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成果を生むための解析手法

今週もウェブ解析士のnoteをご覧いただきありがとうございます。
いよいよ、花粉に苦しめられる季節の到来ですね。「中の人」は重度の花粉症なので、できるだけSTAY HOMEしています。STAY HOMEのお供にアクセス解析について勉強し直すなどしているところです。
ウェブ解析のスペシャリストの諸先輩方から言わせれば、「今更ですか?」なのかもしれませんが、ほとんどアクセス解析しないウェブ解析士を自負する「中の人」は素晴らしい本に出会いました。それが、これです。

今から14年も前に書かれている本ですが、不易な部分が盛りだくさんです。
今週は、この本に記載されている一部をご紹介しようと思います。

ウェブ解析は何のためにするの?

さて、ウェブ解析をする上で重要なのは目的を持っておくことです。そうでなければ、大量に吐き出されるログデータに溺れ、「何となくそれっぽい」レポートを作成して終わってしまいます。
ここで、公式テキストの記述を振り返ってみましょう。

自社のウェブがどの程度事業に貢献しているかを関係者に説明し、ウェブの重要性を理解してもらう必要があります。そのためには、ウェブにかけているコストと時間、ウェブで獲得した収益や恩恵を知っておく必要があります。(中略)
事業の成果につながる環境を構築しなくてはなりません。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

そう、ウェブ解析の目的は「事業の成果」ですね。そこで、アビナッシュ氏はこう言います。

一度思い切ってWebサイトのオーナーになぜあなたのWebサイトは存在しているのですか?と聞いてみるといい。このたった20字程度の質問にハッキリと答えられない人が多いことにビックリするに違いない。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』

MELSAモデルで考えるなら、メディア・モデルはコンテンツの閲覧又は有償コンテンツへの誘導、イーコマース・モデルなら売上、リードジェネレーション・モデルなら獲得したリード数、サポート・モデルなら顧客の問題解決度合い(スタッフによるサポートのコスト減)、アクティブユーザー・モデルなら、MAUやチャーン・レートなどが成果を測る指標になるでしょう。
アビナッシュ氏は過激にも、「成果を測る気がないなら、ページ遷移データを丸ごと捨ててしまえ」と言います。

成果を生むための解析

ウェブサイトの目的を達成するために、私たちがしなければいけないことはWhatとWhyの両方を測定することだとアビナッシュ氏は説きます。
ウェブサイトは実店舗と違い、そこに訪れただけで何かしらのデータを残していきます。しかし、重要なのは下記の点です。

これらのデータから読み取れるのはWhat(何)が起こったかということだけである。いくらデータをひねくり回してみても、Why(なぜ)起こったかということは決してわからない。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』

公式テキストでも以下のような記述があります。

ウェブ解析士が扱うデータは、デジタルが中心です。デジタルによってアナログである私たちの世界を表現していますが、デジタルに転換されたところで表現できない余白と欠損値がたくさん発生します。私たちが価値を提供するのはリアルな世界、アナログの世界です。デジタルデータからアナログの世界に価値を提供するには、人の力が欠かせません。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

このデジタルデータにならないWhy(意図や動機など)と数値として把握できるWhat(クリック数や訪問者数など)を併用して解析することで、即効性のある施策を導くことができるとアビナッシュ氏は説いています。

具体的なアプローチ

アビナッシュ氏はWhyとWhatを併用した具体的アプローチを教えてくれます。それが三位一体法です。この枠組みは「行動に結びつく洞察と指標」を根源としているそうです。
公式テキストでも、事業の成果に貢献するためには、単なる数字の報告ではなく、「動かすレポート」が必要になると記されていますよね。
その動かすレポートの条件が下記の通りです。

ファクト(事実)ベース
レポートは、データや行動などの事実に基づいていなければなりません。事実でないものはレポートに含めてはなりません。また、事実を曲げてもいけません。
行動を促す
レポートは相手を動かすためにあります。相手が動かなかったということは、内容が伝わらなかったか、レポートの品質が低いということです。
独り歩きを前提とする
レポートは提案者抜きで関係者に共有されます。独り歩きすることを念頭に置き、レポートだけで正しく伝わる工夫が求められます。

『ウェブ解析士認定試験公式テキスト2023』

このうち、上の2つの条件を満たすためにも三位一体法は有用です。細かくみていきましょう。とにかく、行動に結びつかなくては、成果を上げることができません。

行動分析

三位一体の一つ目の要素は「行動分析」です。ここでは、ページ遷移・クリック密度・検索クエリなどあらゆる指標を用いて訪問者の意図を推測します。
これらの指標単体では、何か意味のあることを示しているように見えて、実のところ大した意味を成しません。数字を眺めて満足するのではなく、そこからWhy(なぜ)そのような行動を取ったのかを読み解く必要があります。

成果分析

二つ目の要素は「成果分析」です。ここで重要なのは、指標からわかる成果を知ることです。アビナッシュ氏は、この成果を知るためにSo What?(だから何?何が起きたの?成果は何だったの?)を3回繰り返すことを推奨しています。この問答は、最良の行動に結びつく洞察をうむ指標(KPI)の選定にも使えるのだとか。書籍から3つの事例を引用してみましょう。

事例1:KPI=訪問者の再訪率
「ウェブサイトの訪問者の再訪率が毎月上昇しています」「だから何?」
→「素晴らしいことです。ウェブサイトへの吸引力が増加している証拠ですから」「だから何?」
→「このトレンドをてこ入れするためにもっとXXXを行うべきです」「だから何?」
この最後の「だから何?」への答えが曖昧なら、このKPIは最適ではありません。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』をもとに要約

事例2:KPI=Webサイトの上位離脱ページ
「これは先月のWebサイトの上位離脱ページです」「だから何?(ここ半年で変化はないけど)」
→「これらのページに集中すべきです。重大な取りこぼし箇所になっています」「だから何?(この半年間改善しようとしたけど変化ないよ)」
→「もし訪問者が離脱するのを食い止められれば、サイト内にとどめおくことができます」「だから何?(誰でもいずれはどこかのページから離脱するでしょ)」

これらの指標が紙の上ではとてもいいものに見えるが、行動を促進させるための洞察はほとんど提供しないということを浮き彫りにしている。=KPIに適していない。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』をもとに要約

事例3:KPI=上位検索ワードのCVR
「上位20キーワードのCVRは過去3ヶ月間で、統計学的に意味のある量で増加しています」「だから何?」
「PPCキャンペーンは良い成果を上げていますが、より成果を上げるためにこの9つのワードに資金を再配分しましょう」OK

たった1回の質問で行動のための進言が得られたので、これは優れたKPI。
重要なのは「絞り込んでいる」という点だ。上位のキーワードだけというふうに対象を絞り込み、オーガニックとPPCを分割して考えている。
統計のレベルではどんなKPIにもそれ自体我々に洞察をもたらすようには機能しない。細かく分割することによって初めて、洞察がもたらされるのである。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』をもとに要約

このように、行動を促し、ビジネスの課題に答えを出してくれる指標を導くためにSo What?分析は役に立ちます。

エクスペリエンス分析

最後の要素が「エクスペリエンス分析」です。アビナッシュ氏が三位一体分析の中で最も重要な要素と位置付けているものです。
具体的には、顧客への直接的なヒアリングや満足度調査、A/Bテストやヒューリスティック評価、ユーザービリティテストなどが挙げられます。
この分析が重要なのは「なぜそのような行動をとるのかについて洞察とひらめきを得られる」からだそうです。

アビナッシュ・コーシック『Webアナリスト養成講座』を基に作成

良いWebアナリストの条件

書籍の中ではいくつか良いWebアナリストの条件が記されています。そんな中で、「中の人」的に特に重要だなと思った2点をご紹介します。

自分の目でWebページを確認する

重要な分析を行う前には必ずWebサイトを訪れて、自分の目でWebページを確認することがとても大切です。ツールや数字のデータばかりを相手にして、実際にはどう見えているのかを考えずに分析を繰り返しているのであれば、行動を見直す必要があります。自分で体験することで、数字をより具体的に解釈できるような見方を身につけられる上、より短時間で洞察を導き出せるようになるそうです。

ディフェンスだけでなくオフェンスもこなす

アナリストは放っておけばディフェンスに回りがちです。ディフェンスとは、言われた仕事をこなすことです。データを渡し、レポートを出力して、ダッシュボードを見せる。これらは本当に必要な作業なのでしょうか?
良いアナリストはビジネスの最前線に立ち、「測定すべき指標はこれです」と断言できる人を指します。「数字を出してほしい」と頼まれれば、「戦略上の目的を教えていただければ、データからどうのような洞察が導き出せるかを添えて提出します」と応酬する。ビジネスに成果をもたらすためには、専門家として率先して”無駄な仕事”に抵抗していく姿勢が求められるものなのでしょうね。

まとめ

ウェブサイトは本来、存在する意味があります。(この時期になると、「予算消化のために」と無駄にLPを作る企業もあるそうですが)その存在目的を突き詰めれば、ビジネスとして成果を上げることに他なりません。そのために、ウェブ解析する者は「何が起きたか」と併せて「なぜ起きたか」を測る必要があります。そうすることで、行動を促す洞察を導くことができるのだとか。
そのための具体的な手法は、「行動分析」「成果分析」「エクスペリエンス分析」からなる「三位一体分析」です。なぜ起きたのか、どんな成果があったのかを分析し、ビジネスを成功に導きます。

あとがき

今週も最後までお付き合いいただきありがとうございました。
普段は「ウェブ」という表記にこだわっていますが、今回の記事はアビナッシュ氏の書籍で「Web」という表記が使われていたので、アビナッシュ氏に敬意を示し「Web」という表記も併用しています。
さてさて、どうですか。いつもよりもウェブ解析士らしい記事に仕上がっていると思いませんか?(笑)ウェブ解析士も様々で、「中の人」はどちらかというとビジネス解析よりの人なのですが、今回はアクセス解析よりの記事が書けて満足です。
この本ですが、公式テキストの理解を深めるためにも非常に役に立ちます。公式テキストの副読本としていかがでしょう。「今更ですか?」というツッコミはスルーしますね。(笑)
それではまた来週お会いしましょう。

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