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パラベンとフェノキシエタノール

 化粧品は根本的に腐ったり雑菌が繁殖する材料で作られているものなので、そのままにしておけば必ず腐ってしまいます。そのため腐敗防止のため『防腐剤』が配合されています。防腐剤としてよく使われるのは『パラベン(パラオキシ安息香酸エステル)』や『フェノキシエタノール』などが有名です。

●防腐剤と刺激

 実は『防腐剤』と『肌刺激』には関連があります。なぜならある意味では『防腐=刺激作用』だからです。雑菌の繁殖を抑えて場合によっては殺菌する程度の効果を持つということは、刺激性を持つ可能性が高いということです。
 この刺激性の懸念から防腐剤量にはかなり気を使っていて出来る限り最小濃度として化粧品の処方設計をしています。
 日本の化粧品基準では防腐剤等の配合は1%以下と決められていますが、以前の研究で「化粧水」などではパラベン類で0.1%程度、フェノキシエタノールでは0.25%程度が平均的な配合量だと推定され、基準に比べ実際に配合される防腐剤の量はかなり少ない状況であることがわかります(抗菌性の多価アルコール類と併用の場合、この濃度を下回ることもあります)。
 ちなみにフェノキシエタノールではパラベンより抗菌活性が落ちるため、比較すると少し高い濃度で配合されている場合がほとんどです。
 文献等では「メチルパラベン0.01%溶液→やや刺激のある試料」「フェノキシエタノール0.01%溶液→殆ど刺激の無い試料」として利用されていることもあり、同じ濃度ではパラベンの方が刺激性が高く、フェノキシエタノールの方が刺激は弱いようですので、フェノキシエタノールの濃度がパラベンに比べ少し増える分には問題なさそうです。
 最近ではそれぞれの菌類の種類に適した防腐剤を複数組み合わせることで、さらに防腐剤濃度を少なくする研究なども進んでいますし、もう20年30年前とは違って防腐剤の危険性などは殆ど無視して大丈夫なようになっていると考えられます(昔は今と比べてかなり高濃度で配合されていたようなので、無視するわけにも行かない場合があったのようです)。

●アレルギー

 パラベンには微妙にアレルギーの素養があり、フェノキシエタノールではその心配は全くない、という疫学調査のデータが出ています(James G. Marks ,1998,Journal of the American Academy of Dermatology Volume 38.より)。
 これは1994-1996にかけて3000人以上を対象にして行われた大規模なアレルギー検査ですが、約3000の母体数のうち何%が有症したか分かるデータです。
 「パラベンミックス(※)15%」で、1.8%の有症者との報告があります(※複数のパラベンの混合溶液)。高い割合に見えますが、検体の『15%』溶液はかなり高い濃度なので、この程度の有症者であれば、ある意味アレルギー性物質としてはかなり安心な部類という意味としてとらえることもできるかもしれません。一方、フェノキシエタノールは、3000人以上を対象にしても0%の有症率です。つまりアレルゲンとしての素養はゼロということがいえると思われます。

●パラベンパラドックス

 また欧米の資料には『パラベンパラドックス』という言葉がよく使われていますあります。
 パラベンは健康な皮膚に塗布してもほとんどの場合有症しません。しかし裂傷や皮膚炎に塗布すると一転してアレルギーを起こすという事例が報告されています。「パラベンパラドックス」というのは傷に塗ったらアレルギーが出るのに普通の皮膚では全く大丈夫な患者が多いということから言われる言葉です。
 とある疫学調査では健康な皮膚に塗布した場合はパラベンのアレルギー有症率は0%だった、というデータもあります。先ほどのデータでパラベンミックスが15%もの高濃度だったのは、普通のパッチテストではそれだけの濃度にしなければアレルギーが出にくいということがわかっていたからなのかもしれません。

●防腐剤は必要

 結局パラベンに関しても「傷にぬならければアレルギーの心配はほぼゼロ」ということになりそうです。
 「でも結局刺激の懸念はあるんだからやっぱり入れないに越したことはないんじゃ?」と思う人もいるかもしれませんが、化粧品を販売する上では消費期限が記載されているなど特定のケースを除き未開封で3年はもつように調整されるのが基本です。
 つまりある程度の防腐設計はどんな化粧品でも必ず施されるはずです。

●『防腐剤』を使わないリスク

 「防腐剤無添加!」と謳っている化粧品でももちろん例外ではありません。一般的な防腐剤は使っていないだけで最低限の防腐設計は必ずされています。
 ではその際にどういうものが使われるのか?パラベンやフェノキシエタノールを0.1%とか0.2%混ぜるより少ない濃度で十分な防腐設計をすることができるのか?その際の刺激をしっかり抑えれるのか?というところが結局問題になりますが、あまりこれまでのデータが揃っていない成分で防腐しても、十分な効果を発揮せず刺激も抑えきれない場合が多くあります。
 例えば植物の「精油」をブレンドして防腐効果を持たせた、という話もありますが、精油は十分な効能を持たせる為には1%程度配合されますし(精油は刺激物です)、アレルギーの素養もパラベン等に比べればむしろ心配です。
 濃度も増えて刺激もアレルギーの心配も増える、『無防腐剤』にするということは、そのようなリスクを背負うということになります。

最後までお読みいただきありがとうございました。

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