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文科省が「法令」「違反」を特定できないワケ 発展編

 この論考は、「No pain No gain」氏(@nopain_nogain05法務博士)によるものです。前回の論考(基礎編)をお読みでない方は、まずは基礎編からご確認ください。


文科省が「法令」「違反」を特定できないワケ 発展編

潮見佳男教授の「不法行為」定義に関してよくある誤解

 ところで、民法第709条そのものに「違反」が成立するとの見解が生じる原因の一つに推察されるものとして、潮見佳男教授の「不法行為」の定義に対する誤解が挙げられます。
 
 潮見教授は、『不法行為 Ⅰ(第2版)』において、不法行為を次のように定義します。

不法行為とは、私的生活関係において他人の権利を侵害する行為であって、法秩序がその権利を保護するために、行為者の権利にも配慮しつつ設定した禁止・命令規範に違反すると評価されるものをいう

『不法行為 Ⅰ(第2版)』

 予め申し上げますが、この定義自体は一切誤ったものではありません。問題は、「不法行為とは、……禁止・命令規範に違反する行為である」との定義のみに注目し、短絡的に、

「不法行為の成立=禁止・命令規範違反=民法第709条違反」
「よって、民法第709条に『違反』が成立する」
 
と結論付けてしまう誤解が生じやすい点にあります。
 この問題をわかりやすく解説するべく、便宜上の観点から「違反」と無関係な部分を省略して定義を単純化すると、以下のようになります。

「不法行為とは、…法秩序が…設定した禁止・命令規範に違反する…もの」


 この単純化した不法行為の定義を用いて、1個の殺人行為により1個の不法行為が成立するケースを考えてみましょう(故意過失・損害・因果関係の要件もそれぞれ認められるものとします)。仮に、❶民法第709条自体が禁止・命令規範であり、❷民法第709条に「違反」が成立するとの見解を前提とすると、
 
・殺人行為による不法行為が成立する(その他民法第709条の要件も充足)。
→民法第709条に違反する(∵❷)
→民法第709条という禁止・命令規範に違反する(∵❶)
→別途不法行為(民法第709条という禁止命令規範違反行為)が成立する。
 
 と、実質的に見て1個の殺人行為により1個の不法行為が成立するはずが、民法第709条が二重に適用される結果、1個の殺人行為で、2個の不法行為が成立してしまう異常な結果となってしまいます。


 なぜこのような異常な帰結が生じるのでしょうか。それは「民法第709条(違反)は、不法行為の成立要件である禁止・命令規範(違反)に当たる」という誤った理解に起因します。
 
 確かに、不法行為が成立するためには、禁止・命令規範違反が必要であることは、不法行為の定義の通りです。
 
 しかし、肝心な点は、不法行為の成立要件となる禁止・命令規範(違反)は民法第709条以外の外部規範(違反)であることを前提としていることにあります。
 
 殺人行為の例で言えば、
・殺人行為による不法行為が成立する(その他民法第709条の要件も充足)。
→民法第709条が「適用」される。
※民法第709条は禁止・命令規範ではないので、別途禁止・命令規範違反は生じず、別途不法行為も成立しない。
となり、1個の殺人行為を1個の不法行為で正しく法的に評価できます。
 
 なお、先ほどよくある誤解として例示した、
「不法行為の成立=禁止・命令規範違反=民法第709条違反」を正しく直すと、
「不法行為の成立=民法第709条の外部の禁止・命令規範違反=(その他要件を充足すれば)民法第709条適用」となります。


「民法第709条違反」の用法の誤り

 「民法第709条違反」という言葉を不法行為の成立要件である民法第709条以外の外部規範違反の意味で用いるのであれば、語用法的には正確ではないものの、論理的にはまだ正しいといえるでしょう。しかし、「民法第709条違反は、それ自体禁止・命令規範違反に当たる」との理解は論理的にも完全な誤りです。

 また、実質的な違反が不文の秩序違反の場合に「民法第709条違反」を「法令違反」とするのも論理的に完全に誤っています


禁止・命令規範には不文の秩序が設定した規範も含まれる

 他方、不法行為の定義をよく見てみると、もう一つ分かることがあります。
 それは、不法行為の要件となる禁止・命令規範は「法秩序が設定した規範」であるので、「法令」が設定した禁止・命令規範のほか、不文の「秩序」が設定した禁止・命令規範も含まれる、ということです。代表的な例としては、不貞行為による不法行為が成立する場合のように法令が設定した禁止・命令規範がない場合が挙げられます。

 そして、肝心なことですが、現在解散請求で問題となっている、過去家庭連合で認定された不法行為も不文の秩序が設定した規範に違反したケース(=社会的相当性の逸脱)に当たります


民法第709条の構造

 付言になりますが、これまで説明のために便宜上、単純化した不法行為の定義を用いてきましたが、これを用いて民法第709条を読み替えると、民法第709条の条文構造をより分かりやすく理解できると思います。具体的には以下のようになります。
 
 法秩序が設定した禁止・命令規範に違反した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う
 
 このように整理すると、民法第709条の要件である禁止・命令規範は外部規範であることが直感的に理解しやすいのではないでしょうか。

 また、
民法第709条は、それ自体が禁止・命令規範に当たらないこと
民法第709条は、外部の禁止・命令規範に違反した場合に賠償責任を発生させる条文(賠償規範)であることが理解しやすいのではないでしょうか。
 
 なお、福本弁護士は意見陳述書(1)の中において、民法第709条における①②の点を捉えて『不法行為における階層的規範構造』と表現されています。


福本弁護士の意見陳述書の引用

 参考までに、福本弁護士の意見陳述書の該当部分を引用しておきます。


【参考資料】

家庭連合意見陳述書(1)
家庭連合意見陳述書(2)

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