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12月24日~高階寛人

 住宅の間を縫ってくねくねとした細い坂道を下り、微かに踏切の音が聞こえ始めると、駅はもうすぐそこだった。取り立てて何もない町、同じ形の住宅が多く建ち並ぶ典型的なベッドタウンだが、この時期ばかりは見渡す限りどこもきらきらした飾り付けがされて、軽やかな音楽とさざめき立つ賑やかな声で溢れる。
 厳しい冷え込みと曇天が嘘のように、道行く人は誰もみんな幸せそうに笑っている。
 たぶん──俺以外。
「はーあ……」
 何度目になるかわからないため息がこぼれ落ちた。息は白いホイップになって浮かび、鈍色の空へふわりと消えてゆく。今にも泣き出しそうな空を俺は惨めな気分で見上げた。
 こんなはずじゃなかった。自分だって幸せいっぱいで今日この道を歩く予定だったのだ。
 大好きな先輩──恋人と一緒に。
 12月24日、クリスマス。
 昔から、俺のところにサンタクロースなんてやって来たためしがない。狭い煙突をくぐり抜け、わざわざ靴下にプレゼントを放り込んでくれるようなご親切なやつは。
(あんなこと、言わなきゃよかった)
 その場にしゃがみこみたくなるのをぐっと堪えて、俺はひとり駅前の雑踏をトボトボと歩いた。
 もう早々に日は落ちていて、空の色は暗い。首筋を抜けていく風は切るように冷たくて、思わず身体を縮こめる。
(でも……先輩だってあんな言い方しなくても)
 もうちょっと優しく言ってくれたら──謝ってくれたら、俺だってあんなことは言わなかったのに。

(「先輩、今日は終業式終わったら駅ビルの広場で待ち合わせですからね」)
 朝、学舎の正門を一緒にくぐり、それぞれ学年の下駄箱へ別れる、そのほんの少し手前。
(「俺、絶対先輩より先に行って待ってますから」)
 浮かれて言う俺に先輩は思いきり怪訝な顔をした。
(「……なんで?」)
(「なんでって、やだな。学校終わったら一緒にでかけようって約束したじゃないですか」)
(「そうだっけ」)
 先輩が首を傾げた。
(「まあいいけど、五時までな。俺、今日は予備校の冬期講習入ってっから」)
(「え!? なにそれ、なんで?」)
 ビックリして声が転げ出た。先輩はいぶかしげに眉を顰める。
(「なんでって、受験だからに決まってるだろ」)
(「忘れちゃったんですか!? 今日、クリスマスじゃないですか!」)
 一瞬、先輩がバツの悪い顔をしたのが分かった。
 たぶん、忙しくてうっかりしていたんだと思う。悪気がないのはあの顔を一目見ただけでわかった。だけど俺もビックリしていたから、言葉を緩められなかった。
(「一ヶ月も前から空けといてくださいねってお願いしてたのにひどい。ケーキだって予約したんですよ。帰りに一緒に取りに行って、夜は俺の家で手料理って決めてたのに」)
(「知らねーよ、そんなの」)
 俺が勢いよく責めたせいで、先輩が明らかにムッとした。
(「だいたい受験前でクソ忙しいのに、クリスマスなんてどーでもいいこといちいち覚えてられっかよ。飯くらいいつでも食えるだろ」)
 楽しみにしていたぶん、さすがに俺も腹の底がイラっときた。
(「そんな言い方しなくっても」)
(「もっと早くから念を押せばよかっただろ」)
(「だって先輩、今月は受験で毎日大変そうだからあんまり一緒の時間も取れなかったし……それに、いつもしつこく言うと怒るじゃないですか」)
(「それは……おまえの言い方がくどいから」)
(「なにそれ、自分がうっかり忘れたくせに!」)
 カッとしてつい、ハッキリ言い過ぎた。
 しまった、と思ったときはもう遅かった。図星を指されて、逃げ道をなくした先輩は臍を曲げた。
(「……わかった、ケーキの金は俺が払う。それでいいだろ。あとでレシートよこせよ」)
(「なんでそういう言い方するんですか、そういうことじゃないでしょ!?」)
 思わず怒鳴り声が転げ出た。
(「俺の気も知らないで──先輩のバカっ!!」)
 吐き捨てて、気づいたら先輩に背を向けて駆け出していた。合わせる顔がなくて、今日はそれっきり。終業式の後ぼんやりと教室に居残っていたら、あっという間に夕方になってしまった。先輩は今ごろ予備校だろう。
 またひとつ、ため息が出た。
 いま思えば、先輩が意地を張る前に「じゃあ今度埋め合わせしてくださいね」くらいのことを言って、早めに引いておけばよかったのだ。
(先輩の頭が受験でいっぱいで、クリスマスに興味ないことなんか……知ってたけどさ)
 本当にいまはとても大変な時期だ。先輩は親に内緒で美大を受験するつもりでいる。受験にかかる費用も全部自分で負担して、合格したら直談判に持ち込むつもりらしい。一度決めたら頑固な先輩は、ひとりひっそりと絵の勉強をしながら、バレないように通常の受験勉強もしている。相当の覚悟だと思う。年が明ければいよいよ正念場だ。
 でも、だからこそ毎日気を張っている先輩に、クリスマスくらい息抜きしてほしいと思ったのだ。特別なことをするわけではないけれど、ふたりでのんびり町を歩いてケーキを買って、一緒に家へ帰ってご飯を食べて──。
(でもそれって、俺が楽しみにしてただけ……だったのかも)
 俺が楽しいからといって、先輩も同じように楽しいとは限らない。気もそぞろで嫌いな甘いケーキを食べるより、集中して受験勉強に打ち込んだ方がいいのかも。
(「クリスマスなんてどーでもいいこと」)
 刺々しい言葉のトーンを思い出して、胃の中で重たいものがぐずぐずと渦巻く。足の向くまま歩き続けて、気づけば俺はある雑居ビルの前に立っていた。二階に電気がついている。規模は小さいけれど、レベルが高いと近所でも有名な予備校だった。テストに合格しないと通えない。俺みたいに頭の悪いのは入れてももらえないところだ。
 蛍光灯の白い明かりが、くっきりと薄くらい空を真四角に切り取っている。その内側に、俯き加減で机に向かっている人影がいくつか見えた。
(先輩……)
 終わるまでここで待っていようか。さっきはごめんね、と謝って笑えば機嫌を直してくれるかもしれない。ケーキとご飯は無理でも、駅までの短い道のりを一緒に歩くくらいならできる。
(でも……しつこいってまた怒られるかも)
 これ以上怒られたくない。なにより、先輩の気を煩わせたくない。……嫌われたくない。
(怒ったりしなきゃよかった)
 もしこのまま、先輩とこじれて口も利いてもらえなくなったらどうしよう。鬱陶しいと思われて、捨てられたら。
 いや、捨てられるという言い方はおかしい。俺たちは恋人じゃない。付き合おうとか、そういう話もしたことがない。それどころか、先輩の方から好きだと言われたことは一度もない(俺はたぶん、もう千回くらい言ってるんじゃないかって気がするけど)。きっと先輩は、俺に同情して話を合わせてくれているだけだ。自分のために時間をとっておいてくれなかったと恋人気取りで怒ったりするなんて、甘えるにもほどがある。先輩だってきっと重荷だと思うに違いない。
(先輩に面と向かって鬱陶しいとか言われたら……たぶん死ねる)
 ひとりで不確かなことを考えていると、転がるように、いくらでも不安になる。ぐらぐらして止まらなくなる。
 確かなものはひとつもない。いまは隣に先輩もいない。
 予備校の入り口にはささやかに小さなツリーが置かれ、チカチカと明かりを纏っていた。ひとりで見ているとどんどん悲しくなってきて、俺は逃げるように予備校の前から離れた。

 しばらく駅の周りをアテもなくグルグル歩いて、寒さで耳が千切れそうになったころ予約をしたケーキのことを思い出し、取りに行くことにした。何も言わずにキャンセルするのは悪い気がして。
 ケーキ屋は駅の反対、踏切の向こう側にある。いつもは静かなこぢんまりとした店なのに、今日はたくさんのひとが並んでいた。家族に買い物を頼まれたに違いない会社帰りのサラリーマン、どのケーキにしようか迷っている仲の良さそうな女子高生のグループ、携帯で恋人と相談しているふうなOL、はしゃぐ子供を連れた母親──やっぱりみんな笑っている。
「お待たせしました、高階さま」
 アルバイトらしい店員の女の子が、笑ってケーキ箱を手渡してくれた。
「よいクリスマスをお過ごしください」
 無理です、ととっさに口から飛び出そうになって、堪えた。
「……すいません」
 よほどおかしな顔をしていたのだろう。女の子が首を傾げた。慌てて代金を払い、お礼を言って店を出た。
 外はいっそう寒さが増していた。身体を縮めてひとつ身震いし、早足で歩き出す。帰ったら下ごしらえした料理がふたり分台所に用意してあるかと思うと気が重いが、寄り道などすればいっそう寂しくなるのはわかりきっている。
(先輩はまだ予備校かな……)
 もう一度寄ってみようか、と思ってからかぶりを振った。
(だからっ、そういうのは重いってば俺! うざいし!)
 つけ回すようなことはダメだ。
 真っ直ぐ家に帰って、ホールケーキを半分くらい食べたら今日はもう寝て、忘れてしまおう。
(けど……いくら拗ねたからってあそこまで言うことないよな)
 ひとり夜道を踏みしめていたら、胸の中で少しだけ苛立ちがぶり返した。
(もちろん俺も言い方悪かったけど! でもあのひと、ホントのこと言うとすぐ怒るんだ。言うこと無神経だし、理不尽だし、──俺様だし!)
 のしのしと前のめりに歩き、行きと同じ道を引き返すのは損している気がして、駅ビルの中を突っ切ることにした。最近できたばかりの駅と直結のショッピングセンターには、先輩と待ち合わせするはずだった広場があった。二階のテラスから何気なく下を覗き込む。外と通じる吹き抜けには、大きなツリーが真ん中に立っている。
(もう……いつまでも気にしたってしょうがない)
 気鬱を振り切るために目を逸らして、反対の階段を下りようとしてから──けれどもふいと何か無視できないものが目の端に映った気がして、階段を下りながら無意識に足が止まった。
 自分でも何だかわからないまま、もう一度吹き抜けを見下ろした。
 家族連れやカップルが足早に行き交う中、ひとり、手に息を吹きかけながらぽつんとツリーの側に立っている人影があった。うちの学校の制服を、着ている──
「──先輩」
 まさか、と思い、とっさに動けなかった。
 走って階段を駆け下り、慌てて広場へ回り込んだ。
 間違いない。
「せんぱい、……昌悟先輩っ!」
 近くへ寄ってからもう一度呼ぶと、俯いていた影が振り返った。
 やっぱり、先輩だった。
「遅い」
 少しふて腐れた顔をしていた。
「あんまり来ないから帰ろうかと思った」
「うそ……なんで、先輩」
「嘘って何だよバカ」
「だって、予備校は」
「……おまえとの約束の方が先だったじゃん」
 居心地悪そうに小さくそう言ってから、先輩は頭を勢いよく下げた。
「悪かった、忘れてて」
「え、……あの、先輩」
「俺もけっこう受験で頭いっぱいだったからうっかりしてた……さっきは俺も言い過ぎた」
「いや、その……俺も怒鳴ったりして」
 すいません、と自分の口から消え入りそうな声が出た。
「なんでおまえが謝るんだよ」
「だ、だって……」
「間違えたのは俺なんだから、謝るくらいさせろ。……なのにおまえ、どこにいるかわかんねーし」
「……じゃあ、ひょっとしてずっとここにいたの? 俺のこと待って?」
「約束したんだろ、一ヶ月前に」
 先輩はぷいっとそっぽを向いた。
 ──もうダメだ。
「先輩!」
 あんまり嬉しくて、思わず上から抱きしめた。
「わ……っ、バカ! やめろって!」
「先輩、ほっぺた冷たい」
「おいっ、放せ!」
「ごめん、待たせちゃって……俺、先輩に嫌われちゃったと思って、悲しくて、まさか待っててくれるなんて全然思わなくて」
「いいからやめろってば、こんなとこで……ひとがいんだろっ!」
「ひとがいないとこ行く?」
「バカ!!」
「どうしよ、俺、嬉しい。先輩が俺との予定を優先してくれたなんて信じらんない」
「あのなあ、フツー約束は守るのが基本だろ。俺はどんだけ人でなしなんだよ」
「でも先輩、いまは受験で大変だし……俺のことなんか別にほっといたって」
「そういう卑下するような言い方やめろ。それに予備校一回くらいサボったって受かるんだよ俺は。頭いいんだから」
 自信満々に言うから、つい笑ってしまった。
「笑うなよ」
「だって、すごい先輩らしいから。──じゃあさ、ちょっとは先輩が俺のこと大事にしてくれたって思ってうぬぼれてもいい?」
「……バカ、調子に乗るな」
 覗き込んだら、頬が真っ赤になっていた。たぶん、寒かったせいだけじゃないと思う。
「えへへ」
「気持ち悪い笑い方すんなっ!」
「ね、先輩。家まで送らせて。いいでしょ?」
 笑ったまま、少し強引に手を握って引いた。大きめのため息が聞こえたけれど、俺は聞こえないふりをして歩き出した。
 駅を抜けて、公園を通って坂道に入る。登り切ったところに先輩の家があった。寒いから早く返してあげたいような、まだしばらく一緒にいたいような、複雑な気分のまま口を開いた。
「先輩、今日はホントにありがとうございます」
「なんだよ、イヤミかよ」
「そうじゃないってば。──俺、こういうの夢だったんです」
「こういうの?」
「うん。クリスマスを誰かと一緒に過ごすのが。ほら、俺、父親いないでしょ。母親は働いてたし、大抵ひとりだったから。プレゼントももらったことないし」
 先輩が俺を見上げたのが分かった。
「今日、先輩の気分転換になればって思ってたけど……ホントは自分のためだった気がする。押し付けちゃってごめんね」
「……高階」
「あ、こういう言い方、可哀想っぽかった?」
「てゆーか……返答に困るだろ」
 ごめん、と笑って振りかえると、先輩が複雑な顔をしていた。
(ああ俺、同情でもいいや。先輩なら)
 先輩に同情されるのは気持ちよくて好きだ。優しくて。雪みたいだ。白い色をしていて、火照った皮膚に触れた瞬間、じゅわっと沁みて溶ける。
「今日は病院に親戚が行ってくれてるから大丈夫。最近ちょっと落ち着いてきたみたいだし」
「そっか」
「先輩ん家はおかーさんがごちそう作ってくれたりしそう」
「……まあな。ケーキが死ぬほど甘い」
 うんざりしているのが分かって、俺は思わず笑った。
「今日のケーキはいっぱいリサーチして、あんまり甘くなくて美味しいところ選んだんですよ。せっかくだからと思って思わずホールで頼んじゃったんだけど、カットしてもらえばよかったな。お土産に渡せたのに」
「……悪かったよ」
「もういいですって。俺、朝からケーキもりもり食えますもん。無駄になったりしないし。ってゆーか、俺今日帰ったらやけ食いで半分は食おうと思ってた。……あ、いまありえないって思ったでしょう」
「ありえねーし」
「ここのはホント美味しいんですってば。今度一緒に食べてくださいね」
 先輩がまた、気遣わしげな目でまたたいた。
「まだ気にしてる?」
「……そりゃあ、まあ」
「じゃあ、お詫びにキスしてください」
「…………なに言ってんだバカ」
「冗談。こーやって先輩と歩けるだけで俺、幸せです」
 クリスマスだから、特別なひとと特別なことがしたかった。チキンを焼いて、ケーキを買って、プレゼントを交換して、蝋燭を灯したかった。
 だけどいま、他愛もないいつもどおりのやり取りが楽しい。
 楽しくて嬉しくてそのたびに好きになる。こうして隣に先輩がいてくれるだけで。たったそれだけのことで、もっともっと好きになる。
 とても単純な方程式。
(俺、恋してるなぁ)
 自分があんまり簡単で少し笑えた。
 先輩の家はもうすぐそこだったけれど、もう一度、手を繋ぎなおした。惜しむように一歩ずつ、坂道を玄関のギリギリ手前まで一緒に歩いた。
 先輩の家の外側はクリスマスらしい電飾できれいに飾られて、色とりどりに光っていた。中からはいい匂いがする。先輩の帰りを待ちわびていることが手に取るようにわかった。
「じゃあ、また──」
 また明日、と言いかけて、学校が明日から冬休みであることを思い出した。
(……バカだな、俺。学校が始まればまた会えるのに)
 一瞬、永遠に会えないみたいに悲壮な気分になった自分が少しおかしかった。たかだか二週間ばかり。受験で登校する日数は減るかもしれないけれど、それも春までの辛抱だ。先輩の苦労とプレッシャーに比べたらちっぽけなことだ。いま、先輩は自分の手で一生の夢を掴み取ろうとしている。
(俺が、一番応援してあげなきゃ)
 変な顔をして気を遣わせないように、精一杯笑って言った。
「また新学期、坂の下まで朝迎えにきてもいいですか」
「……高階」
「はい?」
「目、つむれ」
「は……?」
 話が見えなくて、俺は首を傾げた。
「いいから、さっさとしろ!」
「は、はい」
 すごい剣幕で言うから、俺は慌てて目をつむった。ただの条件反射みたいな感じで。
(もう、先輩はほんっとに俺様なんだから)
 だからそのあと、いきなり下から襟首を掴まれても目は閉じたままでいた。なんだろう、と頭の隅でちらりと思ったけれど、目を開ける暇はなかった。
 強く引っぱられて背骨が深く曲がる。そのすぐあと──唇に、しっとりと温かい感触がした。
 柔らかい弾力と、一瞬ちくりと当たる固い感触。
(……え?)
 何が起きたのかわからなかった。

 ビックリして目を開けると、先輩がさっと俺から離れるところだった。俺を突き飛ばすくらいの勢いで。
「え? 先輩……いまの」
 ぽかんと口を開けただらしない格好で、俺は立ちつくした。身体の熱と頭の速度が全然追いついていなかった。
「……大晦日、予定あるか」
「え……え?」
「何度も言わせんなっ」
「あ、え……えと、ない……です」
「じゃあ空けとけ。また連絡する。──おやすみ!」
 叫ぶように言って、先輩は玄関に駆け込んだ。バタン、と勢いよく扉が閉まるのを、俺は呆然と聞いた。
(なにあれ)
 ──キスだ。
 先輩が自分からくれた。
「なんで?」
 思わず声に出して呟いていた。
(なんで先輩が……俺にキス)
 それはやっぱり……嫌いだったらしない、かもしれない。
 ──つまり。
 どっと、急に心臓が脈を打ち始めた。まるで、いままでうっかり止まっていた分を取り戻すみたいに、内側からドカドカと。
 俺は、ついさっきまでの俺がとても間違っていたことに気づいた。
 隣にいてくれるだけでいいなんて、きれい事だ。
 少しでも先輩が俺に恋してくれたほうが嬉しいに決まっている。
(どうしよ……)
 気づいたら俺は坂道を駆け出していた。でないと、何か変なことを叫びそうで。

 煙突の向こうから放られた、すごい、クリスマスプレゼント。
 ──俺は、16年に及ぶサンタクロースの不在を許してやろうと思った。

よろしければサポートをお願いします☺️ まとまった金額になったら、美味しいモノなど食べて、明日への活力にしていこうと思います!