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【NEXT-GEN】浅草橋から世界へ。古着に命をかける若き中東バイヤー

30代以下の「モノ好き」たちのルーツやビジョンに迫る。


東京都台東区は浅草橋。古着好きな人間であれば、浅草橋に古着のイメージがないことは伝わるだろう。そんな古着カルチャーが染み付いていない下町にバックパッカーの過去を持つ24歳の天野氏が新進気鋭の古着屋「'bout」を2023年11月にオープンした。

圧巻のスペシャルヴィンテージをいかにして仕入れているのか、そして天野氏が見据える未来とは。

- 'boutの取扱商品について教えてください。

一階はCP COMPANY・STONE ISLANDの年代物やアーカイブが大半を占めていて、他にはそのデザインソースとなった70年代以降のミリタリーアイテムや、デザインの効いたグッドレギュラーを揃えています。

二階は1910〜1960年代のヨーロッパのヴィンテージアイテムを中心にセレクトしています。一番重視しているのは素材や、やれ感といったヴィンテージならではの魅力があるかどうか。ボロければ良い、デットストックだから良いというわけでもなく絶妙な塩梅を考えて選んでいます。

- 'boutの店名の由来を教えてください。

全ての衣服に哲学や文学的な背景があると考えています。「a'bout vintage  (vintageとは)」には、そういった衣服の背景をお客様にしっかりと伝えていこうという姿勢をあらわしています。

天野氏自身の性格が猪突猛進型で、フランス語の「a bout」には"完全燃焼"というニュアンスが含まれていることから、しっくりきたということも店名の由来の一つとのこと。

- 天野さんの古着との出会いを教えてください。

古着との出会いは高校一年生の頃で、高校の近くにあった古着屋さんでした。これまで見てきた服とは全く違うバリエーションが楽しくて衝撃的でしたね。そこから一気にのめり込んでしまい、それ以降は古着以外買っていません。

- そこから古着屋になろうと思ったきっかけは。

古着を商売として始めたのは20歳でした。それまでは大学に通いながら、お金が貯まったらバックパッカーをして世界各地で古着を買っていました。ロンドンに行くタイミングでまとまった金額を貯めて、一回商売としてやってみようと。そこからオンライン販売と小売店への卸売りをヨーロッパを周りながら始めました。

- 高校一年生で古着を好きなり、たった四年で古着屋としてやっていく決意を固めるのは、かなりハイスピードですね。

バックパッカーをしていた際、古着を買うのが一番楽しかったので、自分はこれだと確信しました。あと、一旅行客として滞在する海外と、古着という仕事を通して滞在する海外は全く違います。何度も買い付けにいく中で、現地の人たちの生活がよく見えるのがいいなと感じます。今のうちから海外の価値観に深く触れておくことが今後の自分の人生にとっても大きいかなと思ってます。

オンライン販売と卸を経験した後、店舗を出そうと決心したのが22歳の頃でした。古着屋において買い付け力は重要なので、古着があると聞いた場所には全部行きましたね。ある時、ヨーロッパのディーラーから、これまで選択肢になかった中東のとある国に古着がたくさんあるという話を聞きました。なぜ誰も行かないのか聞くと、「かなり危険で命を落とす可能性がある」と言われました。それなら若い自分が行くしかないと思い、震える手でフライトを予約しました。

- その国で買い付け中、実際に危険な体験をしたことはありましたか。

警察官が賄賂目的で逮捕してきたことがありました。当然ながら払いたくなかったので、日本大使館に電話しようとしたら、殴られて携帯電話を奪い取られ、パトカーに入れられました。逮捕されると買い付けができないので、しぶしぶ日本円で三千円ほど払って釈放されました。笑い話としてディーラーに話したら「それは許せない」と、その警察官を突き止めてくれて、次の日にはクビになったようです。

デング熱にかかったこともあります。最初の三日間は、40度ぐらいの熱が出ました。新型コロナの重症化も経験しましたが、それを超えるくらい想像を絶するキツさでした。向かった現地の病院では長蛇の列ができていて、流れ作業のように病人に注射を打ってましたね。そこで処方された謎の錠剤を一日八個ぐらい飲んでいたら、すぐに治りました。ただ、おそらく日本の薬事法で定められた4倍ぐらいの量を摂取してるんじゃないかと思います。(笑)

- 危険を冒してでも良いものを買い付けたいという想いはどこからくるのでしょうか。

商売としてだけで古着屋をやりたくない、お客さまのためにも自分自身のためにも自分が面白い・カッコいいと思うものだけを買い付けたい、という気持ちが根底にあります。そのためにリスクをとってでも、他の人が通っていないルートで買い付けを行っています。

買い付け中の天野氏(本人提供)

- 店舗の立地についてもお伺いしたいです。古着屋といえば高円寺や下北沢などのイメージがありますが、浅草橋にオープンした理由を教えてください。

私はリスクを取って買い付けている分、国内だけでなく、世界中の人々に向けて販売していける商品を取り揃えています。そこで観光客が多い浅草橋を選びました。

また、今の古着業界は先人の積み上げで成り立っていると思っています。新たなマーケットで古着を販売していくことで、これまで古着業界を盛り上げてきてくださった先人たちへの恩返しがしたいですし、業界全体の地位を私が向上させていければと思っています。

- お店を始める前と始めた後でご自身の中で心境の変化はありましたか。

これまでは若さと勢いに任せてやってきましたが、実店舗を持ったことで、できることや魅せ方の自由度が増えたと思うので、まずは自分の思い描くカッコいい店のボーダーラインに立てる努力をしないといけないと思っています。

例えば、店作りだと、一階は天井を高く、色調とライトも明るめにして入りやすい雰囲気を意識しています。二階は対照的に、照明を暖色にして、ちょっと重いピリッとする空間を意識しています。外から見た時の一階と二階の照明の対比も楽しんでいただきたいです。

一階は明るく開放的な雰囲気は新品を扱う店のようだ。
二階は暖かい照明に珠玉のヴィンテージアイテムが照らされている。

- お店を通して実現したい夢や、天野さんご自身のビジョンを教えてください。

お店としては、「カッコいい古着屋といえばウチ」、「服好きにとって日本一の古着屋」を目指したいです。そのためにもスタッフの教育・マネジメントの水準を上げていきたいですね。

あと、個人的な夢としては宇宙旅行に行きたいです。(笑)
そのために二年スパンで目標を考えているのですが、まず二年後には日本一の古着屋になりたいです。2024年9月にはニューヨークのブルックリンでポップアップをやるんですが、そこから本格的に世界へ売っていければと思っています。

- お店を通してお客様に伝えたいことや想いを教えてください。

ヴィンテージ自体が、昔の人のカルチャーなど、醸成してきた空気を纏うものだと思っています。服の背景を理解したうえで、歴史に思いを馳せながら着ることはすごく文化的な行為、少し偉そうに言うと「高尚なたしなみ」だと思っています。それに、服の背景を理解したうえで着るのと、そうでないのとでは愛着も満足度も段違いだと思います。モノとしての魅力はもちろんのこと、そういった背景や哲学を最大限、お客さまに伝える努力をしていきたいです。

- ここからは天野さんを象徴するものを紹介してください。

まずはパスポートです。買い付けに欠かせない相棒ですね。ビザ無しで行ける国が世界一なので日本に生まれて良かったです。海外に行って学びながら買い付ける。自分にとって欠かせないピースです。

もう一つは本ですね。特定のジャンルや作者を見るわけではないですが、買い付けの時に7冊ぐらい持っていきます。買い付け中に見る本はストレートに沁みてきます。夜とか本当に孤独なので、本が癒してくれます。
たいていはボロボロになるので、読み終わったら現地で捨てて帰ってきます。持って帰っても読まないので一回切りで集中して読むようにしています。

- お店として今後長く推していきたいアイテムを教えてください。

STONE ISLANDとC.P COMPANYは生地もデザインも新鮮で底なし沼のように魅力が深く、広いので自分の中でも新鮮さを保つために定番として推していきたいですね。

二階では、個人的に好きなレザーアイテムを定番として扱っていきたいです。レザーは人類が最初に羽織ったこともあり、本能的に原始を呼び起こされるところに魅力を感じますね。それに、ヨーロッパの古いレザーアイテムは現地でも体系化されきっていないので、面白いデザインのものがまだまだたくさん眠っているところもワクワクします。

また、革の価格、職人の工賃が上がりきった今、同じものを作ろうと思うと定価がウン十万としてしまうようなクオリティのものをうちのプライスだと3万円からで買えてしまうというのはお客さまにとっても魅力的だと思います。

- これからのシーズン(春)に向けて推していきたいアイテムはありますか。

フランスの古いデニムカバーオールをおすすめしたいです。ほとんど元のボディが残っていないのですが、紡がれてきた温かみや時間を着れるという最高の贅沢を味わっていただきたいです。

リペアが入ったものを通年で集めてきたので、見比べながら選んでいただきたいなと思います。個体差のある色落ちやリペアなど、海外の服ながら、ものを大切に扱うという日本人とも共通する精神性を感じられます。古着をSDGsという言葉で売り込みたくないですが、古いものを新鮮なものとして見ていただき、カッコ良いと思って手に取っていただいたものが、結果的に今の時代に即した意義あるものになっていることがクールだなと思います。

- 現在お店にあるアイテムでイチオシを教えてください。

STONE ISLANDの"Sail Cloth"パーカは、海軍のダッフルコートをベースに作られているのですが、生地は船のマストと同じものを使っています。袖口、背面裾部分にあしらわれた2本のラインは手榴弾が放つ閃光から着想を得られたものなのですが、これを表現するために白いラインだけを残して縫製後、顔料染を行い、程よく着込まれたことによって生まれた経年変化はまるで海に晒したかのようです。

そこまでをデザインとして組み込む合理性の外にあるモノづくり、異様なまでプロダクトへのこだわりを感じるSTONE ISLANDを象徴するかのような一着だと思います。

二階のアイテムだと、まだ世に出ていないヴィンテージとして、ナチスドイツのスプリンターカモやラビットファー付きのムートンジャケットをおすすめしたいです。ナチスドイツは、国際的に孤立していたため、他国のミリタリーウェアでは見られないデザインが多いことが特徴です。日本よりも海外でコレクターが多いジャンルですね。

ナチスドイツのスプリンターカモ

- 二階の窓の外にハンティングジャケットが吊るされているのが気になります。

オープンしてから今までずっと外で吊るしています。雨の日も風の日も。まだオープンして2ヶ月ですが、既に経年変化が出てきています。お客さまが来ていただくたびに変化していく姿を見ていただきたいなと。これも店を象徴するものですね。

- 最後に、今後いらっしゃるお客様へメッセージをお願いします。

当店には私が全身全霊をかけて買い付けてきたものが並んでいますが、そこまで気負わずに来ていただきたいです。良いものを揃えているので、ゆっくり時間をかけて、買っていただかなくてもいいので楽しんでいただけると嬉しいです。何でも聞いてほしいし、とにかくコミュニケーションがしたいです。お気軽にいらっしゃってください。


'bout
東京都台東区浅草橋2丁目3−2
営業時間:13:00〜20:00 火曜・水曜定休
Instagram:https://www.instagram.com/a.bout_vintage/
Online store:https://bout.fashionstore.jp/


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