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スペイン風『ピーマンの炊いたん』

「普段の日って、何料理を食べてるんですか?」
よくそう聞かれる。

もしかしたら、いつも外食でお洒落なスペイン料理ばかり食べているとか、お高いワインを飲んでいると想像されているのかもしれない。
それは全くのハズレ。

私の場合、生活も、食のベースもあくまでも”家庭”。地方ならではの料理や代々受け継がれてきた伝統的な料理。そして、それらが息づく家庭料理をこよなく愛している。加えて、料理を美味しくする秘訣は、何を食べるか以上に、誰と一緒に、いかに楽しく食べるかだと思っている。

だから、ワインも食材も、お手頃価格で安全で美味しいという主婦目線で選んでいるし、得意の料理は『冷蔵庫の残り物の掃除』だと思いっきり顎先をつき上げて言いたい。

スペイン料理の残りを和風にアレンジすることも多い。コシードと呼ばれる伝統的な煮込み料理がコロッケになったり、カレーソースになったりするという風に。ちなみに、パエリアやフィデウアに使う魚の出汁を濾し取った後に残った魚の身は、丁寧に骨を外してから炒って味付けをし、極上フリカケになる。

そんな中で、その昔に食べた懐かしい味の記憶を無性に辿ってみたくなる事がやっぱりある。

今でこそ、和食食材は簡単に手に入るようになったとはいえ、まだまだ種類は少なく、こちらで入手できない食材の場合は、あれこれと試行錯誤しながら代用食材を探すことになる。

たとえ同じ食材が手に入っても、日本のそれとは味が違う事が多いので、完璧な日本食にありつくのは至難の業。手に入る材料で足し算や引き算をしながら料理を作っていく。和風スペイン料理とスペイン風和食。どちらもアリ。

そう思っていつも気楽に楽しんでいるのだけど、昨日、面白いアイデアが浮かんだ。

まず、まつしまようこさんのnote を読んできて欲しい。

体の中心あたりからドクドクとマグマのように湧き上がってきたものが口から飛び出す。

「万願寺とうがらしの炊いた~~~ん!!!」


私も今回の先生であるますみさんと同じ大阪出身。子供のころは地味で滋味な「炊いたん」があまり好きではなかったのに、今になってふと食べたくなるのは「炊いたん」をはじめとする「おふくろの味」だと改めて気づいてしまった。ネーミングの「……たん」という響きが何ともいえず温かい。

今までにも何度かイタリアンピーマンを使って適当に「炊いたん」を作ったことがある。じゃぁ、同じレシピを基本にしてスペインにある食材と調味料で作ったらどうだろう?

みりんは?
酒は?
ごま油はどうする?

そう思い出したら最後、たまらなくなってピーマンを買いに走った。

……。
慌てて出かけて財布を忘れた。
サザエさんじゃあるまいし……。
最近、よくやる。


**


店で手にしたのはトリコロールのピーマン。赤は甘味、黄は酸味、緑は苦味と味の焦点が少しずつ違っていて面白いの。普段は赤と緑だけだけど、今日は三色。

これを炊かせていただきます。

中の種をきれいに抜いて縦に細く切る。

これを、『十八番料理教室』の作り方に沿って作ってみる。
材料はこちら。

材料:
・トリコロール・ピーマン 各1個
・塩鱈  適量(乾いたタイプの鱈)
・モスカテル 大さじ1
・白ワイン  大さじ1
・薄口醤油 大さじ1.5
・オリーブオイル  適量

お気づきいただけましたかな?

(変わったろころ)
万願寺とうがらし → ピーマン
ちりめんじゃこ → 塩鱈
みりん → モスカテル
酒 → 白ワイン
ごま油 → オリーブオイル

作り方はそのままで、材料と調味料を変えるだけだで、あっという間にワインのツマミに変身する。

ただ、ここで、しっかりと読んでくださった方は、「モスカテルって何?」と思っているはず。

ご説明します。

モスカテルというのは、バレンシア産の非常に糖度の高いマスカット種のブドウから造られる甘口のデザートワインのこと。ピーマンそのものの甘味があるので、白ワインと同量ずつ使ってみたらちょうど良かったみたい。もし、緑のピーマンばかりの場合は、白ワインの分もモスカテルにしてもいいかもしれない。

(モスカテルなんて日本にないじゃん!)

なんて、拗ねないでいいんですよ~。
なければ他の物を使えばいいんだから。

シェリー酒でもいいし、料理酒しかなければ、ちょこっとだけブラウンシュガーを入れても美味しくなる。料理の可能性は無限。自分の好みの味にすればいいだけ。

そして重要なとってもポイント。

美味しく出来ても出来なくても、まず笑い飛ばす!

これさえ出来れば家庭料理人の初級クリア!


さて、調理。
ピーマンが肉厚で皮が固めなので、しっかりめに火を通す。塩鱈は小さく手で裂いておく。写真映えを気にして少し残しておいたけど、全部、混ぜちゃって大丈夫。塩加減だけ注意して。

レシピどおりに汁気を飛ばして冷めたところで運命の試食……。

予想を上回るバカウケ度!!

なんと、ピーマン嫌いのはずの夫がおかわりしている。
成功じゃ!

「ママ、これ旨い!」

うぉぉ、それは嬉しい!
が、私の分まで食べるなよ


かくして、まつしまようこさんますみさんに教わった十八番料理をスペインにまで持ち込んでしまった私。これぞ、ダブル他人のふんどし。図々しくも我が家の十八番料理として盗ませていただきます。

ようこさん、ますみさん、ごちそうさまでした!


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