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LiveNation-世界最強の音楽イベント会社は、なぜ強いのか?

1.はじめに
・LiveNation(NYSE:LYV)は、アメリカを拠点とする世界で最大のライブエンターテイメント企業であり、その強みを分析します。
・その目的は、世界で最も先進的なライブエンターテイメントのビジネスモデルを本質的に理解し、日本のコンテンツの世界展開を考える第一歩とすることです。
・日本では、ライブ市場成長という文脈で、マドンナとの360度契約などをきっかけに有名になったLiveNationですが、日本でそのビジネスの全体像はあまり理解されていないように感じます。
・製造業や金融、資源といったセクターのグローバル展開では、その産業構造/基盤自体に目が向けられて当然ですが、こと音楽などエンターテイメント分野になると、「音楽性」「国民性」といったコンテンツ自体の特徴が注目されがちです。
・コンテンツ産業において日本がより世界で羽ばたくためには、そもそもグローバルなコンテンツ市場がどのようなルール、基盤のもとに成り立っているかを理解する必要があり、LiveNationを理解することはその第一歩になり得ると信じています。

1.5 注釈
・より詳細を知りたい方のために、下記のエントリを用意しています。詳しい具体的な事例や、エビデンスが欲しい方は、ご覧ください。
LiveNationの10-K(有価証券報告書)の翻訳 Part1
LiveNationの10-K(有価証券報告書)の翻訳 Part2
LiveNationにおける様々なトピック-技術的や、買収、独占の危険まで

1.7 背景
現状、アーティストは圧倒的にイベントで稼いでいる。全米のアーティストは、その収益の83%をイベントから得ているというデータもある。(本データはマーチャンダイジングやスポンサーシップを含まないため、注意)
LiveMusic Entertainment IMAP M&A sector report

2.Live Nationの全貌と強み
・LiveNationは、大きく5つのことを行っている。
・アーティストのマネジメント 
 芸能事務所(日本とは形態が若干違う)。U2、マドンナ、レディーガガといったアーティストがライブや楽曲のリリースなどビジネスをする上でのあらゆる権利を取得(=360度契約と言われている)する契約を中心に、様々な形で契約。いわゆるグローバルにおけるトップアーティスト、プロスポーツリーグの多くと契約しているのが強み。
コンサート制作 
 イベントを自らお金を出して(リスクを取って)作る。上記のように権利を持っているアーティストのイベントや、自社(か、買収した)のイベントやフェスなどを制作。近年はフェスも大きく、グローバルで多くのフェスを有するのが強み。
・会場運営
 欧米を中心に、世界各地で最も重要なライブ会場(スタジアム、アリーナなど)の多くを所有したり、あるいは運営。日本でいうと東京ドームと横浜アリーナとさいたまスーパーアリーナを同じ会社が運営しているようなイメージ。米国で売上の多い会場TOP100のうち、80をLiveNationが管理している。
・チケッティングサービスの提供
 日本で言うプレイガイドサービスの提供(=チケットぴあ、的な)。米国ではおよそ80%近いシェアを持ち、圧倒的。欧米を中心にグローバルに展開。
・広告、スポンサー事業
 自社のイベントなどに対して、協賛してくれる企業を見つけて、スポンサーの枠を販売する。あるいは、広告枠を販売する。


3.何で稼いでいるのか?
広告、スポンサー>チケット>コンサート
 下記グラフの通り、LiveNationの売上はほとんどがコンサート事業で占められているが、営業利益としてはコンサートは大赤字である。一方、チケットや広告、スポンサーの事業が稼ぎ出す。
・コンサートは万年赤字だが、これは構造的な欠陥があるというよりも、そもそもこの事業に利益をそこまで求めてないというほうが正しい。コンサートはあくまでファンを呼ぶ強力な装置であり、そこでチケットを売ったり、広告やスポンサーを呼ぶことで利益を出している。

4.どんな戦略があるのか?
・私の観点で整理すると、集客、収益化、支配という3つの戦略があるように思える。
・簡単に言うと、まず大量のファンを集め、自社のプラットフォームに誘い込む。そのプラットフォーム上で利益を稼ぎ出す。それらの効果を最大化するため、プラットフォーム自体のグローバルでのシェアを高める、ということである。
・「集客」:よりよいコンテンツを獲得する(=より多くのファンを惹き付ける)
 チケットをより売るためには、イベント数と動員を増やすしかない。そのために、トップアーティストや人気のあるフェス、スポーツリーグと契約を結び、それを維持する。あるいは、それらを有する企業を買収することで、ファンを集める。
・「収益化」:1人あたりの単価を高める(=利益を最大化する)
 チケット販売では、チケットの価格をより動的にして売上を最大化(=需要の高いチケットは値上げし、低いものは下げる=ダイナミックプライシングと呼ぶ)する。
 また、会場運営では、会場やイベント制作などコストがかかる部門をよりコントロールしてコストダウンし、利益率を高めることができる。また、会場でのグッズ販売や駐車場、各種飲食の販売などを強化することで、チケット外の収入を稼ぎ出す。
 さらに、ここに広告やスポンサーをつけることで、より収益を拡大する。
・「支配」:プラットフォームの支配力を高める(=グローバルシェアを高める)
 アーティストにとって最も魅力的となり、強力な収益化を推進するためには、グローバルトップのプラットフォームになる必要がある。
 LiveNationにおけるプラットフォームとは、グローバルでイベントを展開するシステムのことである。具体的には、ライブ会場、イベントを作るための各地のプロモーター、チケッティングシステムをグローバルで構築、あるいは買収し、統合することを指す。この分野でLiveNationは強力な投資を行っており、各国のトップクラスの企業を次々と買収している。また、近年はテクノロジーにも投資をしており、最新技術を次々と導入(偽造防止や無人入場など)し、競合と技術的にも圧倒的な差をつけようとしている。


5.示唆(箇条書き)
各個撃破は困難 LiveNationは圧倒的に集客できるコンテンツと、それをマネタイズできる支配的なプラットフォームを両輪で動かし、それぞれを買収/統合で強化することで成長している。構造的な強みを持ち、バリューチェーンを深く統合しているため、チケッティングや会場運営、アーティストマネジメントといったそれぞれの分野で戦うことには意味がないし、勝てない。
技術的優位が今後脅威 彼らは産業の構造として非常に優れたモデルを持ち、かつそこに技術的にも投資を続けている。現在はグローバルネットワークとしての強みが分かりやすいが、現状が続けば今後数年間で技術やデータにおいて他の企業と圧倒的な差が生まれる可能性がある(中国は別か?)。そのときに、一気にプラットフォームとして飲み込まれるかもしれない。
あくまで稼ぐパートナー LiveNationはアーティスト自身がどう有名になるかにはタッチせず、あくまで有名になったアーティストがどうその集客力、ブランド力で利益を刈り取るか、というフェーズにおけるベストパートナーである。
世界的なアーティストが勢いづく 今後、LiveNationがグローバルかつ技術的により優位なプラットフォームとなったとき、グローバルに人気のあるアーティストにとってはより稼ぎやすい環境が用意され、そうでないアーティストは、そういったプラットフォームが支援するグローバルなアーティストの進撃に怯えることになる。ある種ブロックバスター戦略(詳細はリンクを)が加速化する。
世界のコンテンツ市場は統合が進む 本稿とは話題が若干ずれるが、YoutubeやNetflix、Apple music、Spotify、Daznといったサービスは、グローバルなコンテンツ市場を一気に統合している。音楽において、世界で稼ぐことのできるアーティストやプロダクションは、それらの統合された市場に巨額の投資をかけ、新人を売り込んでいく能力を有することになる。ローカルレベルのアーティストは、彼らとファンの可処分時間を激しく奪い合うことになるだろう。

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