める…というパターンになるでしょう。

全部、スラスラとできるようになるには数年かかります。3年経ってやっと新人から抜け出せたと言われてきたのはこういうこと。しかもその頃になると、手持ち案件もいっぱいいっぱいになるためにその他の部分でミス(文字校正とかね)も発生してきて叱られたり、自己嫌悪に陥ったりする時期と重なるので、大体そこを乗り切れない人は3年目処で引退する人も多いです。

そんなこんなで、まずは覚えることがあるので少しずつでいいから習得して、一日でも早くデザイン実案件をしたいなら、家に帰ってからも空いた時間で自習をするといいですよ、と教えてあげました。

結果。

次の月に退職されました・・・(涙)。

きっと彼女は今でもいろいろさまよっているのかなぁ…と思ったら、風のうわさですぐにご結婚されて幸せにお過ごしのようです。

私はその幸せを得られませんでしたので、ガシガシデザインする方に注力しました、いやもうこれ仕方ないと笑っておこう。

結論としては「デザイナーってデザインができればできるもんでもないし、ましてや何も知らない人が何の勉強や努力もせずにできる仕事じゃない」ってことです。勉強して努力するのは個人でもできることなので、頑張りたい人にはぜひとも頑張ってほしいと思っています。

記事を読んで「コンビニコーヒーでも1杯おごってあげよう!」と思った方はサポート頂けると嬉しいです♪ ※高額はやめてくださいね。あくまでもコーヒー代の足しにさせていただければこれ幸いです(笑