そうだ、断食道場に行こう

数年勤めた仕事を辞めることにした。せっかくなので、何か仕事をしていたらできないことをしようと思った。長期間の休みが必要かつ、仕事をしていたらあまりやる気がでなさそうなこと。そうだ、断食をしよう。断食をするとスッキリしたり、頭がクリアになると聞いたことがあり、いつかやりたいと思っていたのだ。せっかく無職になったのだから、これを機に断食道場に行ってみようではないか。


■断食準備

そうと決まれば話は早い。早速、あるレポ漫画を読んでから気になっていた断食道場を予約した。綺麗な施設でマッサージを受け、散歩やヨガを楽しみながら断食ができるらしい。俄然楽しみになってきた。
期間はせっかくなので施設の最長プランである6泊7日にすることにした。
とはいえ、完全な断食は3日間だけ。残りの4日は回復食という、胃腸に優しいご飯が出るらしい。これならなんとかやれそうだ。

予約をしてからは特にすることもなく、当日を待つばかりとなった。
いろんな人に「仕事辞めたら何するんですか?」と聞かれ、その度に「断食します。」と答えたら、怪訝そうな顔をされた。そうだと思う、私だってたぶんそういう顔をする。

そしてあっという間に断食前日、最後の晩餐に焼肉でも食べたいところだが、断食道場からの指示によると、数日前から「準備食」といって、少しずつご飯を減らさなければいけないらしい。
これをちゃんとしておくと、断食による体調不良が起こりづらくなるそうだ。
真面目なので指示通り野菜と少しのお米を食べた。
さようなら肉、1週間後に会おう。

■いざ断食

そしていよいよ断食当日。断食道場に着くのはお昼過ぎだが、朝から何も食べないようにとの指示に従い、朝ご飯は抜いてきた。そう、お家に着くまでが遠足ならぬ、お家を出る前からが断食なのだ。
特急に乗って伊豆へと向かう。伊豆といえばバリバリの観光地。普段ならおやつでも食べながら、到着したらあれを食べよう、これを食べよう、と思いを巡らすところだが、今の私にはその権利はない。無念。

駅では大きなクマちゃんがお出迎えしてくれた

駅から施設までマイクロバスで送迎してもらい、ついに到着。そこには断食道場という言葉のイメージからはずいぶん離れた綺麗な施設があった。中に入ると広いロビーに広い食堂。テラスからは海が見える。リスも来るらしい。あと犬もいた。こんな場所で断食ができるのか、最高じゃないか。

ロビーのマッサージ機は使い放題
縦に長くて綺麗な個室

早速施設を案内してもらった。食堂にはハブ茶、便秘茶、梅湯、梅水、生姜湯、日替わりのお茶が用意してあり、お茶は飲み放題らしい。梅湯(水)は運動をして汗をかいた時1日3杯を目安に、生姜湯は低血糖で体調が悪くなったら飲むようにとのことだった。
その後、断食道場のオーナーである先生と面談をした。普段の悩みや気になることを話し、体重測定を行う。身体年齢が実年齢+10歳だったことにショックを受け、面談は終了した。

18時の夕食までは自由時間だが、することがないのでひたすらお茶を飲んだ。やたらと喉が乾くのである。さすがにお腹が減ってきたし、頭にモヤがかかったような感じもする。軽く眩暈もしてきたので生姜湯を飲んだ。今日初めての甘味が身に沁みた。
そして18時、待ちに待った夕食の時間である。食堂に続々と人が集まってきた。どうやら20人ほどの参加者がいるらしい。ほとんどが女性の1人参加だが、夫婦や親子で来ている人もいるようだ。
すでに仲良さげに話しているグループもあり、なんだか入学したばかりの学校みたいだなと思った。
初日のメニューは具なしの味噌汁だった。

とても澄んだ色をしている。

もっと味がしないものと思っていたが、出汁の味がして意外と美味しかった。いつもの味噌汁に比べたら薄味だが、ちゃんと塩味を感じるし、お茶以外の味覚を感じられたことが嬉しかった。
みんな、普段なら5秒で飲み干す味噌汁をゆっくりゆっくり噛み締めるように飲んでいた。
ちなみに、この断食道場にはご飯が出るコースもあり、その人たちも同じ食堂でご飯を食べるのでちょっとつらかった。

夕食後にヨガと入浴の時間があり、22時に消灯。もっと余裕があると思ったが、夕食後は意外と忙しかった。
断食1日目を振り返ってみると、意外と空腹は気にならなかった。以前自己流の一日半断食をした時は、お腹が空いた以外何も考えられなくなってしまったが、今回は大丈夫そうだ。しかし、断食はまだ始まったばかりである。

■断食2日目

朝起きたらめちゃくちゃお腹が空いていた。
お腹が空きすぎているせいか、やや吐き気もする気がする。しかし、せっかくなので朝の散歩のプログラムには参加することにした。
先生が低血糖防止の飴をくれた。甘さが身に沁みる。こんなにありがたい飴が今まであっただろうか。
早朝に伊豆の自然の中を散歩するのは気持ちが良かった。

伊豆には海もあるし
緑もある。

散歩から帰ると日替わりドリンクが用意されていた。甘い生姜紅茶だ。
コーヒーや紅茶を日常的にたくさん飲む人は、急にカフェインが摂取できなくなると体調不良を起こすことがあり、それを防止するためだそう。
約2時間の休憩を挟み、10時に朝ご飯が出てくる。この日は人参と生姜のスムージーだった。りんごが入っているせいか、砂糖がなくても甘くて美味しかった。

天気が良かったのでテラスで飲んだ。
お腹は減ったままだが気持ちが良い。
人参と生姜のスムージー。こちらも甘くて美味しい。

朝ご飯を飲んで少し元気になったところで散歩に出かけることにした。
先程も書いたが、断食道場のある伊豆はバリバリの観光地である。観光する場所には事欠かないが、断食道場は長い坂の途中にある上に、バスもほとんどない。
行きはよいよい帰りは怖い…と思いながら、長い坂をくだりテディベアミュージアムへ向かう。
さすが観光地、道中にはオシャレなレストランが立ち並び、観光客が食事を楽しんでいた。何気ない光景だが、今はそれが恨めしい。

テディベアミュージアムに来ました。
テディベアがたくさんいてかわいい。

観光をした後は、施設に戻るのだが、行きに心配した通りのことが起こった。上り坂がきついのだ。普段ならなんとかなるかもしれないが、ご飯を食べていないせいで力が出ない。重い足を引きずり、なんとか施設に到着した。やっぱりご飯を食べるのって大事なんだな…。

施設に戻ってから、玄米を100回噛む講座に参加した。1日半ぶりの固形物だ。食感があるのがありがたい。
100回も噛めるの?と思ったが、ちゃんと噛めた。噛めば噛むほど甘味が出るし、口の中の玄米が細かくなって、自動的に喉に流れていくのがわかる。よく噛んで食べろってこういうことなんだろうな。
しっかり味わって食べることの大切さを学んだ。
その後、ヨガ、夕食、お風呂、安眠のヨガ、就寝。

ひとくちサイズの玄米を2回に分けて100回噛む。
豆乳入り味噌汁。不思議な味だが昨日よりも味が濃くて満足感がある。

2日目を振り返ってみると、1日中空腹に苛まれる、というよりはふと思い出した時にお腹が空いている、という感じだった。
また、無意識に「なに食べようかな」と考えてしまうことが何度かあった。食べるということが、生活の一部であることを実感させられた1日だった。

■断食3日目

起床。胃の気持ち悪さを感じつつもお茶を3杯飲んだら動悸&目がチカチカした。この日の朝が一番体調が悪かった。
なんとか朝の体操に参加し、甘酒豆乳を飲んだが動悸と吐き気がおさまらず、2時間ほど二度寝してようやく落ち着いた。
その後、朝ご飯のグリーンスムージーと、体調が悪い時に食べる用の梅干しを食べた。

この日はみんなでお土産屋さんを観光した。食べ物を見たら食べたい気持ちが爆発してしまうのではないかと思ったが、案外平気で、試食を断る理性もちゃんと残っていて安心した。

夕食はじゃがいものすりながし味噌汁。今日が最後の流動食だ。明日の回復食を楽しみに眠りにつく。

とろみがあっておいしい。

■断食4日目

スッキリと目が覚める。すっかり体調も良くなり、昨日とは打って変わって気分がいい。
そしていよいよ回復食である。

回復大根と人参シャーベット

2日目の玄米以来の固形物だ。薄味だが美味しい。
味付け用の味噌と梅の塩味に涙が出そうになる。噛めるって幸せだ。

この日は温泉に入り、大室山とシャボテン公園を観光した。シャボテン公園の動物たちは信じられないくらい距離が近いのでおすすめです。

すごく眺めが良かった大室山。
カピバラさん
孔雀は園内を自由に闊歩していてちょっと怖かった。

観光をしていたら、昨日までは感じつつも気づかないふりをすることができていた空腹をより強く感じた。ご飯を食べたせいで胃が動いたのだろうか。

■断食5日目

この日の夕食から、ようやくお粥やリゾットではないお米を食べることができるようになった。感無量である。

お麩をこんな風に食べたことなかったな。

■断食6日目

この日の朝ご飯はうどんだった。かなり普段の食事に近くなってきて嬉しい。
断食をしていたせいか、普段なら少なめの量なのにお腹がいっぱいになってしまった。こんなに食べても良いんだろうか。お腹がいっぱいなのって幸せだな。

メロンまでついている。

ある参加者の方が「午前中にパン屋さんを覗いたら、店員さんに話しかけられて『断食道場の方ですか?あそこの人たまに食べにきますよ。』と言われた」と言っていた。衝撃の事実が発覚してしまった。

午後は、初日と同じように面談があり、そこで体重を測ることになっている。
みんな、最後の追い込みとばかりに散歩をしたり、施設内の岩盤浴で汗を流していた。私ももちろんそれに倣った。

そして面談の時間を迎えた。体重を測ると初日から3キロ減っていた。やったね!
身体年齢も実年齢+10歳から+7歳になっていた。実年齢とはまだまだ離れているが、たった1週間にしては大きな変化だ。

この日の晩ご飯は野菜と魚のコース料理だった。運ばれてきた料理に、まず感動したのは、彩があること。料理には見た目も大切なんだなと思った。口に入れると色んな味がして思わずため息が出てしまった。
食堂は、今までにないほど活気で溢れていた。あちこちのテーブルから「美味しいね」といった感嘆の声が聞こえてくる。会話も弾んでいるようだ。美味しい食べ物は人を幸せにするのだ。
食後、この週に誕生日を迎える人が2人もいたということで、みんなでハッピーバースデーを歌ってお祝いした。

サラダ。思えば生野菜も久しぶりだ。
魚の南蛮漬け。酸っぱくて美味しい。
豆乳プリンとたんぽぽコーヒーまであった。

楽しかった食事を終え、お風呂に入る。明日はいよいよ最終日だ。朝食を食べたら帰宅する。ここでの生活が終わってしまうのは寂しいが、もう何を食べてもいいと思うとやはり嬉しい。複雑な心境を抱えつつ眠りについた。

■断食最終日

最終日の朝である。4日目以降ずっと調子が良く、この日もスッキリ目覚めることができた。朝の散歩にも力が入る。ご飯を食べたことで、より元気に歩けている気がする。
施設に帰り、朝ご飯を食べる。

三角のパンみたいなものはおかゆパンというらしい。

普段でもなかなか食べないような豪華な朝ご飯が出てきた。全部美味しい。塩味、甘味、酸味、苦味、旨味が揃うと、こんなにも美味しいのか。食感も様々で楽しい。これからは食事をもっと大事にしよう、そう思いながら帰路に着いた。

東京に戻り、大戸屋で煮込みハンバーグを食べた。口に入れた瞬間、美味しさが脳内を駆け巡った。すごい、味が、ある。いや、断食道場で食べていた食事だってもちろん味はあった。しかし、薄味に慣れていたし、肉は食べていなかったので味の濃さと肉の旨みが脳をダイレクトに揺さぶって来たのである。
多分人生で一番美味しい煮込みハンバーグだった。この味を忘れたくないと思った。

■断食まとめ

断食をして良かったか。私は自信を持って良かったと言える。
純粋に、何も考えず観光をしたりヨガしたりたくさんお風呂入ることが楽しかったし、ご飯を食べないことで、改めて食の大切さを感じることができた。
当初期待していたスッキリ感や頭がクリアになる感覚は、なんとなく感じる程度だったが、体調は良くなったと思う。
またやりたいかと聞かれたら、ぜひまたやりたいと答えるだろう。みなさんも断食道場、行ってみませんか。


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