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【アーカイブ記事(2017/09/27公開記事】「アメリカの大学バレー事情【第2章】 〜アメリカの男子バレーボールを支える BYU 〜」 #コラム #volleyball2 #vabotter #バレーボール #世界のバレーから


・前回記事「アメリカの大学バレー事情【第1章】


 4月上旬はシーズンの最終盤時期です。この時期の勝敗がカンファレンストーナメントへの出場、NCAA チャンピオンシップへの出場に直接関係してきますし、これまで観てきたチームの4年生が卒業してしまうと、このメンバーでのチームはもう、観られなくなります。4年生の選手は卒業後、海外でプロのプレーヤーにならない限り、日本にいる自分が彼らのプレーを観ることは二度とありません。どうしても「今、観ておきたい」という気持ちに駆られました。

 カリフォルニア州南部、ロサンゼルス北西の海沿いに位置するサンタバーバラの UCSB で BYU 戦を1試合、ロサンゼルスの UCLA で Hawaii 戦を2試合、観戦してきました。

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 観戦した4チームとも MPSF のチームです。この時点でのカンファレンス内順位は BYU が2位、Hawaii が3位、UCLA が4位、UCSB は9位でした。また、リーグ全体では BYU は3位、Hawaii が4位、UCLA が6位、UCSB が21位という成績でした。


 中でも BYU は、2016年シーズンにおいて MPSF で圧倒的な強さを示し、リーグ全体でも1位の座をシーズン通してほぼキープしていました。カンファレンス優勝を経てチャンピオンシップに臨み、決勝まで勝ち進んだものの、決勝では Ohio 相手にシーズン中に見せていた力を発揮させてもらえず、ストレート負けを喫するという、BYU にとってはまさかの最終戦でした。

 そんな2016年シーズンとほぼメンバーが変わらない今季こそという思いで挑んだであろう2017年シーズンは、主力の OP ベンジャミン・パッチ(R-3年(*1))やブレンデン・サンダー(シニア代表のテイラー・サンダーの弟、3年)が怪我で戦列を離れることが多かったものの、大学からバレーを始めた OH(Outside Hitter)ジェイク・ラングロイス(4年)の踏ん張りや、若手の台頭によるベンチの層の厚さで、カバーすることに見事に成功していました。

 BYU のショーン・オルムステッド監督は、女子の監督から2016年シーズンに男子の監督へ移ったのですが、大一番の試合の重要な局面で敢えて1年生(例えばクレイトン・スタンリーの弟でセッターのウィル・スタンリー)を起用し、独特な会場の雰囲気やプレッシャーの中で戦うことに慣れさせ、実戦経験を積ませながら勝利をも掴もうとするなかなかの策士です。


 アメリカでは大学スポーツにおいても、フットボールやバスケットボールに比べると男子バレーボールの人気はまだまだ低く、ガラガラの会場で試合が行われることが多いのが現状ですが、BYU は学内で男子バレーボール人気が高く、ホーム開催は大変盛り上がります。

 年間観客動員数も平均4,000~5,000人と男子バレーボールの中でダントツの1位です。

 下の動画は昨シーズン一番盛り上がった LBSU 戦ホーム、スミス・フィールド・ハウスでの会場の雰囲気です(特に見ていただきたいのは、2:36頃からの会場の様子です)。


  BYU は昨年末に79歳で亡くなったカール・マクガウンが、運動学習理論をもとに作り上げたチームです。マクガウンは歴代シニア代表チームにもコーチとして長年携わり、多くの選手をコーチングしてきました。男子代表が北京五輪で金メダルを獲得した時の監督だったヒュー・マッカーチョン(ロンドン五輪では女子代表監督として銀メダルを獲得、その後はミネソタ大女子バレーボールの監督をしています)も、マクガウンの教え子の1人です。

 マッカーチョンは故郷のニュージーランドで学生だった頃、FIVB の技術コーチ(当時)としてニュージーランドを訪れていた現アメリカバレーボール協会役員のジョン・ケッセルに「アメリカでプレーしたいので手助けをしてほしい」と相談したところ、「それならマクガウンのいる BYU に行くのが一番いいと思うよ」と勧められたそうです(*2)。

 アドバイスに従い、マッカーチョンは地元の大学から BYU へ転校、マクガウンのもとでプレーしました。卒業後はフィンランドと日本(象印)で計2年間、プロとしてプレーした後、1995年~2001年までは BYU のアシスタントコーチを務め、マクガウンからコーチングについてさまざまなことを学んだとのことです。それが彼の現在のコーチングに多大な影響を及ぼしていると、マクガウンが亡くなった折にマッカーチョン自身が振り返って語っていました(*3)。

 また、現在のシニア代表チームやアンダーカテゴリーチームのアシスタントコーチには BYU 出身者が多く見られます。こうしてみていくと、BYU がアメリカの男子バレーボールを長年支えてきた中核的存在の1つといえるかと思います。


 その BYU が UCSB で戦う1試合を見るために、ロサンゼルス空港に到着してからバスで1時間半ほどのサンタバーバラへ向かいました。

 サンタバーバラは気候が穏やかで治安もよく、きれいな海岸があり、中心地はスペイン調の街並みが美しいことから、観光地および別荘地として有名です。UCSB はその中心地からバスで西へ1時間強のところにあり、太平洋岸に面したキャンパスを有しています。そのため大学が独自のラグーンやビーチを所有しており、私が訪れた際も海でサーフィンを楽しんでいる学生の姿を見かけました。

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 こちらは今回試合が行われた体育館、ロバートソン・ジムナジウムです。

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 体育館の位置を確認してからキャンパス内を散策し、体育館に戻ると、すでに試合前練習が行われており、観客の入場も始まっていました。

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 入口では学生と思われる男女がTシャツ等の物品販売、チケットの確認、両チームのメンバー表(名前、ポジション、身長、学年、ホームタウン、出身高校等が記載されたもの)配布等の運営に携わっていました。

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 このメンバー表ですが、その日の日付、試合開始時間、会場名(写真)も明記されているので、試合観戦の記念にもなりとてもいいなと思いました。


 なお、観戦時に必要なチケットですが、日本でも購入することができます。各大学のウェブサイトからチケット購入のページへ進み(表記は英語になります)手続きをします。いずれもクレジットカード決済で、UCSB のチケットは$9.00、購入完了メールをプリントアウトしたものを体育館の受付で提示すれば、すぐに中に入れてもらえました。

 後述する UCLA の方は$14.70、アメリカ国外からの購入は Will Call (*4)扱いとなり、大学の体育館横にあるチケットブースにて、購入時に使用したクレジットカードと、パスポートや国際運転免許証等の顔写真入り身分証明書の提示が必要でした。そこでチケットを受け取ってから、体育館入口へ向かいます。

 UCSB・UCLA どちらも、会場の座席はすべて自由席でした。

 館内に入った途端、目の前に大男がずらーっと並んでいて、あまりの距離の近さにおののいてしまいました。

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 下の動画は試合前の練習風景ですが、BYU の MB はブロック練習時に、教科書どおりの両足でのブロックステップ以外に、片足でのブロックステップも練習していました。


 試合の方ですが、第1セットは BYU が終始リードして進み、24-21と先にセットポイントを取ったものの、その後 UCSB がサーブで攻め立てます。BYU はエラーが多発、そのまま24-26と UCSB が一気に逆転で奪いました。第2セットは一進一退の末 BYU。第3セットも追いつ追われつの展開が続きましたが、途中で OP のティム・ドバート(ドイツ出身、R-3年(*1))がブロックされるシーンが増え、ブロックを嫌ってクロスに打ったスパイクがアウト、直後にストレートに打ってアウトとなったところで、オルムステッド監督はこれまで鼠径部の怪我で試合に出る機会が少なかったパッチを投入。UCSB に流れが行きそうだったところを、逆に一気に引き離していきました。

 UCSB 1(26-24, 23-25, 16-25, 15-25)3 BYU


 UCSB はレセプションを常時3人で担っていましたが、BYU の厄介なジャンプフローターサーブに対応するため、アタックライン付近で構えてオーバーハンドパスで返すという作戦を採っていたように見えました。ですが、アタックライン付近でレセプションすると、後衛 OH は bick に入ることがほとんどできなくなり、前衛 OH も MB と交錯しやすく、エンドライン付近でのインアウトのジャッジが難しいように思えました。さらに、ジャンプフローターと同じフォームからパワージャンプフローター(*5)を打たれた時には対応できずに、サービスエースを取られるシーンもありました。

 BYU がその辺の弱点をうまく狙って突くようになると、UCSB は徐々にレセプションを崩され苦しい状況に。UCSB のベンチはエースの OH ジェイコブ・デルソン(R-4年(*1))を交替させますが、立て直すことはできず、その後は終始 BYU に押されるばかりの展開となってしまいました。ちなみに、この試合の BYU のサービスエース数は13本で、シーズン記録となりました。


 BYU のベンチは試合中に映像も使ってリアルタイムでデータを集め、それを参考にしながら刻々と戦術を変えていました。ベンチからサーブを打つ時には狙いどころ、ブロックのポジショニングや誰がどのコースを絞るのか、ディグやレセプションの位置等々細かい指示が次々に飛び交っており、それゆえその指示がハマった時には選手もベンチも一体となって喜んでいる姿がよく見られました。

 逆に、決まりごとや指示と違う動きを選手がすると、コーチが烈火のごとく怒りますが、選手も納得がいかないと負けずに主張していたりして、選手とコーチは同じ目的に向かって「ともに戦う対等な関係、同志なのだ」と感じました。


 また、この試合の BYU のブロック数は12本(ソロブロック1本+ブロックアシスト22本(*6))と高い数字を残しています。シーズンを通してもセットごとのブロック数がリーグ全体の3位で、ブロックアシスト数が同じく3位、ソロブロック数はワースト5位です。2016年シーズンも、セットごとのブロック数が全体の1位で、ブロックアシスト数も1位、一方でソロブロック数は最下位でした。

 BYU がいかに組織的なブロック戦術を駆使しているかが読み取れるかと思います。


 試合終了後、BYU の選手はすぐに引き上げてしまいましたが、UCSB の選手たちはそのままコートにとどまり、観戦に来た家族や友人と話したり写真を撮ったりと、敗戦後ではありましたが和やかな空気が流れていました。


 翌日はサンタバーバラからロサンゼルスに戻り、ウエストウッドにある UCLA キャンパスへ向かいました。(次回に続く)

(*1) 「R-X年」は「レッドシャツ」の期間を挟んで現在X年生、という意味で、詳しくは【第1章】を参照のこと
 
(*2) Blog: Videos McCutcheon and Lessons, Oh My!(『USA Volleyball』より)
 
(*3) Hugh Mccutcheon thinks volleyball(『Tv - Think Volleyball』より)

(*4) Will Call(ウィルコール)とは、既に代金の一部または全額を支払っている予約済みチケットを受け取ることのできる窓口のことであり、そういったチケット受け取りシステム自体をも指す。(『Wikipedia』より)
 
(*5) ジャンプフローターサーブと同じような助走動作でジャンプし、スパイクサーブのようにスピードのあるボールを打ち込むサーブ
→ 動画例 https://www.youtube.com/watch?v=Jc_Sw8hImBU

(*6) チームブロック数は「ソロブロック数+(ブロックアシスト数÷2)」の計算式で算出、詳しくは【第1章】を参照のこと

参考文献:吉田良治(2015)『スポーツマネジメント論 アメリカの大学スポーツビジネスに学ぶ』(昭和堂)

photo by 宮間

文責:宮間
アメリカ男子シニア代表に魅了され、アメリカの男子大学バレーボールも観るように。
カッコよくておもしろいバレーボールに惹かれます。

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