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【NEXT-GEN】ヴィンテージ時計業界の最年少。新卒の道を捨て飛び込んだ、茨の道。

30代以下の「モノ好き」たちのルーツやビジョンに迫る。


そうそうたるヴィンテージ時計の名店が点在する東京で実店舗の開店を目指し、新卒として内定していた企業を辞退。ヴィンテージオメガの名店・White Kingsで勤務しつつ、自らもJwatchmanの屋号を掲げ、時計の道へ飛び込んだ高橋龍一氏(23)。

大学二年生から「ものときろく」のメンバーとして、ポップアップでのヴィンテージ時計販売や取材をともにした彼に、時計沼へ足を踏み入れた経緯から時計業界への想い、今後の展望について話を聞いた。

White Kingsで接客中の高橋氏

- 時計好きになったきっかけは、高校時代に彼女と別れたことから始まったんだよね?(笑)

はい、高校二年生の頃ですね。半年ぐらい付き合って別れました。もともと日本史が好きで、中学生の頃からコイン収集をしてました。とはいっても金貨や銀貨ではなく、「特年」(同じ硬貨であっても年号によって入手困難なもの)を集めてました。振られた反動で古銭収集に移ったんです。

ヤフオクとかメルカリを見てたら古銭以外のものにも目がいっちゃって。なぜか古いものに惹かれるんです。一時期、茶筒やら古文書やらを売り買いして、小遣い稼ぎをしてましたね。旧日本軍の昭和刀も一時期持っていました(笑)その流れで時計を見つけたんです。それが高三の夏でした。その時に安いなと思って買ったのが「タイメックス」の「ウィークエンダー」※です。この時計が自分の中でしっくりきたことから、それ以降、収集癖が発動してしまい、時計集めをするようになりました。

当時、この時計を着用した際に「自分が少し強くなれた気がした」とのこと。

※ウィークエンダー:高い汎用性と視認性、カジュアルなスタイルで世界的なリボンベルトブームを巻き起こした”ウィークエンダー”。性別や国籍を超えて愛される人気モデル

https://www.timexwatch.jp/c/collections/weekender

- 高校卒業・大学入学までに何本所有してたの?

高校卒業には10本ぐらいありましたね。浪人時代にも時計を購入していたので、大学入学時点で20本ぐらいにはなってました。

高校卒業時点での時計コレクション(高橋氏提供)

- 大学はどこを志望して、結局どの大学に入学したんだっけ?

日本史が好きだったんで、歴史学科のある大学を志望していたんですが、全部落ちてしまって。一浪して歴史学科をメインにしつつ、抑えで受けた日本大学の法学部に入ることになりました。ちょうど新型コロナが始まった年ですね。

- 新型コロナが一番ヤバかった時期だよね。大学一年生は登校できなかった?

行っていないですね。事務手続きで一回行ったかどうかぐらいで、初めて同級生に会ったのが大学二年生の健康診断でした。だから、大学一年生の時はめっちゃ時計を買いましたね。毎週のように買ってました。買って売って買って売って、確認して分解しての雪だるま方式でした(笑)

- 新型コロナで時間があったから今の高橋君があるんだね。

そうだと思います。忙しかったらできてなかったと思います。コロナがなかったらこんなことになってないと思います。人生変わりましたね。

- 「ものときろく」に入ってくれたのは大学二年生の春夏ぐらいだったよね?初めて対面したときはどう思った?

オンラインで神谷さん(ものときろく・代表)と対面したときは、「怖い人きた、帰ろうかな」と思いました(笑)その後、初めてリアルで会ったのは大学近くでハンバーガー食べたのが最初だったかと思います。めっちゃ緊張しました。正直味覚えてないです。

- その後、「ものときろく」主催のポップアップに高橋君が初めて出店したのが、学芸大学でのイベントだったよね。あれもこちらから強引に誘った感じだったね(笑)

そうです。マジか…と思いました。

- その時はまだ本気で時計屋になろうとは思ってなかったでしょ?

ガクチカ(就活の定番の質問「学生時代に力を入れたことは何ですか?」)の回答になればいいかな、ぐらいの気持ちでしたね。本業にしようとは思っていなかったです。普通の会社員として生きていくつもりでした。

- 初めてのポップアップはどうだった?

時計を目的に来てくれる人がいたから楽しかったです。その頃は純粋に楽しかったです(笑)

24年1月3日に開催した学芸大学ポップアップの様子

- その後、吉祥寺・経堂とポップアップを続けるうちに時計屋に対する疑問が出てきたんだよね(笑)

出てきました。経堂のポップアップあたりから罪悪感が生まれてしまって。電池交換とか最低限の整備はしてますけど、結局のところ横流ししてるだけじゃないですか。それに対して罪悪感もありましたし、それで生活していけるかって考えたときに無理だろうと思いました。それに加えて気分屋なので、あの時は一時的に時計業を投げ出したくなりましたね。

- そこから抜け出せたのはどうして?

割り切りました。そういう世界だなと思って。そこから都内の時計屋さんの取材にも同行させてもらって、さらに見え方が変わりました。

- どういうふうに変わったのかな?

もうちょっと真面目に時計を見ようと思いました。また、自分だけが良いと思っているだけではダメで、良さを言語化できて初めて時計屋は成り立つということを学びました。お客さんって言い方悪いですが、結局素人じゃないですか?「これって良いですよね」だけでは伝わらないので、何がどんなふうに良いか分かりやすく説明して初めて成立するんだなってことを、White Kingsの山田さん、江口時計店の江口さんの取材を通して感じることができました。

- その後、White Kingsにアルバイトとして働かないかってオファーをもらうわけだよね。

取材後、お店に再訪したんですが、そこで「スタッフが足りてなくて、友達に良い人いない?」って聞かれたので「自分でもいいですか?」って答えました。その直前に時計屋のアルバイトに応募したんですけど返信が返ってこなくて、凹んでたんで拾ってもらえて良かったです(笑)

2023年8月から働き始めたばかりですが、阪神百貨店やVCMといったイベントにも同行させてもらいました。

- そこから大学卒業が迫ってくるわけだけど、内定を辞退して、White Kingsのスタッフとして働くことにしたんだよね。

もともとは就職するまでの間だけ、White Kingsさんにお世話になるつもりでしたが、内定辞退の期限が迫るにつれ、このまま就職するか、時計業界に身を置くか、真剣に悩むようになりました。割と周りのことを気にするタイプで、White Kingsさんも本心では自分を受け入れてくれていないのではないかと不安に感じていました。ただ、お話していると本当に受け入れてくれているなと感じることができるので、これは乗っかろうと決断しました。

- 本当に受け入れてくれてるってなぜ感じられたのかな?

全部話してくれるんですよ。失敗談から些細な日常でのことだったり、お金のことまでも話してくれたので「自分に対して本気で向き合ってくれてるんだな」と感じることができました。

- 大学の友達とは全く別のルートを辿ったわけだけど、どう感じてる?

同期になる予定だった人のSNSを見ていると、飲み会とか研修中の様子が流れてきて、楽しそうでうらやましいなと思いますけど、こっちは平日休みだしなって思って何とか生きてます(笑)

- ここからは高橋君の時計遍歴を聞いていきたいんだけど、大学時代で時計コレクションって変わっていった?

変わりましたね。大学一年生の頃は安くて、売っても損しないものを買ってたので気に入るかどうかは二の次でした。この「ロレックス」の「オイスターパーペチュアル1501」※を手に入れたのは大学一年生です。通学することがなかったので、奨学金とバイト代で買いました。冷やかしで入札したら落札できちゃって、「あー終わったわ」って思いましたね(笑)

高橋「初めて手にした時は神々しさを感じました(笑)」

※オイスターパーペチュアル1501:ロレックスの傑作モデルの1500にエンジンターンドベゼルを装着したモデルのこと。オイスター(=防水ケース)パーペチュアル(=全回転式自動巻き機構)を意味する。

- 大学二年生からはどういうコレクションに変化していったの?

国産好きが始まったのがここからですね。この「56キングセイコー」※が象徴的です。

- イメージあるね。なんで国産が好きだったの?

安いからたくさん買えて、面白いものが多かったからですね。最初はあまり好きではなかったんですよね。文字盤が白くて同じ形で「おっさんじゃん」って思ってました。けど、実際持ってみるとサイズも小さくて「意外といいな」って。

※56キングセイコー:1960年代後半に日本のセイコーが発売した高級腕時計。キングセイコーに搭載されるcal.56系とは、準高級機ー最高級機モデルに同一のベース機を採用したセイコー初の試みでもある。

- 初めてポップアップをした時に国産を推してたけど、まだコレクション始めて一年ぐらいだったってこと?すごいね。

コロナが化け物を産みましたね(笑)コロナ禍で時計について、めっちゃ調べてました。他人の受け売りってダサいじゃないですか?それが本当に嫌いだったんで、全部調べて自分なりに理解することを意識していました。そこで時計の面白さが分かりましたね。

- そこが普通の転売屋になってしまう人と一番違うよね。

それは今でも思いますね。転売屋は相場に縛られるんですよ。相場でしか生きられない人間なんで、自分とは違うと思います。

- 大学二年生時点で時計は全部で何本ぐらいになったの?

50本ぐらいだと思います。最初は管理表を作ってたんですけど諦めました(笑)

- 他にも大学時代に手に入れた思い入れのある時計はある?

恩賜の懐中時計(天皇が東京帝国大学の優等卒業生に「下賜」した褒賞品。1899年から1919年まで続いた)ですね。これは凄いです。

高橋「家宝レベルのものなので、市場に出てくることがちょっと問題だと思います。海外に流れなくて良かったと心から思います。」

- ある意味、究極の国産時計だよね。大学三年生から四年生も国産中心だった?

いろんな国の時計を扱うようになっていきましたね。もともと相場が高いものを安く引っ張ってくるのが得意だったんですよ。運が良いんですよね。大学四年生になる頃には買取店がやっているオークションで仕入れるようになって、少しずつ金銭的にも余裕が出てきましたね。BtoBで卸も始めたので有名店に自分が仕入れた時計が入っているのを見て、嬉しい気分になりました。

- これからはWhite Kingsでお世話になりつつ、Jwatchmanとして自分でも時計屋をやっていくわけだけど、コンセプトを教えてもらっていい?

貴金属(金・銀・プラチナ)を専門に扱うヴィンテージ時計屋です。貴金属って資産になるので、時計のケースだけ剥ぎ取って溶かされて、数がなくなってしまうんです。それを散々見てきたので、この流れを止めさせたいなと思っています。SDGsの時代において何言ってんだという話ですが、歴史的な工業製品を破壊して、リサイクルの大義名分を掲げてただの金の塊にして何が楽しいのかを全く持って理解できないんですよね。金の時計に対して、素材が持つ価値以上をのせて、溶かさせないようにするのが目的です。対外的に発言するときは抑えるようにしているんですが、正直なところ本当にムカつくんですよ(笑)Jwatchmanに関しては主題にしたいテーマがもう一つあるんですが、今は秘密です。

- コンセプトとしては面白いけど、お客さんに対しての伝え方が難しそうだね。

金の持っている魅力である「重さ」「肌触り」「色」もそうですし、忌避されがちな資産性についてもしっかり伝えていこうかなと思います。

- 現時点で一番気に入っている時計は何かな?

金無垢の「エテルナ・マチック」ですね。去年入手した時計です。50年代の時計なので金をたくさん使っているんですよ。60年代以降になるとムーブメントの端にメタルスペーサー※を詰めて重さを出しているので、使っている金が少ないんですが、50年代は機械に合わせて時計のケースを作っているので、重さに偽りがないんです。文字盤がホワイトなんですが、見方によってはグレーに見えたりするのが面白いですね。また、針の長さが適正でサイズ感も良く、ローター軸はボールベアリング式※で当時としては画期的で良い時計だと思います。

※メタルスペーサー:ムーブメント(機械を固定する金属製の枠のこと)
※ボールベアリング式:軸受けに金属球を使うことで耐摩耗性を高めたローター保持方式。エテルナはこの機構を初めて腕時計に応用した。

- この時計がJwatchmanが販売していきたい時計の象徴でもあるのかな?

そうです。偽りのない時計、馬鹿正直に作っていた時代の時計ですね。

- 貴金属専門でやっているヴィンテージ時計屋は他にないの?

ないと思います。潰しはすると思いますけど(笑)資本があるお店より先にコンセプトとして打ち出したいですね。

- 最終的には実店舗を持ちたいとか考えてるの?

持ちたいです。エリアは、時計屋の空白地帯となっている下北沢あたりかなと思っています。五年以内には開店したいと思いつつ、店舗運営の厳しさをWhite Kingsさんで学んでいるので少し慎重に進めようかなと。

- 同世代の人にヴィンテージ時計を好きになって欲しいっていう気持ちはある?

もちろんあります。僕らのような、いわゆるZ世代って古着ブームやレトロブームの影響もあって、モノを大事にしたり、継承したりするのが好きだと思うんです。そこに重点を置けば、古い腕時計の復権って絶対に成し遂げられると確信しています。現に「ヴィンテージウォッチFAQs」と銘打ってInstagram広告を打ったのですが、予想通りの良い反応をもらえました。潜在的な需要はあるので、あとは実物を見てもらってそれにお金を払う価値があるか見極めてもらう必要がありますね。そのためにはポップアップだけではなく、実店舗を構えないといけないと思っています。触れてもらわないことには始まりませんし。あとは値段を上げ過ぎないことも大事だと思います。

- 時計業界全体に感じている課題はある?

全部じゃないですか?時計売るんだったら中の機械を見ろよって言いたいです。検品ミスとかザラにありますし、オリジナルティは一切保証しない、機械は現状渡し。それって時計屋じゃなくてただの骨董屋だろって思うこともあります。おかげで安く引けることもありますが(笑)正直お客さんのことなめてるなと。真面目にやってる人が損する業界だなと常々感じます(笑)それも僕らの代で終わらせたいですね。

- 高橋君個人としての時計のコレクションは今後も続けていくの?

もちろん続けていきます。やっぱり時計は好きですし、仕入れたものに惚れ込んで手放せないことも多々あります。ただ、その規模やクオリティに関しては凝縮していくつもりです。

- 周りから「業界最年少」って呼ばれることに対してはどういう感情なの?

確かに国内の同年代の時計好きの中では一番だと自覚してますが、恥ずかしい気持ちもありますね(笑)

- 結局、高橋君にとって時計の魅力ってなんだろう?

良いところはいくらでも言えるんですけど、自分が好きな理由を説明するのが難しいですね。時計を着けるって僕にとっては服を着るのと同じかなと。やっぱり新しい時計を買って手にした瞬間、面白い時計を見つけた瞬間が、一番テンション上がりますしね。

- 最後に今後の意気込みをどうぞ!

時計が生活の一部になる人を増やしていけるよう、頑張ります!


Jwatch man
目指すは気張らない時計店!
日本最年少オーナーのオンライン時計専門店!

営業時間: 店主が起きている時間に準じます。
学芸大学駅近辺で定期的に出店中!
古物商許可 埼玉県公安委員会 第431330057707

BASE:https://jwatchman.base.shop/


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