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朝起きて今日は何を着ていこうか迷える世界にするためにリベルテの取り組みについて

朝起きて今日は何を着ていこうか迷うことや、開いたノートの端っこに描いた落書きをする。何気ない日々の過ぎる時間の中でどうしようかと考え選んだりすること、逆にわざわざする必要がないようなことをする。気にもしなければ「選んでいる」という意識もなく忘れてしまい、必要ないかもやめてしまうこと。自分自身の生活やこれまでを振り返ると沢山ありますよね。その些細な選択の束が「わたし」という存在を実は形成していて、人との交流し考えや感情の交換する機会の中で「わたし」が社会化されていく礎となっていたりするんじゃないかと思ったりします。障害があると何気ない些細な選択が難しいことも多く、そもそも機会として「ない」場合もあります。

ぼくは「リベルテ」という名前の法人を仲間とつくり、そこで働いています。リベルテとはフランス語で自由という意味です。フランス語は使えませんが『自由 Liberte 愛と平和を謳う』(朔北社,2001,詩:ポール・エリュアール ,画:クロード・ゴワラン,訳:こやま峰子)という詩の絵本が好きで、作者のポール・エリュアールが第二次世界大戦下で発表したというエピソードもとても気に入っています。法人名を決めるときいくつかの候補からこの「リベルテ」と名付けました。設立は2013年。2022年の春で設立から9年経ちます。前職は生活介護事業所という制度の枠組みで重度の知的障害のあるメンバーが多く所属するデイケアのような役割の施設で日中の支援とアートを担当していました。

リベルテは福祉事業と文化事業があります。福祉事業では就労支援を枠組みに生産活動等を行う事業(就労支援継続B型)、デイケアを行う事業(生活介護と通所型の自立訓練)をひとつの事業所で行う多機能型と呼ばれる運営をしています。定員は26名という小規模な事業です。また2021年からは特定相談支援事業も行っています。利用する人の7割が精神の障害があり50名程度の契約で毎日利用する人は5名。週2、3日利用というメンバーが多いです。利用する人を前職のときからぼくはメンバー(仲間)と呼んでいます。サービスを提供する側、利用する側という垣根を越えて地域の中で一緒に活動を行っていく仲間としてメンバーと呼んでいます。福祉サービスでは長く利用すればするほど施設の支援や関係に依存して気づいたらそこにしか居場所がないなんてことも往々にしてあります。支援してもらう場所の狭い関係の中で認められることが目的にならないよう、新しい関係や挑戦の中でメンバーに生じる葛藤も含めその権利や自由をフォローするのがスタッフの役割です。同時に障害のある人が苦しんできた常識や慣習をそのままアトリエで再生産されないよう、「する/される」という関係性が固定化しないように、ぼくたちはお互いのことをメンバーであることを大事にしています。

週2、3日毎にメンバーの顔触れが代わるので、それに伴い雰囲気にも曜日ごと違います。下請け作業など、決まった作業はニーズがなければ行なわないため一人ひとり取り組むことも違います。多くの人が絵やイラストを描き刺繍のような手芸が仕事になります。仕事という概念もリベルテでは、できる・できないということはあまり関係ないので、アトリエで存在していることだけで時給が発生します。ある人がいれることが、別のある人がいてもいい、という意味で作業をしている・していないで工賃の基準や発生の有無を区別していません。創作と生産活動を位置づけも曖昧のままの場合も多く、布に描いたイラストに刺繍をしたものを事後的にスタッフが鍋つかみにしたりすることもありました。その鍋つかみは、ある工務店からお歳暮として雑貨をつくってほしいという依頼があり、たまたまアトリエに少数つくって置いてあったものが採用され、今では定番のグッズです。また別のグッズ「ねこせんべい」は緘黙がつよいメンバーが仲良くなりたいスタッフへ描いてきた手紙に文字する変わりに描いてあった猫の絵を「型紙」にして布製のブローチやコースターがあります。リベルテのグッズの「山ふうとう」は、メンバーが手作りで封筒を作っていたら折り目が斜めになってしまい台形の封筒ができたことから生まれました。アトリエで起こる出来事や人同士のやりとりがリベルテでは真ん中にあります。目的を決め計画し得られた結果ももちろん大事ですが、メンバーにとってそこから、ズレたり反れたりして生まれる過程に生まれたエピソードがあるからこのアトリエ(と呼んでいる福祉施設)が好きなのです。スタッフはそのエピソードをその場の出来事だけにせず、グッズやアートにして届けようと悩みます。もちろん全てのエピソードを拾うことはできませんが、生産性とはまったく逆のものを面白がるモチベーションがアート的な視点を生み、障害を問題視しない雰囲気が生まれアトリエの環境となっていきます。

2021年は夏からは3つあるアトリエの1つ「roji」の庭を「誰もが訪れることができる公園」にしようという取り組み「路地の開き」を行っています。最初から公園づくりにしていた訳でなく、YUKIさんというメンバーが「roji」の庭で野菜や植物育てたいという希望から始まりました。もともとrojiは2020年に自主企画のアートイベント「ちくがうらがえる」の会場だった建物です。その場所を相談支援事業の事務所にして、その後アトリエにもしました。できればメンバーの希望が地域の人につながれる場所になれば良いなという思いもありました。庭を全て畑にしてしまうより、庭づくりから地域の中で開いてやっていこうと。そもそも福祉施設はできたその瞬間から(鯵の開きのように!)地域に開かれてしまっているものだと考えていたので「路地の開き」という名前をつけました。事業として取り組み始めたタイミングで長野県文化芸術活動推進支援事業補助金へ申請・受託することができアートプログラムとしても取り組んできました。福祉施設に付属する庭を地域と施設の紐帯とらえ、庭づくりを地域の住民と取り組み、アーティストとメンバーとが作品制作を行いました。

「路地の開き」はリベルテのメンバー個人の「ひとこと」から出発して福祉施設の公共性について考え、新たにクリエイションしようという試みになりました。庭のデザインやアドバイザーには小諸市にある和久井ガーデンの和久井道夫さんにお願いしました。小諸駅前の停車場ガーデンへのリサーチなどから一緒に取り組んでいただいています。アーティストとの共同制作では『開きのひらき』という戯曲を表現者・石坂杏子さんとメンバーとで制作、映像化。庭にある納屋をミニギャラリー(名前は「naya」にする予定!)にして展示や雑貨販売もできたらいいなと思っています。地元高校生によるふるまいコーヒーも月1回出店してもう話もしているので、メンバーやスタッフ、ご近所さんや様々な人がこの小さな公園に何となく居れる工夫を考えていきたいと考えています。ふらっと訪れてちょっと現実からサボれる公園にしたいです。

人と共生する、誰かと共に生きるというとき、そこには無数のエピソードがあるはずです。そのことが、結局、障害のある人が感じてきた息苦しや生きづらさを生み出すものになってしまわないように。些細で忘れやすく無駄話と言われてしまうような無数の時間が束ねられた場がアトリエであり、地域であり、この社会、世界であることを意識したいです。

武捨 和貴(むしゃかずたか)
子どもと芸術の取り組みから「社会とアート」への関心を持ち障害福祉へ。今はNPO法人リベルテ(長野県上田市)代表。メンバーにしゃむと名づけてもらいました。妻と子2人、猫の4人と1匹暮らし。リベルテのアトリエrojiの庭を公園するべく「路地の開き」という取り組みをしています。遊びにきてください。

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