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『V.LEAGUE DIVISION1 #男子ファイナル 第1戦 を、 “得点経過” とともに振り返る』 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #vleague #Vリーグ

 新装開店したV.LEAGUEも、残すはDIVISION1 のファイナルを男女1戦ずつ残すのみとなりました。第2戦は次の土日となりますが、週末までの時間は第1戦のことをあれこれ議論したり、第2戦に思いをはせるにちょうど良い時間です。

 今回は男子ファイナル第1戦『パナソニックパンサーズ 対 JTサンダーズ』のカードを、試合の “得点経過” に注目しながら振り返ってみたいと思います。

 私事ですが先日の日本バレーボール学会 第24回大会で、Vプレミアリーグ 2016/17、2017/18シーズンのデータを用いて、試合中の得点と失点、サーブ権の有無、の3つの情報から「そのセットに勝利する確率」を求める計算式を作成して、発表してみました。

 この計算式を使って、ファイナル第1戦の得点推移に合わせて、勝利確率の推移から試合展開を眺めてみたい、というのが今回の目的になります。

◎ 第1セットの得点推移と「勝利確率」

 「『勝利確率』とは何ぞや?」という問いには、細かい説明をするよりも図で見てもらった方が早いと思います。

 以下の図1は、第1セットの両チームの得点推移と、試合に勝利したパナソニックチームの視点から見た「勝利確率」の推移になります。

 青の線がパナソニックの得点を、緑の線がJTの得点の推移を表しています(左の軸を参照)。

 そして、赤い線が各得点状況・サーブ権の有無におけるパナソニックの「勝利確率」の推移、という形になっています(右の軸を参照)。

 例として、グレーの枠で示した部分をご覧下さい。これは、

パナソニックが3対1でリードして、パナソニックのサーブから始まる得点状況において、このセットをパナソニックが勝利する確率が「72%」と推定される

ということを示しています。


 この「勝利確率」というのは、あらがうことのできない運命のようなものではなく、約2シーズン分のVリーグのデータから求めた、同じ得点状況・サーブ権の有無における一般的な勝利確率となっています。

 あくまで目安のようなものでしかありませんが、この情報が加わることで試合中どちらがどの程度優勢なのか? がわかり易くなっていると思います。

 フキダシにつけたTのマークは、両チームがタイムアウトを取ったタイミングです。青色がパナソニック、緑色がJTのタイムアウトになります。

 「勝利確率」と一緒に示すことで、どのような状況でベンチが手を打ったのか? を確認できると思います。


 こんな感じで、残りのセットも見ていきましょう。


◎ 第2セット

 続いて、第2セットの得点と「勝利確率」の推移を図2に示します。

 グラフの見方は第1セットと同じです。このセットはJTが取りましたが、かなり早い段階でJT有利の状況が固まってしまっていることがわかると思います。

 セットの中盤から終盤にかけて、黄色の破線で囲んだ部分に示すように、パナソニックが追い上げた場面がありましたが、この追い上げは「勝利確率」を引き上げるには至っていないことがわかります(1%くらいは上昇してはいるのですが)。

 パナソニック視点でこのセットを見れば、最後まで諦めずに喰らいつくことも大切かもしれませんが、このセットを落としても試合に負けるわけではないので、ある程度の段階で、見切りをつけるのも作戦の1つではないかと思います。

 実際、セット中盤から終盤にかけてはメンバーを替えていますが、主力を休ませるような判断であった可能性もあります。


◎ 第3セット

 続いて、第3セットのグラフを図3に示します。

 青と緑の得点推移を見ると、終盤まで絡み合って進み、最後にJTがリードして、セットを奪っています。ですので、中盤までは「勝利確率」も、どちらが有利ともいえないレベルで上下しています。

 しかし、ところどころ「勝利確率」が跳ね上がる場面があります。これはパナソニックがブレイク、つまり、サーブ権があるラリーで得点したためです。

 一般に、サーブから始まるラリーとレセプションから始まるラリーでは、レセプション側のほうが得点し易いと言われています。このレセプション側の有利をひっくり返してサーブ側が得点する(ブレイク)ことは、勝利確率の大幅上昇として返ってくるというわけです。

 第3セットは途中のサブスティテューションの情報も加えてみました。あれもこれも情報を追加すると、元のグラフが見え難くなるというジレンマがありますが、得点推移の中で、このようにベンチワークを確認できることには意味があります。


◎ 第4セット

 それでは、第4セットを図4に示します。

 このセットは、30点を超えるまで2チームの得点が絡み合う大接戦であるのが特徴です。そして、もう1つの特徴として、中盤で「勝利確率」がどちらかのチームに有利に傾くと、もう一方のチームはタイムアウトを取って状況を五分に近いところまで戻す、という展開になっています。

 最終的にセットを奪ったのはパナソニックですが、ほとんど差の無いセットだったといえるでしょう。


◎ 第5セット

 最後に第5セットです。厳密な話をするとこのセットのみ、「勝利確率」の計算式は別物となっています。以下の図5に示します。

 このセットは、タイムアウトとサブスティテューションの状況を追加表示しています。

 序盤JTがリードする展開の中、中盤にパナソニックが追い上げると、JTはタイムアウトにサブスティテューションと、次々にカードを切っています。しかし、最終的にはパナソニックが逆転し、セットカウント3-2で勝利して終わります。


◎ まとめ

 以上、男子ファイナル第1戦を “得点経過” に注目して、振り返ってみました。

 他でも言われていることですが、パナソニックが勝利したとはいえ、JTを圧倒したとはいえない結果で、そのことは試合展開の指標としての「勝利確率」の推移にも表れていたと思います。

 この調子だと、第2戦もどうなるかはわからないというのが正直なところで、それぞれのチームのファンからすればやきもきするかもしれませんが、次戦も面白くなりそうです。


 最後に技術的な話です。

 このような「勝利確率」を導入した理由ですが、バレーボールの中継を見ていると、画面に以下の図6のような得点推移が必ず表示されますが、これがなんとも味気のない情報だと思っていたからです。

 得点の推移を見て取ることができる表現の方法ではありますが、それだけであまり面白いデータではないよなと思っていました。

 こういう情報は試合中にチョロっとしか表示されませんが、だからこそ、パッと見て直感的に理解できるような表現が必要だと思うわけです。


 今回の「勝利確率」を計算する方法は、2019年3月に学会に持って行ったまだ新しい技術です。分析に使ったデータには2018/19シーズンのものは含まれていません。

 そこで今後の話にはなりますが、データを追加して微調整を行い、将来的には誰でも簡単に「勝利確率」を求めることができるようにはしたいなぁと思っています。

文責:佐藤 文彦

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