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「その問にはそのまま答えてはいけない」課題解決を通じた制度・環境のデザイン方法

まだ成長過程にある会社内で経営管理業務を担っている人は、自分が担当している経理・労務・総務などの領域に関する作業の他、社内制度や環境の整備を継続的に行っている。
整備する内容は、例えば社内制度を立案する・業務フローを整備する・オフィスに機材を充足させる・ドキュメントのためのツールを導入するなど、規模感も種類も多岐にわたる。

実務を思い起こすと、社内制度や環境の整備は、何か別のトピックを解決する過程上で結果として行われていたということの方が多いように感じる。

「相談」を通して行われる制度・環境の整備

社内で経営管理業務を担っている人は、自分が担当している経理・労務・総務などの領域に関することのみならず、社内からの様々な相談を受ける立場にあることが多い。

相談に応じて相手の困っていることを解決したことで、結果として、社内の整備を行っていることがある。

例えば、その時の課題解決方法が「先例」として参照される場合は、実態としてはその時に社内の規則を作ったことと等しくなる。また、課題を解決したことで新しい書式の書類やツール・作業手順が追加される場合、社内の業務環境が整備されていることになる。

これらの解決方法を選択した場合、その社内整備を行った当人ですら環境や制度を整備した感覚も薄いだろう。

解決したい命題:課題解決を通じた制度・環境のデザイン方法

その他にも、ミスなどのトラブルや自社サービスのユーザーや従業員の不満など表面化した問題の対処(相談対応もこれにあたる)、社員の増加・オフィス移転・法制度の改訂など組織内外の環境の変化への対応を通して、社内環境の整備は頻繁に行われる。

この前提にたつと、懸念すべき事項は、無意識・無防備に環境整備を行った結果、意図しない方向に組織全体(もしくは業務全体)がデザインされてしまうことだ。

このnoteでは、課題解決を通して行われる制度・環境の整備に対する向き合い方を取り上げる。すなわち、それらの整備をどれだけ意図的にできるか、無意識・無防備に環境整備を行う範囲をどれだけ減らせるか、どのような意識で課題に向き合うと良いかについて述べる。

課題解決の第一段階:課題を点で捉えて解決する

結論として、組織内における課題解決方法は2つの段階を意識して実践すると良いだろう。

1つ目の段階は、目の前に生じている課題それ自体に焦点をあて、それを解決する方法だ。この段階に即した課題解決プロセスは、生じている課題を正しく捉えて、解釈して、対応方法を講じることだ。

この段階における課題解決の目的は、あくまでも目の前にある課題(問い)を解くことだ。この段階における課題解決を行う場合、「社内制度・環境の整備」の観点を一度頭から外しておこう。
目の前で生じている課題を読み解き、背景を理解することに集中し、適切な解法を提案して実行することだけを意識すべきだ(上図①)。

第一段階のプロセスで立案した手法が適切であったかどうかは、多くの場合短期間で確認できる。問題と課題解決方法のペアは相互関係にある。その手法が実際に起きている課題に適合して、実際に課題が解決されているかを見れば手法の適切性は確認できるだろう(上図②)。観察して失敗したと判断したとしても、その場でやり直しが効くこともある。

第一段階は、「目の前の事象に正しく対処しよう」という、課題解決の基礎部分にあたる。従って、これから課題解決力を身につける人は、まずはこの課題解決方法の第一段階において確実に課題を解ける能力・経験を身につけることが当面の目標になる。

課題解決の第二段階:課題を面で捉えてから解く

目の前の課題が、それ単独で完結せず、将来生じるであろう課題や顕在化していない課題にまで波及する性質がある場合、第一段階の考え方だけでは不十分になる。

第二段階は、課題を抽象化してから課題解決する方法だ。
課題の抽象化とは、目の前に生じている具体的な課題(例えば相談内容やトラブル)を1つの個別事象として点で捉えるのではなく
 ・組織全体の視点
 ・業務全体の視点
 ・時系列的な視点
など複数の観点を持って、まだ実際に発生していないものも含めた、他の課題を包含したグループに属する1つとして面で捉えることだ(図①)

この段階における課題解決は、目の前に生じた個別事象を対象にするのではなく、目の前の事象を抽象化してグループ化した全体を対象にする。抽象化した課題を正しく設定して、解釈して、対応方法を策定する。
この場合、抽象化したレイヤーで「問題と課題解決方法」の組み合わせを作ることになる(図②・③)。

課題の抽象化について

ここでは、経営管理業務に携わる人に馴染み深い具体例を用いて説明しよう。
請求書を社内担当者が持ったまま経理に提出されずに支払が期日に行われなかった事例に遭遇したとする(経理業務経験者であれば何回も遭遇したことがあるはずだ)。

仮に第一段階の課題解決方法を採用して具体的な課題に着目すると、社内担当者や同一取引先からの請求書を主体として検討することになる。

これに対して、課題を抽象的に・範囲を広げて捉えてみよう。
関係する業務フロー全体を課題解決の対象として着目する場合、この課題は「会社として請求書を受領して経理担当者に回付する業務全般(とそれから生じる将来の取引たち)」に関するものになる。

抽象化後の課題解決プロセスについて

抽象的なレイヤーで課題を捉えた後は、その課題に対処した解決方法を立案しよう(図②)。

抽象化して課題を捉える場合、今回課題が生じた具体的な1ケースのみならず、同一の性質のをもつ別のケースにも対応した解決方法を考案することになる。業務フローに着目して解決方法を立案する場合、その解決方法は社内制度の整備そのものになる。

事例に戻ろう。「会社として請求書を受領して経理担当者に回付する業務全般」に着目して観察した結果、観察した担当者は、請求書が社外から担当者宛に個別で直接メール経由で送付されていることを見つけた。この受領方法の場合、受領した担当者以外、回付未了の請求書に気がつくことができないだろう。
このような場合解決方法として、請求書受取用の送付窓口をもうける・部内共通の事務用メーリングリストを宛先に入れてもらうなどなど、組織サイズと所属組織の方向性に合致した形で解決案を模索することになる。

どのような手法を採択したとしても課題を点ではなく面で解いた、面に対応する手法、つまりは社内制度の整備を伴う手法、が採択されることになる。

抽象化後に行う課題解決方法は、現実的に生じた事象のみを対象とせずに、実際に発生していない事象まで想定して行う必要がある手法だ。
従って、立案した制度が課題に対して適切に対応しているかどうかの確認(図③)を行うとしても、実際の事象を用いた確認はできない。この場合、ある種のイメージの中で検証を行う必要もある。

従って、抽象化の設定が間違っていると、的はずれの課題解決方法を立案することになり、かつ、立案した課題解決方法を修正することも難しい。
課題設定につながる抽象化のやり方について、担当者個人の力量が問われる所であり、担当者には知識・経験・社内外からの情報収集が求められる。

組織内の課題解決を行おうとする経営管理担当者が課題解決の第二弾解における抽象化が正しく行えるかどうかに集中して経験を積むためには、まずは第一段階における課題解決方法が確実に行えるようになってから、第二段階における課題解決方法に取り組むべきだろう。

第二段階の課題解決方法の確認方法

具体的な事案を用いて検証ができない以上、第二段階の課題解決方法により策定した制度・環境が本当に適切だったかについて、長期的に検証することになる。
抽象化の過程で想定していた取引群が想定していた通りに発生するか、発生したとして整備した制度・環境は適切に機能するのかどうか、時が立たないと観察できない。

ただし、短期的に確認できる内容も存在する。考案した制度・環境を実際に実装する前に、検討のきっかけを生んだ目の前の課題について、実際にその制度・環境を適用して解決ができるのか確認を行うことができる(図⑤)。

第二段階では、課題そのものに対する対処方法を直接立案したのではなく、一度抽象化を経由して課題を解いている。従って直接的に課題解決方法を考案する時と異なり、具体的に起きている課題への対処ができていない可能性もある。
制度立案に際して、目の前の課題を解決する意図があった場合は、より慎重に課題が解決できているか確認しよう。

課題解決を二段階に分けて考える効用

第二段階の課題解決を行う場合、意図的に、実際に生じている目の前の課題に対応しない制度を立案することもできる。
抽象化して考えた結果、生じている事例は、あるべき制度設計を行った場合には生じてはいけない・禁止されるべき事例だと判断することもある。

この場合は、生じている事象は、定める新たな制度が想定している範囲の外に存在することになる(図)。この場合、第二段階の課題解決方法により新たな制度を作成した上で、実際に生じた事象を制度に対する例外処理として第一段階の課題解決方法により個別で解決することになる。
制度を検討した結果として、実際に生じている課題には対処せずに静観する、という選択肢も当然にあり得るだろう。

課題解決方法を二段階に分けて捉えるフレームワークを認識することの効用とは、個別に対する視点(第一段階)と全体に対する視点(第二段階)を切り替えることだ。これにより、点に対して解いたつもりの課題解決方法が実際には面を対象としていた事案や、全体的な視点を持つと本来は積極的に解いてはいけない課題を解くことを防ぐことができる。

経営管理担当者は本来的に困っている人を助けることを好む人が多い。その特性が転じて、目の前の課題をそのまま解くことに集中しがちだ。
組織全体を向上させるためには、その課題はそのまま解いてはいけない、という認識のもと全体観を捉えながら課題に向き合う姿勢が必要だろう。

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