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子供だからと侮るなかれ

子供って、大人が思うよりずっと、
いろんなことを見て学んでいると思うんです。

まだ子供だから分かりっこない、そんな固定観念で子供を見ていると、時に親は子供がなぜあんなことを言ったのか、どうしてこんなことをしたのか、分からずに、叱ってしまうことがあるでしょう。

これは、私が小学校の低学年ころのお話。

あの日は、たしか、学校で、
両親に感謝の手紙を書きましょう、みたいなそんなことをした日だった。

書いた内容なんかは覚えていないけれど、手作りのカードみたいなやつだったかな。

母子家庭のうちは、もちろん母親に書いた。
彼女は看護師で、職場の病院は学校のすぐ近くにあったから、学校が終わるとよくその病院の休憩室に遊びに行った。

その日は、たしか誰かお友達と一緒に行ったんだよね。
その作ったカードを渡しに行ったんだと思う。
それで、病院の休憩室で母と会うと、その友達が言ってくれたの。

わーすごい、お母さん、看護婦さんなんだね!って。

それを聞いた私は、幼いながらに、
身内のことを褒めてもらったら、そんなことないって言わなくちゃいけないって、思った。
だって、大人の人たちはみんなそうしてたから。

だから、咄嗟に、言った。
そんなことないよ、全然すごくないよ!って。

それを聞いた母はその場で、なんでそんなこと言うの!と鬼のような剣幕で叱りだした。
なんでそんなに怒りだしたのか、私にはさっぱりわからなかった。
だって、うまく大人がしてるみたいに言ったはずだから。

一緒に来てくれた友達はさぞ気まずかったに違いない。

夜になって仕事を終えた母がうちに帰ると、先に帰宅していた私を見るなり、その日私が言ったことをまた怒り始めた。

子供にとっての時間の感覚と大人の感覚は全然違く、実際よりもずっと長く感じられたと思うけれど、それでも30分くらいは永遠と叱られていたと思う。だから当時の私にとってはその時間は永遠に続くようだった。

決壊した川のように怒鳴り続ける母を前に、なぜ自分がそんなことを言ったのか、冷静に考えて説明する隙は微塵もなかった。
怖くて、悔しくて、悲しくて、泣くことしかできなかった。

渡そうと思っていたカードは、渡せなかった。
いや、結局渡したかもしれないけど、そんなものはもうどうでもよかった。
だって、心に大きな傷ができてしまったから。
どうせ母には私の考えていることなんて分かってもらえなさそうだ、そう思うようになった。

今こうして冷静になって書けているけれど、当時はものすごい勢いで責められたこともあって自分でもなんでそんなことをしたのか分からなくなっていた。

でも何年もずっと後で大人になってから、ふとこの出来事を思い出した時に、ある日気づいた。

あ、そうか、私は周りの大人がみんな謙遜しているのを見ていて、そうするのがこの世のマナーだとなんとなく子供ながらに見て学んでいたから、ああいう言い方をしなきゃいけないと思ったんだったな、と。

母は当時のたかが小学校1-2年生の私がこんなことに気を配っていたであろうことなど思いもよらなかっただろう。
自分の仕事を誇らしく思ってくれない娘にしか見えなかったのだと思う。

母を一概に非難するつもりはない。
だけど、私が母親になった時には、自分の子供には決してこういうことはしたくない、と思っている。

子供は子供だからと侮ってはいけない。私たち大人が思う以上に、私たちを見て学習している。
子供は子供なりに考えて行動している。

そのことを自分が大人になりきって忘れてしまわないように、ここに記しておく。

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