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NiziUがもたらすかもしれない3つのインパクト

12月に本格的なデビューを控えるNiziUは、すでに記録的な成功を収めた。今後、j-pop、アイドルを中心とする日本型コンテンツの国際競争力は現在以上に停滞し、日本市場では外資コンテンツのプレゼンスが現在以上に増すだろう。

一応前段として、NiziUのインパクトの大きさを示しておきたい。下記は、Googleのウェブ検索ボリュームである。NiziUがグループ結成・プリデビュー曲発表を行った2020年6月から、突き抜けたボリュームが確認できる。日本における女性グループアイドルとして最大の検索ボリュームを誇る乃木坂に匹敵している(乃木坂以外の日本グループはどうなのか?という意見に関しては、https://trends.google.co.jp/trends/?geo=JP でご自分で確認ください)。

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さて、NiziUの成功から示唆できる主なポイントは、下記の3つと考える。それぞれ細かくみていく。
①Kpopが長年取り組んできた現地化戦略が次の次元に到達した
②今後、多くの韓国企業が現地化戦略で日本市場を改めて攻略する
③演者/スタッフ共にエンターテイメントを目指す人材の国外流出の可能性が高まっていく。

①Kpopが長年取り組んできた現地化戦略が次の次元に到達した

Kpopのグローバル展開は大きく3段階ある。まず、オンラインでの強力なマーケティングと世界水準のコンテンツ制作能力によるグローバル進出。次に韓国人を含む多様な国籍ミックスによるグループ構成。そして最終フェーズが、NiziUのような現地人材のみの活用による現地市場特化型グループのプロデュースである。

第3段階は、遡れば2016年に韓国の著名プロデューサー、Brave Brothersによってデビューした日本人アーティストCHERRSEEから模索は始まっていた。そして、CJ E&MによるProduce101フォーマットの日本輸出により作られたProduce48やProduce101 JAPAN、そこからデビューしたIZ*ONEやJO1によって一定の成果を得た。それらも十分成功を収めたが、マスメディアを巻き込み、今までKpopの影響が及ばなかった層にまでリーチを届けるという意味では、もう一歩の成果が欲しかったのではないだろうか。

Niziプロジェクトはそうした”実験”結果をすくいとり、およそ1年以上の準備期間を経て緻密に組み立てられた。2018年7月には少なくとも大枠の構想は完成したと考えられ、2019年2月にプロジェクトが発表された。同年7月からオーディションが開始し、実際の放送が始まったのは翌年2020年の1月からである。その結果は見ての通りで、まさに第三段階が完全な成熟を見せたといっていい。JYP並びにJYParkはTWICEを生み出したオーディション番組SIXTEENの企画・制作プロデュースを手掛けており、そのノウハウもあったことだろう。

②今後、多くの韓国企業が現地化戦略で日本市場を改めて攻略する

Niziプロジェクトは、巨大マーケットである日本進出の王道フォーマットとなった。オーディション番組という形態でなくとも、日本人グループを韓国がプロデュースする方程式は見えた。韓国勢はさらに磨きをかけながら、このフォーマットを使えるだけ使い倒すだろう。すでにBTSを生んだBigHitsは、”Big Hits Japan Audition”を立ち上げ、6月ごろから全国で募集を開始した。JYPはNiziUの男性版を立ち上げる構想を発表している。

また、使い倒されなくても、NiziUはKpopにとって福音だった。Kpopは全体が一体となって生態系を構築しており、1グループが跳ねれば連鎖的にKpop全体が恩恵を受ける。Kpopは当初は無自覚に、徐々に意識的に音楽番組や賞レースの仕組みを整え、バラエティ番組も活用しながら、各グループが事務所の垣根を超えてファンの興味を共有しあえるような全体の連携を作り上げた。各事務所に所属するグループによるコンサート開催も強化され、「事務所自体のファン育成」とでも言うべき試みは一定の成果を納めている。例えばそれはSMでいうSM TOWNだし、YGでいうYG family concertで、JYPでいうJYP NATIONであった。NiziUが獲得したファンは、少なからずこうした生態系全体にファンの流入をもたらすだろう。

③演者/スタッフ共にエンターテイメントを目指す人材の国外流出の可能性が高まっていく

NiziUは、アーティスト・タレントを目指す日本人に、改めてKpopの選択肢を強烈に印象づけただろう。タイミングよくオーディションを開始したBigHitsは、こうした流れで数多くの魅力ある新人をピックアップできているかもしれない。

日本の(特に音楽の)エンターテイメントカンパニーに、自社でグローバル市場を攻略するケイパビリティはほとんど存在しない。グローバルな活動、知名度を目指す若者がどちらを目指したくなるかは、言うまでもない。日本の芸能事務所はよりガラパゴス化し、縮小する市場にかじりつくしかなくなる。案件の内容は定形化し、ギャラはじりじりと下がっていく。一方で、激しい競争を勝ち抜きKpopでグローバルの波に乗れたタレントは、アジア全体、ひいては世界全体に活動の場を求めることができる。

演者だけではない。若くクリエイティブに関わる人材の多くが、Kpopの高いクリエイティブ能力を目の当たりにしている。美容やファッションの分野でもKpopの存在感は一際輝いており、いずれは彼らも流出していくのではないか。

④残念ながら、日本の芸能産業にとっては福音ではないかもしれない

総じて、日本の立場からすれば若干悲観的にならざるおえない。もちろん彼らの成功は広く捉えれば日本という国やその人材への注目を集めることに繋がり、良いインパクトであることは間違いない。ただ、我々が主体的に生み出したものではないことは課題と捉えるべきだ。このままでは収益も、クリエイティブやプロデュースのノウハウも、人材も、大半を自国でコントロールできないからである。

とはいえ、現在のJ-popを中心とする日本人タレント・アーティストのファンがいきなりK-popに奪われ、収益を劇的に失うようなことはまず起きないと思う。ファン層の重複が日を追うごとに大きくなり、少しづつマーケットのパイを侵食していく。同時に日本の優秀な演者やタレントがK-popへ流出していき、数年〜十数年をかけてじわじわと人材・ノウハウが空洞化する。日本のローカル・アーティストは、よりハイコンテクスト・コミュニティ依存・ロークオリティのエンタメへと変化し、Kpopはグローバル・ハイクオリティなエンタメの道を進むだろう。



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