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「ペッパピッグは何?」はなぜ中国でヒットしたのか。

・中国のネットを席巻する動画

1月17の夜から18日にかけて、中国のSNSはある動画に席巻された。

https://www.youtube.com/watch?v=m9fa4Z5uejY

わずか5分の動画だが、多くの芸能人や有名人にリツイートされ、weiboで最も多い検索ワードになり、一時的に大きな話題となった。

タイトル名は「ペッパピッグは何?」で、これは一体何の動画?

・「ペッパピッグ」というアニメ

まず「ペッパピッグ」について簡単に紹介する。

これは、2004に初放送された、イギリス産の子供向けアニメ。ピンクの子豚のペッパピッグちゃんとその家族の何気ない生活についての物語。

日本では2017年に放送されたが、あまり知られていないよう。

https://ja.wikipedia.org/wiki/%E3%83%9A%E3%83%83%E3%83%91%E3%83%94%E3%83%83%E3%82%B0

一方で、中国では2015年に放送されて以来、たちまち大人気になった。iQiyiやYoukuなどの動画サイトでも放送されるようになり、わずか一年で再生回数が100億回を超えた。

・2018年に大ブームへ

さらに、社会現象と言われるほど大ヒットになったのは、2018年に入ってから。

その時、アニメはブームから落ち着いた頃だが、ある日、Tiktokのようなショートビデオプラットフォーム「快手」で、某KOLが「ペッパピッグ」のTATOOステッカーを身につけた動画を投稿したことがきっかけに、「小猪佩奇身上纹 掌声送给社会人 (※訳:ペッパピッグを身につけて、社会人へ万歳!)」というネタが一瞬にしてSNS上に広がった。

「社会人」という中国語の意味は、もともと「ヤクザ」に近い。怖いイメージの「社会人」と可愛い子豚キャラクターとのギャップ萌えで、若者の間で爆受けした。

そこから、「ペッパピッグ」はIP力を存分に発揮し、おもちゃからスマホアプリまで、あらゆる産業に展開された。

私が中国に帰省した2019年の元旦頃には、デパートやスーパーなど町中にペッパピッグの姿が発見でき、もはや国民的なアイコンになっていたように感じた。

・「ペッパピッグは何?」はどんな動画か

さて、動画の話に戻る。

今回再び話題になったこの動画は、実は原作のアニメとはあまり関係がない。

これは、2019年春節期間に上映予定のペッパピッグ関連アニメ映画のために作られた、ドキュメンタリーPV。

ディレクターを務める、北京映画大学卒業生の張大鵬さんは、「2日間かかって作ったものだけど、まさかこんなに受けたとは・・・」と本人も驚いた様子。

PVの内容は、簡単には以下流れ:
(気になる人は冒頭のYouTubeリンクみてね)

 ・春節が近づく中、田舎で独居している老人が、都市に住む孫に電話かける。

 ・「何が欲しい?」と聞いたら、孫が「ペッパピッグ 」と答える。

 ・「ペッパピッグ は何?」と聞き返したが、電波が切れたため電話が途切れる。

 ・老人はペッパピッグ の正体を解明する為に、村中の人に聞き歩いた。

 ・ようやく(なんとなく)分かったペッパピッグ の模様に模倣して、金属のプレゼントを手作りする。

 ・一方で、今年の春節に、都市に住む息子と孫一家は村に帰らないことを知り、寂しがっていた。

 ・息子はやはり老人と一緒に春節を過ごしたい為に、村まで車で迎えにきた。

 ・老人は息子の一家と団欒し、手作りの「ペッパピッグ 」プレゼントを孫に渡す。

簡単にいうと、中国の春節が近づく中、おじいちゃんが孫へプレゼントを贈る家族愛の物語。

・動画から見る中国の社会現象

では、なぜここまでヒットしたか?

これは、中国の真実な社会現象を反映しているからだと思う。


一つ目は、「都市化が進んでいる中、農村と都市部の間に起きた巨大なギャップ」について。

2010年に日本を抜いて、世界No.2のGDPになった中国は、すざましいスピードで発展してきた。都市化率も40年前の15%から、2017年の58%へと大きく伸びている(日本は93%)。

一方で、人口や資源が都市部に集中し、農村部との間に大きな差を開いた。

このビデオが撮られた張家口市が所在していてる河北省は、人口は上海の約3倍、面積は約30倍にも関わらず、2017年のGDPは上海とほぼ同じ水準に留まる。

また、平均所得も農村対都市で1 : 3.3であり、つまり、3.3人の農民が1人の都市人の収入しかもらえない。

私の所感では、日本の田舎に行くと、綺麗な家が立てられていたり、インターネットが通じていたり、都市とのギャップはあまり感じないが、中国の田舎に行くと違う世界のように感じる。

動画の中にもあったような、ボロボロの家、電波が通じない荒野、10年前に使わなくなった「骨董品」携帯・・・

これは、キャッシュレスやAI化などハイテクノロジーが進んでいる大都市とは、発展の具合が全然違う。

また、マタイ効果によってさらに差が拡大するだろう。

2.
こういった背景から生まれた社会問題の一つとして、「留守老人」と「留守子供」の問題がある。

「留守老人/子供」とは、農村に残された、特に生活保障されていないお年寄り/子供のこと。去年の統計によると、中国の留守老人は約 5,000万人で、留守子供は約6,000万人。

農村部でなかなか就労機会がないため、20〜40代の青年や壮年層は都市へ出稼ぎに行くが、残された労働人口ではないお年寄りや子供は、金も社会保障もなく、その上心の孤独を耐えながら苦しい生活を送っている。

近年では社会問題として取り上げられ、彼らの権益を守る対策が急務される。

先ほどの動画に映っていた老人も、「留守老人」を代表する一人で、息子とその家族が遠く離れている中、(おそらく)奥さんも喪失して農村で孤独な一人暮らしを送っている。

動画の最後では、家族団欒してハッピーエンディングになったが、実際には長年に渡って家族と会えない人達は現実にたくさんいる。

高度成長な中国の背後には、このような光と影がある。

・まとめ

今回の動画がヒットしたのは、中国の真実な姿を生々しく反映して、たくさんの人に刺さったからだと思う。それに、「ペッパピッグ」の可愛らしさと、家族愛の感動の物語が加わり、多くの人々から笑いと涙が得られた。

予告:
次は、2018年に最も運が良いと言われた中国人アイドル“杨超越”について書いていきたい。お楽しみに〜


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