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サザエさんになった日

財布を持たずにスーパーへ行ったことがありますか?


私はあります。(自慢してどうする)


その日、私は財布を持たずにスーパーへ行った。

早くに気がつけばいいものをレジに並んでいる時になって財布を持って来なかったことに気が付いた。

はっ。どうしよう。財布持って来なかった!
かごの中のもの、戻す?いやそれはダメだな。多すぎる。不審者すぎる。
一度かごに入れた未購入品を大量に棚に戻すのって、よくない。
はー。もう順番来ちゃう。恥ずかしいけど、言うしかないな~。

慌てて、頭の中で文を組み立てる。

「あのー。すみません。お財布を家に置いてきてしまったので家に取りに帰りたいのですが、これ預かっていただけませんか?家は近いので、10分以内には戻ってこられます」耳、真っ赤。

レジの方は、最近このスーパーで働き始めた方で胸に「研修中」のバッチをつけている。名前はSさん。実は、Sさんがレジ打ちをしていると私は多少混んでいても彼女のレジに並ぶようにしていた。研修中のバッチをつけているけど、他店での経験があるのだろう。手際がよくて、レジ打ちが早くてしかも愛想がとてもいい。

だから、この日もSさんのレジに並んでいた。

Sさんは、私の恥ずかしい事情を聞き取ると、なぁんだそんなことお安いご用と言わんばかりに、「あ、大丈夫ですよ。慌てずにお気をつけてゆっくり取りに帰ってくださいねー」とするするっと私のカートをサービスカウンターへ持って行った。

恥ずかしさでいっぱいだった私は、Sさんの自然な言動に救われた。自転車で家に戻り財布を手にしてスーパーへ急いだ。

サービスカウンターに偶然いたSさんに声をかけると、すぐにレジ打ちをしてくれた。バーコードをスキャンしながら、「あるあるですよね~」なんて、言ってくださる。本当だろうか。サザエさんみたいな人、私以外にもそんなにいるのだろうか、と思いながらも、Sさんとの会話に恥ずかしさを半分にしてもらって、ほかほかした気持ちでお会計を終えた。

その後、我が家は隣の市へ引っ越しをしたためにこのスーパーへ行くことは、ほとんどなくなってしまった。

そそっかしい私は、引っ越し先のスーパーでも一度、サザエさんになった。でもその時は、バッグにパスケースに入ったクレジットカードを持っていたので、問題なかった。レジで支払いをしながら、あの日のSさんを思い出した。

つくづく思う。このそそっかしさをどうにかしたい。そして、手際よく仕事をこなし、人のことを思いやれる人になりたい。Sさんのように。






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