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解剖!霞ヶ関 国家公務員の企画力に潜む意外なスキル

(官⇆民の越境キャリアを支援するVOLVEのnoteです。)
VOLVEの吉井です。好評いただいた、霞が関の調整力に関する記事に続く、霞が関で培われるスキルの第2弾。今回は「企画力」を取り上げます。


企画には「想像力」が求められる

何かを企画する仕事に必要な武器としてよく言われるのは、ファクト(定量・定性)とロジックです。この2つの武器の重要性はいたるところで指摘をされています。私はそれにあえて、「想像」という武器の重要性を追加したいと思います。

そもそも企画の仕事の特徴とは何でしょうか。企画の仕事は、「自分が現場にいない」中で、「相手(現場や顧客)を持ち」ながら、「新しいものを創る」仕事です。
それがビジネスだろうと行政だろうと、現場には解像度の高い課題とソリューションがありますが、通常、企画をするのは現場にいない人たちです。組織としての優先順位を付けたり、現場にいると逆に見えない他の事業との調整をしたりする必要があるからです。そうして、現場にいない人たちが企画をする以上は、その内容を実施する現場の人や、彼らから製品・サービスの提供を受ける顧客という相手がいます。また、そのように企画した内容が新味に欠けるものであったり、特定の組織にカスタマイズしたものでなければ、事業が前進しないため、往々にして、人が見たことがないものを創ることが企画の仕事になります。

そのような、「自分が現場にいない」中で、「相手を持ち」ながら、「新しいものを創る」という企画の仕事の特徴は、言い方を変えると、「自分が直接経験していないこと」を予測しながら、打ち手を考える仕事ということでもあります。現場がどうまわっているのか、相手が何を考えたり感じたりしているのか、改善策や新たなビジネスに相手がどう反応するか、予測しながら企画をする必要があります。

このような状況に対して、ファクトとロジックは、メカニズムの理解に加えて、全体の傾向と一部の実態の把握を提供します。自分自身が経験したことがないものについて、何らかのレポートや本を読んだり、人の話を聞いたり、現場を観察したり、データを分析したりした情報を整理し、さらに、それらを論理的につなぎあわせます。そうすることで、現場で何が起きているのか、相手が何を考えるか、人が見たことがないものが何をもたらすのか、ということへの洞察をかたちづくります。

それでも、全てを表現しつくすことは不可能で、ロジックには例外があり、ファクトを構成する数字も観察も常に断片的であり、どうしても行間が生まれます。その行間を埋めるものが「想像」です。「想像力」の高い企画者は、同じ情報から解像度の高いイメージを形成して、さらなるファクト収集が必要な部分を特定したり、施策の具体的な内容を考えたりしています。そのイメージに基づいてアクションを考えるので、それは、成果を左右するほど重要です。

霞が関では「想像力」が求められる

私は霞が関が、「想像力」が強く求められる場所だと考えています。霞が関の仕事は、現場が極めて遠く、相手がとにかく多く、未知に対応する仕事だからです。

まず、霞が関の仕事は、通常の情報フィルタの階層性という意味で、とにかく現場が遠い仕事です。事業会社の経営企画やコンサルティング会社の仕事よりも、さらに現場が遠いことが多い。
霞が関が企画する行政サービスは、都道府県庁と市役所のそれぞれでカスタマイズされ、最終的に市役所の現場職員の手によって提供される場合があります。
霞が関がつくるビジネスへの規制も、公式の場では経済団体や業界団体と協議をしますが、その先に個々の会員企業があり、その中に本社と現場があり、その現場において実際の製品・サービスが製造・提供されます。
もちろん、クレームを中心として現場の生の声が中央省庁に届くこともしばしばありますし、それを積極的に取りに行く人もいます。しかしながら、n=1の解像度の高さを大切にしながらも、全体最適を考えようと思うと、このような多重フィルタを通して現場への影響を予測して、企画立案することになります。

次に、霞が関の仕事は、とにかく相手の多い仕事です。それこそ調整力の記事でも触れた通り、役所の片隅の部屋で仕事をしていても、国会議員や関係団体、アカデミアの有識者、関係省庁、場合によっては諸外国を相手に調整をする必要があります。
それぞれの調整相手が置かれた立場や基本的な考え方、過去の言動から、そぞれの調整相手の反応を予測して、施策を立案します。

最後に、霞が関の仕事は、未知のことに対応する仕事でもあります。技術が高度化し、社会全体が複雑化・多様化する中で、将来を予測することは極めて難しくなっています。そのような中でも、現時点での社会の課題を把握し、このままいくと社会はどうなるかを予測し、それに基づいて、現在の政策に落とし込み、その効果を予測する仕事です。

このように多くのことを予測する仕事だからこそ、優秀な国家公務員の方々は自ら積極的に現場のファクトを取りに行きますし、それでもなお残る、ファクトとロジックの行間を埋めるための「想像力」が求められる仕事でもあります。だからこそ、霞が関の仕事は難しいし、しばしば誤りも生じ、痛烈な批判にも晒されます。こうした緊張状態の中で、日頃から、国家公務員の「想像力」が試され、そして、鍛えられているのです。

さらに「想像力」が鍛えられる環境

国家公務員の「想像力」が高いのは、「想像力が求められる仕事で、想像力が鍛えられる」からだ、というと当たり前のことを言っているだけです。他方で、その「当たり前」を越えて、より「想像力」が鍛えられる環境でもあることも事実です。

良いか悪いかは別として、特に中央省庁勤務の国家公務員は、人事ローテーションで全く経験が無い仕事の部署に配属されることが日常茶飯事です。
そこには、試用期間などは一切ありません。外部の方から見れば、特定の政策の責任者・代表者が目の前にいるのであって、「着任して間もないので、厳しいことを言うのはやめておこう」とは思ってくれません。着任したその日から、事業の現場にいる公務員や、規制対象のビジネスパーソン、そうした方々の声を受ける国会議員や業界団体、その領域を何十年も専門に研究する有識者と話す必要があります。
役所の立場だからこそ会えるそのような人々が、どういう立場で、何故そんなことを言っているのか常に想像をめぐらせないと、全く議論に参加できない環境です。ファクトとロジックの行間を想像で補い、その想像の真偽を対話と情報収集の中で確認して、効率的かつスピーディにキャッチアップしていく必要があります。

また、行政の立場で合意形成をしていくためには、ファクトとロジックが必要なのは当然ですが、逆にそれだけでは十分ではありません。政策の企画が「人が見たことがないものを創る」仕事なら、個々の企画を、厳密に科学的に裏付けることはほぼ不可能です。その結果、その合意形成に関わる方々の人間模様と人間関係もまた、物事を進める上での重要な要素となります。
そこに対する想像力が乏しいと、1つの言動、1つの資料がまわりまわって合意形成にどのような影響を生むかを予測することができません。ある意味で、「風が吹けば桶屋が儲かる」のような人間模様・人間関係の連鎖を想像して、調整力の記事でも触れたようなシナリオメイキングをしています。

こうして、それを普段から意識しているかどうかは別として、国家公務員の「想像力」は日々鍛えられているのです。

「想像力」は官と民を問わず活きる

冒頭で、「自分が現場にいない」中で、「相手を持ち」ながら、「新しいものを創る」仕事が企画の仕事の特徴だと書きました。それが霞が関であろうと、ビジネスであろうと、何らかの企画をする仕事には、「想像力」が不可欠です。

例えば、事業会社の事業企画・経営企画、コンサルティング会社の仕事の多くも、「自分が現場にいない」中で、「相手(現場や顧客)を持ち」ながら、「新しいものを創る」企画の仕事です。
そうした企画の提案を受ける経営者の仕事は、現場から離れて、相手を考えながら、人が見たことがないものを創るために、意思決定をする仕事です。
私の今の職業である人材エージェントも、多くの場合、自分がやったことがない仕事を想像しながら、その内容や難しさ、やりがいを求職者に説明し、それを勧める仕事でもあります。
こうした仕事はいずれも、「想像力」で行間を埋め、解像度の高いイメージを形成することが、成果を左右するでしょう。

国家公務員としての知識・経験・能力・人脈を直接いかせる政府渉外や行政向け営業で採用されて活躍した方々が、次第に事業側に移り、新規事業開発や事業企画をするようになる例が多々あります。それは、国家公務員出身者が鍛えてきた、ファクトとロジックを使いこなす力に加えて、想像をめぐらす力に依るところも大きいのではないでしょうか。日々、国家公務員の方々のキャリアに向き合いながら、そんなことを考えました。

民間転職に興味をお持ちの国家公務員の方へ

「想像力」を含めた国家公務員の企画力を、民間企業の事業でも試してみたいと思う方はぜひ、6月10日に開催予定の弊社キャリアフォーラムへの参加もご検討ください。参加者同士は匿名で参加できる環境で、各企業の方々の採用担当者と対話することができます。

【著:吉井弘和】


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