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所長のコラム③全人的支援に向けて~キャリアとメンタルヘルスの統合視点

 日本におけるカウンセラーの国家資格には、「公認心理師」と「キャリアコンサルタント」の二つが存在します。いずれも厚生労働省所管の国家資格ですが、ストレスやメンタルヘルスを専門とするカウンセラーと、キャリア支援を専門とするカウンセラーが別個の国家資格として認定されています。

 私が長く従事してきたEAPの相談現場においては、相談者が「キャリアの問題」「メンタルヘルスの問題」と分けて相談して来られる訳ではありません。異動や転職に伴って不調をきたす方も多く、キャリアの問題とメンタルヘルスの問題は切っても切れない関係にあるといえます。

 以前、弊社の相談室に寄せられた5年間で約23万件の相談データを分析したことがあります。結果としては、キャリアに関する相談が主でも何らかのストレス反応が訴えられている場合が多く、かつ「メンタルヘルス不調による休職」においてキャリア相談が多く発生していることが分かりました。

 ストレスやメンタルヘルスのトラブルは、大きな環境変化を引き金に生じる場合が多くなっています。尚、ストレス関連の問題整理には、アメリカ国立労働安全衛生研究所(NIOSH)の「職業性ストレスモデル」が有用です。

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 一方、転機をどう生き抜くかの相談対応に関しては、シュロスバーグの「4S点検」が馴染のある視点です。4Sとは、転機を見定めたうえで、①状況(Situation)、②自己(Self)、③支援(Support)、④戦略(Strategy)という4つのSのリソースを点検して対処することが有効とされます。

 両モデルを重ね合わせると、以下のようになります。①~③はほぼ同じ要因を整理しているといえるでしょう。ただ、職業性ストレスモデルは不調に至る時系列を示したモデルのため、事態を良くしていくための「④戦略」という切り口はなく、4Sは転機を乗り切るリソースの点検視点ですので、不調の症状である「⑤ストレス反応」をチェックする視点はありません。

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 シュロスバーグの4Sが有効なのは、転機に際して「リソースを包括的に点検する視点」に目を向けさせてくれる点でしょう。そこで私は、環境変化や転機にまつわる相談対応に際しては、点検内容としてシュロスバーグの4Sに「ストレス反応(stress reaction)」をチェックする視点を入れ、5つのSを意識するようにしています。

 経済成長の限界が指摘され、資本主義のあり方自体が問い直される現在、社員の生産性を支援する視点は、量的向上ではなく質的向上がより重要になると見込まれます。キャリアだメンタルヘルスだとカウンセラーの専門性に縛られるのでなく、人間尊重を基本に、社員の全人的支援へと向かっていきたいところです。

所長コラム12月

■所長プロフィール

松本 桂樹(まつもと けいき)
株式会社ジャパンEAPシステムズ 取締役
神奈川大学人間科学部 特任教授

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精神科クリニックにて心理職として勤務後、日本初の外部EAP専門機関であるジャパンEAPシステムズの立ち上げを担う。 現在もEAPコンサルタントとして、勤労者の相談を多く受けている。
臨床心理士、公認心理師、精神保健福祉士、キャリアコンサルタント、1級キャリアコンサルティング技能士、日本キャリア・カウンセリング学会認定スーパーバイザーなどの資格を保有。

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