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「見たいものだけ見る政治」支えた国民意識 宮台真司

「見たいものだけ見る政治」支えた国民意識 宮台真司氏
聞き手・高久潤2020年9月14日06時30分
写真・図版 社会学者の宮台真司さん
社会学者の宮台真司さん
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(無料分)
 憲政史上最長となった安倍政権の終幕に向け、「ポスト安倍」を決める自民党総裁選が進む。だが「安倍政権は終わっても、安倍政治は終わらない」と指摘するのが社会学者の宮台真司・東京都立大学教授だ。その「安倍政治」とは、多くの国民が共有している「自意識」によって支えられているから、という。


 ――安倍政権が終わることを「残念」と評していると聞きました。

 「総裁選も含めて今の政治で起きているのは、『沈みかけた船=日本社会』の中の座席争いです。どちらにせよ沈むなら、だらだらと沈むよりも、加速度的に沈む方がよい。人は、変化そのものよりも変化率の変化に反応します。熱湯に入れられたカエルはすぐ逃げ出すのに、水温を徐々に上げると、死ぬまで温度の変化に気づかない――。『ゆでガエル』の寓話(ぐうわ)が知られますが、それです。沈み方が一定だと『ゆでガエル』になります。だから『安倍政治』の継続を望むと語ってきました」


 「安倍政権下で日本社会の『劣化』は予想通り進みましたが、多くの日本人は『見たいものしか見ない』。劣化の現状が認識されていません。ならば、何らかの弥縫(びほう)策で対応するよりも、加速度的に悪くなって底を打った方がいいでしょう」

 ――安倍政権の7年8カ月で、株価は上昇し、低失業率を維持しました。好景気も戦後2番目の長さで続きました。それでも「劣化」ですか。

 「安倍政権はそのように『結果』を自画自賛し、メディアもそう報じてきた。しかし『結果』を強調するならば、なぜ一部の経済指標だけに注目するのか。国民の所得は、1997年以降ほぼ一貫して低下しています。OECD(経済協力開発機構)諸国でそんな国は日本だけです。個人の生活水準の指標である1人当たりの国内総生産(GDP)は、2018年にイタリアと韓国に抜かれて世界22位になりました。日本の最低賃金の低さはOECD諸国の平均の3分の2にも満たない。失業率の低さは非正規雇用の増加で『盛った』ものでしょう。経済指標だけに注目しても、『盛れない』数字はこれだけあります」


 「一方社会の健全さを示す社会指標に目を向けると、もっと悲惨です。日本青少年研究所の14年高校生調査では、『どんなことをしても親を世話したい』割合は中国88%、米国52%、日本38%。『親をとても尊敬している』割合は米国71%、中国60%、日本38%。『家族との生活に満足している』割合は中国51%、米国50%、日本39%。家族が空洞化しています」

 「それが自意識にも強い影響を与えます。同調査では『私は人並みの能力がある』について『とても』と答える割合は米国56%、中国33%、日本7%。『自分はダメな人間だと思うことがある』を肯定する割合は米国45%、中国56%、日本73%。子どもについてユニセフ(国連児童基金)が今年公表した幸福度調査では、先進・新興国38カ国の下から2番目です」


 「結局、社会の穴を、一部の『盛れる』経済指標で見えにくくしているだけです。実際、総裁選の候補者が語るのも、おおむね経済の話ばかりです。社会のひどさに注目する候補はいないのだから、誰がなったところで安倍政治と大差のないものが続くでしょう」

 ――辞任を発表する直前まで、安倍政権の支持率は下がっていましたが、それまでは一時的に下がってもまた持ち直し、選挙にも勝ち続けてきました。そんなに社会がひどいなら、なぜ支持されてきたのでしょう。

 「『野党がだめ』『選挙制度が与党に有利』といった要因はあるでしょう。でも小さな話です。本質的な問題は、一部の経済指標だけに注目して語る安倍政権のあり方は、多くの国民の意識のあり方と同じだということです。『見たいものだけを見る』。国民の意識がそうなっていて、安倍政権はそれに乗っただけです。これは政権にだまされている、という類いの話ではありません。現代日本のあり方に起因します」

 ――「見たいものを見る」といえば、最近ではSNSの発展で、自分のタイムラインが自分と似た意見ばかりになっていることを説明する文脈で聞く表現です。

 「少なくとも日本において、ネットがその傾向を加速させましたが、原因そのものではない。別の要因が重要です。英国の社会学者ジョック・ヤングは現代社会の特徴を『過剰包摂社会』と呼んでいます。僕は『疑似包摂社会』と訳した方がいいと思いますが、格差や貧困があってもそれを個人が感じないですむ社会のことです」
(無料分以上)

以下、houzouさんの投稿記事

宮台さん1
「安倍政権は終わっても、安倍政治は終わらない」と指摘する。その「安倍政治」とは、多くの国民が共有している「自意識」によって支えられているからだ。→

宮台さん2
「総裁選も含めて今の政治で起きているのは、『沈みかけた船=日本社会』の中の座席争いです。どちらにせよ沈むなら、だらだらと沈むよりも、加速度的に沈む方がよい。人は、変化そのものよりも変化率の変化に反応します。熱湯に入れられたカエルはすぐ逃げ出すのに、→

宮台さん3
→ 水温を徐々に上げると、死ぬまで温度の変化に気づかない――。『ゆでガエル』の寓話(ぐうわ)が知られますが、それです。沈み方が一定だと『ゆでガエル』になります。だから『安倍政治』の継続を望むと語ってきました」→

宮台さん4
「安倍政権下で日本社会の『劣化』は予想通り進みましたが、多くの日本人は『見たいものしか見ない』。劣化の現状が認識されていません。ならば、何らかの弥縫(びほう)策で対応するよりも、加速度的に悪くなって底を打った方がいいでしょう」→

宮台さん5
ー安倍政権の7年8カ月で株価は上昇し低失業率を維持、好景気も戦後2番目の長さで続いたが

「安倍政権はそのように『結果』を自画自賛し、メディアもそう報じてきた。しかし『結果』を強調するならば、なぜ一部の経済指標だけに注目するのか。→

宮台さん6
国民の所得は、1997年以降ほぼ一貫して低下している。OECD(経済協力開発機構)諸国でそんな国は日本だけで個人の生活水準の指標である1人当たりの国内総生産(GDP)は、2018年にイタリアと韓国に抜かれて世界22位になった。日本の最低賃金の低さはOECD諸国の平均の3分の2にも満たない。→

宮台さん7
失業率の低さは非正規雇用の増加で『盛った』もの。経済指標だけに注目しても『盛れない』数字はこれだけある」「一方社会の健全さを示す社会指標に目を向けるともっと悲惨だ。日本青少年研究所の14年高校生調査では『どんなことをしても親を世話したい』割合は中国88%米国52%日本38%→

宮台さん8
『親をとても尊敬している』割合は米国71%、中国60%、日本38%。『家族との生活に満足している』割合は中国51%、米国50%、日本39%。家族が空洞化している。それが自意識にも強い影響を与える。同調査では『私は人並みの能力がある』について『とても』と答える割合は→

宮台さん9
→ 米国56%、中国33%、日本7%。『自分はダメな人間だと思うことがある』を肯定する割合は米国45%、中国56%、日本73%。子どもについてユニセフ(国連児童基金)が今年公表した幸福度調査では、先進・新興国38カ国の下から2番目です」


宮台さん10
「結局、社会の穴を、一部の『盛れる』経済指標で見えにくくしているだけです。実際、総裁選の候補者が語るのも、おおむね経済の話ばかりです。社会のひどさに注目する候補はいないのだから、誰がなったところで安倍政治と大差のないものが続くでしょう」→

宮台さん11
「『野党がだめ』『選挙制度が与党に有利』といった要因はある。でも小さな話だ。本質的な問題は、一部の経済指標だけに注目して語る安倍政権のあり方が多くの国民の意識のあり方と同じ『見たいものだけを見る』。国民の意識がそうなっていて安倍政権はそれに乗っただけです。→

宮台さん12
→ これは政権にだまされている、という類いの話ではありません。現代日本のあり方に起因します」

(SNSの発展で「見たいものだけを見る」に?
 「少なくとも日本においてネットがその傾向を加速させたが原因そのものではない。別の要因が重要。英国の社会学者ジョック・ヤングは→

宮台さん13
→現代社会の特徴を『過剰包摂社会』と呼んでいる。僕は『疑似包摂社会』と訳した方がいいと思うが、格差や貧困があってもそれを個人が感じないですむ社会のことです。具体的なイメージで言います。スターバックスの店内を思い出しましょう。そこでおしゃべりしたり→

宮台さん14
→ パソコンで仕事をしたりしている人たちは、外見では所得格差があるかどうかは分からない。失業して生活に困っている人がいるかもしれないし、その横に起業して成功したお金持ちが座っているかもしれない。日本では、70年代までは見た目で大体わかった。ブルーカラーかホワイトカラーか→

宮台さん15
→地方出身者か都会出身者か、という違いは隠せませんでした。だから、下層出身や、地方出身者が、疎外感を抱きやすく、連帯もしやすかった。いまは違う。日常生活で自分の出身を意識する局面が少なく、連帯ができないので貧しさが自意識の問題になる。→

宮台さん16
→ 経済的貧困によって本当は苦しい状況に追い詰められていても、です。いわば粉飾された自意識です。日本社会の劣化がここまで放置されてきたのは『粉飾された自意識』によって『見たいものしか見ない』営みに支えられていたからです。安倍政権を支えてきたのは『粉飾された自意識』です→

宮台さん17
(「粉飾」だとしても疎外感を抱かないのならばいいことは?)

「いや、『粉飾』は表面的です。よく話を聞くと、やはり『痛み』を抱えている。大学生に話を聞いても、周囲には『痛み』を語らないけれども、学費の工面で悩んでいたり家族の不和で傷ついていたりします。→

宮台さん18
社会人ならば、会社で理不尽な目に遭うなどしています。深く話を聞いていくと、ぽつりぽつりと告白し始めます。ただ『周囲には言えない』と言います。言わないから『痛み』を周囲と共有できない。若年層に顕著です。若年層ほど安倍政権支持の割合が多かった背景の一つです→

宮台さん19
(なぜか?
 「『痛み』の告白をしてしまうと、どこかで自己責任が意識されてしまうからです。『それはお前自身のせいじゃないの?』とね。実際に他人にそう言われるよりも、本人の自意識としてそう考えてしまう。これは新自由主義のイデオロギーとしての自己責任論ではない。→

宮台さん20
→ 思想の問題というより、自分に『痛み』なんてない、むしろ自分の力でうまくやっていると周囲に見せないといけない、という感情の問題です。このような自意識を持つ者が、政治的な討議をすることはできません。『痛み』をそれぞれが語り、『痛み』を共有することで、→

宮台さん21
→ 『痛み』の原因は何だろうかという議論が可能になって、政治の話に移行できます。若年層ほど政治に無関心なのは、自分の『痛み』を見たくない、だから『痛み』をシェアしない、という作法によります」→

宮台さん22
「多くの国民もそうです。安倍晋三首相とは、そういう意味で、いまどきの日本国民を象徴しています。安倍氏本人は『戦後レジームからの脱却』と言ってきましたが、安倍首相こそ『戦後レジーム』的な政治を象徴していた、という笑い話が典型的です」

(まだ続きますがこの辺で終わりです)

でも見逃せない宮台真司インタビュー

日本社会は明らかに格差が広がり分断も進み閉塞。しかし、その社会的な亀裂は、政治家と市民の粉飾された自意識ゆえに、政治的な課題として認識されない。安倍か反安倍かとか、右か左かは日本社会の本当の分断と重ならない『戦後レジーム』の呑気な営みだ→

→ そうした社会の分断と重なる対立軸は?
 「挑発的な言い方をすれば『クズかまともか』です。未来世代の事も考えず、自意識ゆえに社会の悲惨さを直視できない人間と、真実を直視できる人間。自意識のベールにくるまれたままで感情的に劣化した人間と、そうではない人間との対立です→

→僕(宮台真司)はその対立(クズ人間か、まとも人間かの対立)にだけ、未来を開く鍵があると思っています」

クズ人間=自意識故に社会の悲惨さを直視できない人間。自意識のベールにくるまれたまま感情的に劣化

まとも人間=真実を直視できる人間








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