18世紀パリの最高のエンタメ!ラモー最後のオペラ《レ・ボレアード》全曲日本初演の快挙

 ジャン・フィリップ・ラモー(1683-1764)は、フランス・バロックを代表する作曲家で、50歳を過ぎてオペラ作曲家として大活躍しました。
 昨夜、そのラモーの最後のオペラである《レ・ボレアード》が、北とぴあ国際音楽祭で日本初演される快挙がありました。指揮はバロック・ヴァイオリンの大家としても有名な寺神戸亮さん、オーケストラと合唱は、北とぴあ国際音楽祭でのバロックや古典派オペラの上演のために結成されている「レ・ボレアード」(作品と同じ名前)です。

 ラモーの《レ・ボレアード》は、音楽は素晴らしいのですが、あまり演奏されない。寺神戸さんがプログラムに寄稿している「指揮ノート」で、その理由が明かされています。このオペラはラモーの生前には上演にこぎつけることができず、20世紀後半!になって再発見。その際、Stilという出版社が版権を獲得してしまい、著作権料を払わないと演奏できなくなりました。まとまった金額のようで、それが傑作にも関わらず演奏されない理由だそう。
 けれど、この「北とぴあ国際音楽祭」で、寺神戸さんが振るバロック(や古典派)オペラの公演に出演する合唱と管弦楽を担当する団体は、このオペラの名前を取って「レ・ボレアード」と名付けられています。つまりこのオペラは、寺神戸さんにとって、悲願の作品だったのです。
 今回、全曲上演は日本初演(セミ・ステージ形式)。著作権料はいつからか不要になったようですが、楽譜が未出版なので、ベーレンライター社からレンタルする必要があるとのこと。やはり上演のハードルは高いのです。
 今回の上演、寺神戸さんの悲願だけあり、また1995年から北とぴあ国際音楽祭で積み上げてきたバロックオペラ上演の経験も相まって、目覚ましい公演になっていました。歌、踊り、オーケストラが一体となった、18世紀パリの最高のエンタメを21世紀の日本で体験できた気分です。
 
 まず音楽が素晴らしい。元々のラモーの音楽が素晴らしいのですが、その躍動感、生命感が伝わる演奏。絵画的でヴィヴィッドなラモーの音楽が、今生まれたみずみずしさで展開します。踊りのリズムが浸透している音楽は柔軟で、弾力があり、カラフル。日本有数の古楽器奏者たちで編成されている「レ・ボレアード」は、この千変万化の音楽の魅力を、余すところなく伝えていました。バロックオペラにつきものの「嵐の音楽」も、効果音を交えて迫力満点でした!
 
 キャストも充実。ヒロイン、アルフイーズを歌ったカミーユ・プールはフランスの名ソプラノ、やはり頭一つ抜けていました。しなやかで潤いのある声と光り輝く高音、豊かな色合い、エレガントなフレージング。フランス語はもちろん美しく、その響きが音楽を引き立てている。舞台姿も品があり、優雅です。
 予定されていた外国人歌手がキャンセルし、代役でヒロインの恋人、アバリスを歌った大野彰展さんは大健闘。ヴィブラートを抑えたリリカルな声で、弱音が丁寧で美しく、まっすぐなフレージングが若々しさを際立たせます。コロラトゥーラのテクニックもあり、これからの活躍が期待できそうです。
 アダマス/アポロン役の与那城敬さんは低音域が以前より充実し、フレージングも力強く、威厳のある役にピッタリでした。セミル/ポリムニ役の湯川亜也子さんもエレガントな存在感。狂言回し的な存在のポリレ&カリシスを歌った山本悠尋&谷口洋介のコンビも快演。

 そしてなんと言っても圧巻だったのが、ピエール=フランソワ・ドレが振り付けを担当したダンス。フランス・オペラには欠かせないダンスですが、特にバロックものは半分以上がダンスと言っていいくらいダンスの比重が高く、振り付けはキモだなあと思います。今回はバロックダンスからクラシカルなバレエに近いダンスまで、かなり自由なスタイルで、衣装を変えながら展開、目を楽しませてくれました。ダンサーは四人中三人が外国組で、特にドレを含む男性二人のスタイルのいいこと、躍動的なこと。ポーランド出身のミハウ・ケンプカというダンサーは8頭身どころか12頭身?くらいありました!
 
 ロマナ・アニエルの演出はラモーの音楽と同じく躍動的。オーケストラは舞台の奥で、舞台の大半はドラマに使われます。装置はほとんどなく、その分ダンサーや歌手が目まぐるしく出入り。合唱は時に踊りにも加わり、時に舞台装置を操りと、七面六臂の活躍でした。

《レ・ボレアード》、明日日曜日にも公演があります。ぜひ!

 


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