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シナリオ「寄り添えたなら」

登場人物
広野祥子(17)・(31)高校生/喫茶店オーナー
若杉真夜(17)・(31)高校生/OL
枚方信二(17)・(31)高校生/ミュージシャン
金屋守(17)・(31)高校生/ライター
神原さおり(17)・(31)高校生/看護師

①校舎・外観
背景に暗雲の立ち込める校舎。

②校舎・内部
教室の扉に「歴史研究会」の文字。

③歴史研究会部室
ガイコツ、ペンタグラム、人体解剖図などのオブジェ。
窓は全て暗幕でふさがれている。
黒い布を敷いたテーブルの上に置かれた燭台が、周囲を取り囲んで座る
5人の高校生を照らしている。
5人は制服の上からフードの付いたマントを羽織っており、顔は判然としない。
若杉真夜(17)ゆっくりと立ち上がる。

真夜「今日がおそらく我々の、最後の集いとなるでしょう」

広野祥子(17)スカートの上に置いた拳を握りしめる。

真夜「あらためて、決を採ります。己の内面に照らし、恐れずに、答えて」

枚方信二(17)、天を仰ぐ。

枚方「真っ暗闇で言うことかよ」

神原さおり(17)耳障りな声で笑う。
金屋守(17)低い声で、

金屋「おい、静粛に」

枚方とさおり、身をすくめる。

真夜「そんなに緊張することない。答えは多分、もう出ているでしょう。同意する方は、挙手してください。『この世界は、生きるに値しない』」

若杉、言い終わるなり挙手。
枚方、金屋、さおり、一斉に挙手。
祥子、手を上げかけるが途中で止めてしまう。

真夜「広野さん?」

祥子、泣いている。

祥子「ごめんなさい。ごめんなさい。ごめんなさい!」

祥子、机に突っ伏す。
揺れるランタンを金屋が押さえる。
立ち上がる枚方とさおり。

さおり「祥子ちゃん大丈夫?」
枚方「おい、電気つけろ電気!」

室内照明が点く。
枚方、金屋、さおり、真夜、各々フードを脱ぎ顔を出す。
真夜、泣き続ける祥子にそっと寄り添い、肩に手を置く。

真夜「祥子」

祥子、顔を上げる。
真夜、祥子のフードを脱がせる。

祥子「真夜ちゃん、私、死ねない」

祥子、真夜にしがみつく。

祥子「こんなに情けないのに、ひとりじゃ何もできないのに、死にたくないの」

真夜、祥子の頭を撫でる。

真夜「大丈夫、私がいる」
祥子「ごめんなさい!ごめんなさい!」

泣きながら謝り続ける祥子。

④カフェ「サイプレス」店内(夕)
祥子(31)、地味な服にエプロン姿で店内を掃除している。
テーブルの上には14年前部室にあった燭台が置かれている。
祥子、テーブルを拭く手を止め、燭台の揺れる炎を見つめる。

⑤路上(夕)
金屋(31)スマホと街並みを見比べながら歩いてくる。

⑥カフェ「サイプレス」外(夕)
古ぼけた喫茶店。
扉に「本日貸し切り」の札がかかっている。
金屋がやってきて、スマホ画面と店名を見比べ、入店する。
ベルの音。

⑦同・店内
長髪に革ジャン姿の枚方(31)、地味な私服のさおり(31)、入店してきた金屋の姿を認めて立ち上がる。

さおり「金屋くん!?」
枚方「生きてたかよ!」

金屋、その場に立ちすくむ。

金屋「神原と……枚方?」
さおり「そうだよ!元気してた?」
枚方「全然変わらねえな、お前」
金屋「お前は変わり果ててるけどな、何だその姿」

さおり、けらけら笑う。
厨房から祥子が出てくる。

祥子「いらっしゃいませ」
金屋「……広野?え、広野か?」
祥子「久しぶり、金屋くん」

祥子、控えめに笑う。

X X X

枚方、金屋、さおりがテーブルを囲んでいる。
金屋は机の上に置かれた燭台を眺めている。

金屋「マジかよ、これ、部室にあったやつだろ」
枚方「俺もビビった」
金屋「処分したと思ってたな。山羊の頭蓋骨とかといっしょに」
さおり「魔法陣もあったよね!」

祥子、ティーポットとカップをのせたトレイを持ってくる。

祥子「お待たせしました」
金屋「お、これが自慢のハーブティー?」
祥子「自慢ってほどじゃ」
しおり「ありがとうね、集い、企画してくれて」

祥子、しおりの言葉にはにかむ。
金屋、ハーブティーをカップにそそぐ。

さおり「人体解剖図もあったよね?あれ貰っとけばよかった。めちゃくちゃ同じもの見たもん、看護学校で」
枚方「俺はあのデカい六芒星が欲しい。アルバムのジャケットにしたい」
金屋「デスメタルって食っていけるのか?」
枚方「ブラックメタルだ。メタルのジャンルは絶対に間違えるな。音楽雑誌から干されるぞ」
金屋「そんなマトモな記事、書いてないよ。ゴシップとか風俗とか」
さおり「風俗?」
金屋「いや、まあ、それは……」

金屋、口ごもる。

さおり「あと、真夜だけ?」
枚方「われらが部長様もご存命か」
金屋「若杉っていま何やってるんだろうな。広野は知ってるのか?」

祥子、首を振る。

さおり「あんなに仲良かったのに?」
祥子「高校出てから、連絡とってなくて」
枚方「本物の魔女になってたりしてな」

ドアベルの音。
スーツ姿の真夜(31)入り口で息を切らしている。

真夜「ごめんなさい、遅れてしまって」
祥子「真夜ちゃん」

祥子、にっこり笑う。

X X X

席に通された真夜、店内を見渡しながら、ハーブティーを飲む。

真夜「……おいしい」
さおり「ね、驚いたでしょ」

祥子、微笑んでいる。

枚方「俺も驚いたよ。俺らの教祖様がよ、大した変わりようじゃないか」
金屋「枚方!でもまあ、確かに」
真夜「オカルトはもう止めた。今は見ての通り、一介の企業戦士」
枚方「極端なジョブチェンジだな」

枚方、大げさに身をすくめる。

さおり「本当にびっくり。真夜とまた会えるなんて。私ね、真夜って、ひょっとしたらその」
真夜「死んでいると思った?」

さおり、一瞬戸惑い、頷く。

金屋「不謹慎だが俺も気になる。若杉、何があったんだ?」
真夜「あの日、私は死んだ」

真夜、祥子を見つめる。

真夜「最後の集会の日、祥子が手を上げたら、私、皆と死ぬつもりだった」
祥子「真夜ちゃん」
真夜「でも、そうはならなかった。だから私は、生きることを選んだ。死にたい自分を殺して、生きることを選んだ」

真夜、ふと表情を和らげる。

真夜「皆もそうやって生きているのでしょう?」
さおり「……まあね」
金屋「確かに」
枚方「俺はだいぶ引きずってるけどな」

真夜、祥子を見る。

真夜「祥子、あなたのお陰。だからこうして、素敵なお店で笑いあえてる」
祥子「ありがとう。でもこの店、もうすぐ閉めるの」
真夜「どうして?」
祥子「主人がね、亡くなったんだ。だから最後に、皆を呼んだの」
真夜「残念ね。美味しいお茶なのに」
祥子「お世辞はいいよ真夜ちゃん。美味しいはずないよ。変な薬が入っているのに」

テーブルから落ちた陶器類が砕け散る。
枚方、さおり、椅子から崩れ落ちる。

金屋「なぜ……」

金屋、机に突っ伏してしまう。
真夜、立ち上がろうとするが、できない。

真夜「どうして……」
祥子「あの日、真夜ちゃんと死ぬべきだった。私、ひとりじゃ何も、できないから」
真夜「嫌……死にたくない……」

祥子、震える真夜を優しく抱く。

祥子「大丈夫、私がいるよ」

燭台が床に落ちる。
一気に燃え広がる炎。【完】

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