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グラスの中の空想の世界

穏やかな晴れた日。いつの間にか春になっていた。
数日前には暖かい雨が降り、満月だったことも関係するらしく一日中眠くて、いつか誰かが言っていた「満月の日は右脳と左脳が入れ替わる」ということについてぼんやり考えていました。
海の水をも引っ張ってしまう月の引力は、人間ひとりひとりの脳や感覚にも作用するという。
なんだか自分の存在そのものを揺さぶられるようで、夢の中にいるような感覚を覚えた日でした。


私の生活は、昨年の夏以降から少し変化しました。
ひとつは、結婚したこと。
夫と出会った頃、私はちょうど約5年間働いた工房を辞める少し前でした。
ある程度の覚悟をもって決断した事だったのですが、正直フリーランスで東京で暮らしていけるほどの収入があるかどうか分かりませんでした。
作家として生計を立てていくこと、それは予想通りに厳しい…

夫はエンジニアとして働いているのですがアートに興味関心が深く、趣味で写真作品や音楽制作をしており(いつか日の目を見るようになればいいなと思っています)、私のような仕事にも理解を示してくれました。
支えてくれる人が出来たことで、これまで一人で悩んで諦めていたようなことも出来るようになり、制作環境や仕事への取り組み方、考え方も変わってきました。


もうひとつは時を同じくして、別の仕事もはじめたこと。
私の場合、自分の工房を作り、そこで制作するという意味での独立は現状難しく、工房を辞める事で全ての収入を作品販売から得ることが出来るように頑張りたい…という意味での独立でした。

たくさん作るためには時間が要るから、制作以外の仕事はしないぞ!と意気込んではいたものの、まず制作費が結構かかるので注文以外の在庫を抱えるのが難しいのです。
そのため毎日毎日制作している訳でもなく、意外と時間があまる。
さらに私には常時受注しているような仕事がなく、展示会やECサイトでの販売が中心であることも原因で、月によって忙しさや収入に大きくムラがありました。
結果、秋冬貧乏に。独立して1年程経った昨年の秋ごろ、このままでは無理だと思いました。

フリーランスは、専業であってこそ。というカッコつけた考えでいたことを恥じました。
周りの作家さんや作家志望の同世代の方々が、アルバイトや他のお仕事で収入を得ながら制作を続けていることを知っていながら、私はガラスだけでやっていくと意地を張っていました。

当然、現実はそんなに甘くありませんでした。
私だけが最初から出来るなんて、どうして思っていたんだろう。
もうひとつのお仕事は時間的にも内容的にも負担にならないようなものなので、生活のメリハリも出来てむしろ良いんじゃないかと思えています。

自分も、周りの人も環境も、考え方や生き方も常に変化していく。
日常だって、ゆるやかに変化しているかと思えば、あっという間に崩れていってしまう。

非日常の中に放り出された今、この世界にはひとりの力ではどうしようも出来ない、大きな意思のようなものが漂っていると感じています。
私はそれに逆らうことが出来ない。

ものづくりをすることは、自分の存在を確かめることです。
いつか出来なくなってしまうかもしれないから、出来る限り大切に作りたいと改めて思いました。

落ち着かない日々に心がざわついていて、整理するような気持ちで書いています。
あと、久しぶりにゆっくり時間が取れることになりましたので、最近の制作や現在開催中の個展について書いてみようと思います。


クリームソーダの海を作ろう


春の鎌倉での個展は、4回目になりました。

≪EVENT INFORMATION≫
“Fantasy in the Glass” 澤田 和香奈 ガラス展
2020.3.11(wed)‐3.29(sun) 11:00‐18:00
※Monday,Tuesday Close

moln モルン
248‐0012 神奈川県鎌倉市御成町13‐32‐2F
0467‐38‐6336

molnさんの個展では、毎年さまざまな作家さんとのコラボ作品や限定作品を販売させて頂いています。
今年は、クリームソーダ職人/旅する喫茶の店主 tsunekawaさんにお声掛けさせて頂きました。

先に述べたように、フリーランスになって意気込んでいた1年程前。
これまでなかった仕事を作ろう、もっと積極的に自分の技術を売り込もう!という夫の助言のもと、ガラスを活かすことが出来る可能性を探していました。
tsunekawaさんの事はTwitterで以前から知っていたのですが、ふと「クリームソーダには…グラスがいる!!!」と気付き、オリジナルグラスを一緒に制作・販売しませんか?という内容を思い切って連絡してみました。
tsunekawaさんはお返事を下さり、数日後の面接(作品を見せにいく)を経て、グラス制作プロジェクトが始動することになったのです。


工房まで何度も足を運び、制作現場もしっかり取材して下さりました。

試行錯誤を経て完成したグラスは、“Creamsoda Sea”という名前です。
泡が下から上へと立ち昇る、海のグラス。

tsunekawaさんのこだわりポイントとして、
■泡のグラデーション…炭酸飲料の泡は意外と細かいので、グラスに泡を入れることで写真映えの効果。
■スリムでくびれのある形…見た目の美しさ、飲み口から香りがふわっと漂う効果。
■指定のサイズや厚み…レシピ基準で約300ml入り、口径はアイスクリームの大きさと同じくらいの約60〜65mm。

これらが挙げられました。
うつわを作る者として、なるほどと思うことばかりです…!
こういう限定的な用途から発想したデザインは無駄がなく、シンプルかつ個性があり素晴らしいと思いました。

吹きガラスの技術的な話をすると、泡のグラデーション、むずかし。
ガラスに泡を入れる方法は何種類かあり、それぞれ見え方が違います。
今回は細かくてたくさんの泡というデザインなので、ガラスに重曹をふりかけて発泡させる方法でやってみました。
どういうことかというと…

…ちょっとイラストで説明します。よかったら拡大してご覧下さい!


この技法は泡の入り方に個体差が出やすいため、ある程度数をこなして最適な条件を見極める必要がありました。
小さなガラスの芯の温度が重要で、あれやこれやで(ガラスの専門的な話になりますので省略)泡のグラデーションっぽく出来るようになりました。

実は、この度の展示会に合わせてmolnさん店内でクリームソーダを飲むことができる限定喫茶を企画していました…。
コロナウイルスの感染拡大を受け、中止せざるを得ませんでした。
とても残念ですが、またの機会にぜひ実現させたいと思っております。


グラスに魔法がかかるとき

今回は、メインビジュアルの撮影もtsunekawaさんにお願いしました。
冬のよく晴れた日、グラスを持って鎌倉の海へ出掛けました。

なんと、動画も撮影!!!

プロの心意気を感じる、クリームソーダの世界。
こちら、クリームソーダが海と空、アイスが雲、さくらんぼが夕日を表現しているんですって…!!?
tsunekawaさんの作品からは、作るだけではなく、いかに幅広い見せ方で多くの人に届けるかということを学ばせて頂いています。

アイスが溶けていく様子も、美しいんです。
(上空至近距離のトンビの群れにヒヤヒヤしつつの撮影でした。)


今回の展示会、私は鎌倉に伺わず販売はmolnさんにお願いしています。
すでに多くの方に作品をご覧頂いているようで、新作など完売してしまったものもあるようです。
お知らせをするのも憚られる事態ですので、どうなることかと不安でした。足を運んで下さり本当にありがとうございます。

限られた制作時間の中ではありますが、追加で制作をしてガラスたちを送り出したいと思います。


ご自宅で少しでも楽しくお過ごし頂けるように。ぜひ、あなただけの空想の世界をグラスに注いでみて下さいね。

最後まで読んで下さりありがとうございます。 これからも応援よろしくお願い致します。