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新しい浮世絵を作るために考えたこと3

僕はイラストレーターとしての活動のかたわら、歴史として潰えてしまった浮世絵や新版画をこの時代に蘇らせることを目的とした「令和新版画プロジェクト」に絵師として参加しています。

今までありがたいことに、「東京夜景」として2作、「ウキヨラボ」という実験的なラインで墨摺絵5作と多色摺1作と少しずつ作品数を増やしてきました。

そして今回、版元都鳥に新たに4枚の版下絵のご依頼をいただき、「東京春夏秋冬」というシリーズの1作目として「春の三四郎池」という作品を春の時期に合わせて発表しました。

東京春夏秋冬 春の三四郎池

https://miyakodori.booth.pm/items/4649005

【「東京春夏秋冬」と題して、浮世絵や新版画が得意とする季節ごとの情緒を引き出してみたいと考えました。 第一作目の春は、渡り鳥である都鳥の旅立ちを絵にしています。今の時代の空気感と重ね合わせ、雨霧で先が霞んで見えない中でも軽やかに飛び出していく姿を希望を込めて描きました。 三四郎池(正式名/育徳園心字池)は、夏目漱石の小説からその名を呼ばれるようになりました。東京の中心とは思えない静けさで江戸からの面影を残す場所として、漱石がこよなく愛した場所です。日本人にとっての原風景と言えるかもしれません。】

名所絵という事に加えて、東京に残っている日本の原風景を描くことにしました。東京の色々な場所を歩いた中で、東大キャンパス内にある三四郎池は目立つ場所ではないですが以前から心に残っていました。夏目漱石の小説に以下のような文章があります。

「三四郎がじっとして池の面(おもて)を見つめていると、大きな木が、幾本となく水の底に映って、そのまた底に青い空が見える。三四郎はこの時電車よりも、東京よりも、日本よりも、遠くかつはるかな心持ちがした。」

「それから、この木と水の感じ(エフェクト)がね。――たいしたものじゃないが、なにしろ東京のまん中にあるんだから――静かでしょう。こういう所でないと学問をやるにはいけませんね。近ごろは東京があまりやかましくなりすぎて困る」

実際に歩いてみると、マイナスイオンで気持ちが安らぐような雰囲気があります。春雨の霧が立ち込めるような情感を表現したいと版元に相談し、透明感のある水性木版の良さを生かした作品に仕上がりました。木版画には相性の良い題材があるとは聞いていたのですが、やはり池の水面や植物は顔料としても馴染みやすいと実感しました。素直に見ていて、大変心地よい絵になっています。浮世絵、新版画へのオマージュを意識しながら、洋室でも和室でも飾れるような絵にすること、美しさや綺麗さ、品みたいな物を意識しました。

繊細な小雨の表現
色鮮やかでファンタジックな水面

今回から版構成も自ら考えて版下絵を作成しています。過去作での反省点として漫画的に線ですべてを括らずに、面で見せる部分を作れたのがポイントとしてあります。色の重ねを上手に計算するのが木版画を作る上でもっとも大事な部分だと感じているので、さらに深めていきたいところです。

順序摺

飛び立っていくのは渡り鳥である都鳥です。版元の屋号にもなっていて、主役にしてみたいと考えてました。夏毛となり顔が黒く勇ましい顔つきになっています。調べてみると春の終わり頃、ロシアのカムチャッカ半島の方にまで渡り、秋になって戻ってくるそうです。鳥にしてみれば国境は存在せず、自由な存在です。

翼を持つ生き物って素敵だなと思います


別れと再会を繰り返し、それでもまた前に進んでいくジョン・レノンの「スターティング・オーヴァー」や、ASUKAさんの「はじまりはいつも雨」の中にある「君に逢う日は不思議なくらい 雨が多くて水のトンネルくぐるみたいでしあわせになる」という歌詞が好きでそんな曲を脳内再生しながら描きました。

次は夏の作品へと続いていきます。春夏秋冬と並べて見てもらえるように繋がりも意識しながら鋭意制作中です。

雑誌「東京人」新版画特集でも、版元都鳥の「令和新版画」の活動をご紹介いただいておりますので、ご興味がございましたらそちらもチェックしてみてください。

過去記事:
新しい浮世絵を作るために考えたこと
https://note.com/wabisabipop2/n/n07854ee2102a
新しい浮世絵を作るために考えたこと2
https://note.com/wabisabipop2/n/n00275a313c76

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