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経営管理に使えるSaaSを解説しよう「会計freee(フリー)」

このnoteでは、主に経営管理体制をこれから整備しようとするスタートアップに向けて、経営管理領域で使えるSaaSを紹介する。読者が、このnoteを通して紹介したSaaSについてどのような特徴があるかを把握することで、そのSaaSの特徴を強く生かした経営管理体制構築を行えるようになることを目指している。

筆者はスタートアップの経営管理体制構築を生業としており、その仕事上「経営管理」を「過去または現在の組織内・外の情報を変換・分類・保存すること」と定義している。この定義を用いている背景は1作目の下記noteに記載している。

この定義の観点から見ると、全ての経営管理業務(例えば経理業務)は、特定の情報を変換・分類・保存のいずれかを連続して行うものとして捉えることができる。このnoteでは、クラウド会計ソフト「会計freee」について、この観点から解説をする。

1.「会計freee」とはなにか

会計freeeは、『クラウド会計ソフト』として最も著名なソフトウェアの1つだ。日本におけるクラウド会計ソフトのシェアは、会計freee・「弥生会計オンライン」「マネーフォワードクラウド会計」の3つで分け合っている。個人事業者を対象とした調査では、会計freeeは業界2番手のシェアを獲得している(MM総研による利用状況調査より)。

会計freeeは、サービス開始当初からバックオフィスの自動化を行うソフトウェアだと標榜している。現在では全てのクラウド会計ソフトで実装されている機能となるが、「銀行・クレジットカードの入出金明細を自動で取込み、明細の内容に基づいて記帳を自動化する機能」を(恐らく)日本では最初に実装した会計ソフトだ。

会計ソフトとしての根幹機能(記帳して、帳票を作る機能)の自動化だけにとどまらず、周辺業務をfreee上で行おうとして開発されていることも特徴の1つだ(下図「業務全体を効率化」参照。図は会社HPから。)。

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freeeが公式として説明している機能面の特徴は主に①自動化②周辺業務への拡張となるが、経営管理の体制構築の視点からみると「会計freee」について別の異なる特徴が目立つ。経営管理の定義の視点から、「会計freee」の特徴について解説しよう。

2.経営管理の何を解決するのか

(1)会計freeeが関連する経営管理活動
「会計freee」の基幹機能は会計ソフトだ。経営管理上で、会計ソフトが担う役割を確認しよう。

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経理プロセスを経て、全ての取引情報は会計データに変換されて会計ソフトに格納される(上図①)。取り込まれた会計データ(仕訳)は、会計ソフト上の機能により設定された形で集計される。残高試算表は、会計年度内の勘定科目ごとの仕訳を会計ソフト内で集計することで生成される。集約されて作られる情報は、会計ソフトからダウンロードすることで、別のプロセスで利用可能になる(上図②)。

「過去または現在の組織内・外の情報を変換・分類・保存すること」という経営管理の定義に基づけば、①会計情報を保存する場所であり、②情報を変換(集約)して別の情報を生成する場所となる。

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「会計freee」について、同一のフレームワークを用いて振り返る。会計ソフトとしての根幹機能に追加して、会計freeeは、請求書生成機能や帳票保存機能(「ファイルボックス」機能)・経費精算機能といった周辺機能を持つ。これらは、会計情報の基礎となる帳票の保存や、それを生成するプロセス自体まで会計freeeで担おうとしている(上図①)。

加えて、銀行・クレジットカードの取引明細から会計データを生成する機能や、請求書の画像から会計データ(仕訳データ)を生成する機能など、会計データの元となる資料から会計データを加工するプロセスの自動化機能を整備している(上図②)。

これらの機能は、情報加工のコストを下げていることなど経営管理の観点から一定の評価可能だが、絶対的なものではない。請求書作成機能や帳票保存機能といった会計freeeが持つ会計ソフトとしての根幹機能以外の機能については、その機能を担う別のシステムと比較考慮して利用可否を判断することになる。

では、経営管理の視点で最も会計freeeを評価すべき点はどこなのか。それは、会計ソフトとしての根幹機能である「会計情報を保存する場所」としての機能だ。

(2)「高性能な情報格納場所」としての会計freee
会計ソフトにおけるデータ入力は仕訳形式で行われる。仕訳上用いられる「勘定科目」が、会計ソフト内における具体的な情報格納場所に該当する。

情報格納場所は入れ子型構造となっており、標準的な会計ソフト(ただし、マネーフォワードクラウド会計、勘定奉行、弥生会計以外のソフトウェアについては未調査)では、決算書上の表示科目(「決算書科目」)を構成する科目として「勘定科目」が、勘定科目の内訳科目として「補助科目」がそれぞれ設定される(下図)

仕訳上、勘定科目・補助科目を入力することで、補助科目ベースでの集計から決算書科目ベースでの集計まで、会計ソフト上で集計の粒度を変えた情報集約が可能になる。

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決算書科目から補助科目まで、3つの階層単位での集計情報が他の経営管理プロセスで利用できそうに見えるが、標準的な会計ソフトでは、実質的に2階層の集計情報しか利用できない。

会計ソフトから出力される会計データを月次管理上用いる場合、月次単位で各階層の集計結果が利用されることになる。

この点、標準的な会計ソフトにおいて、月次単位の集計結果として出力される「残高試算表(特に、残高試算表の月次推移表示)」について、決算書科目ベースでの集計機能が用意されていないそのため標準的な会計ソフトにおいては、『部門機能』による補助情報を加えた、勘定科目-補助科目-部門の3階層により情報を整理する(下図①)。

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会計freeeはこの点、標準的な会計ソフトと異なるデータ格納型を有している。標準的な会計ソフトが備えている、「勘定科目」の1階層下にある「補助科目」のデータ格納場所が用意されていない。代わりに、「残高試算表(月次推移含む)」に、決算書科目ベースの集計機能が備わっている。

会計freeeが提供する残高試算表は、①「決算書表示名-勘定科目」の2階層表示(上図A-1)と②「勘定科目-タグ(補助情報)」の2階層表示(上図A-2)という、複数の階層表示方法による集計・出力が用意されている。そのため、会計freeeでは、決算書表示名-勘定科目-タグの3階層による情報整理を行うことになる。

この特徴から、情報整理の観点から見ると、会計freee上の「決算書表示名」は標準的な会計ソフトにおける「勘定科目」と同じ位置づけになる(上図B)。対して、会計freee上の「勘定科目」は、標準的な会計ソフトにおける「補助科目」と同じ位置づけになる。

このことは、例えば、法人が有する”三井住友銀行の普通預金”の口座を例にして確認すると理解しやすい。標準的な会計ソフトにおいて、「勘定科目:普通預金、補助科目:三井住友銀行」として表示されるのに対して、会計freeeでは「決算書表示名:現金及び預金、勘定科目:三井住友銀行」として整理される(上図C)。

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階層数は標準的会計ソフトと会計freeeは同一(3階層)だが、補助情報にあたるタグ機能について会計freeeは充実している。標準的会計ソフトに備わっている「部門」タグの他、「品目」タグ・「取引先」タグの3種類(プランによっては更に追加できる)用意されており、複数タグを情報整理用に付すことができる。つまりこのタグ機能により、1つの取引に対して同一階層(=並列関係)にある3つの属性を付与できる。

3つの同一階層にある属性が付与できるということは、情報の整理・格納・出力の仕方が、2の3乗(=8)通り行えることを指す(上図)会計freeeが有する「会計情報を保存する場所」は、高度な整理が可能になる棚になっていると言える(下図①)。

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また会計freeeはユーザーが利用可能なAPIを公開しており、API経由でのデータ操作(生成・更新・削除・読取)が可能になっている。そのため、会計freee内で実施する経理プロセスの前工程(例:請求書の受領)から会計freeeへデータを送る作業や、経理プロセスの後工程(例:月次の予実管理)で利用するシステムに対して会計freeeから情報出力するコストが、APIを提供しない他の会計ソフトに比べて相応に低い(上図②)。

先に述べた点と合わせると、会計freeeの特徴とは、「高度に整理できる、情報の入出力が容易に可能な情報保管場所」であることだ。

参考:
クラウド会計freee:https://www.freee.co.jp/houjin/


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