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今さらクリッシー・ハインドに惚れちまった話~プリテンダーズ

ことは数日前に倉庫から1枚のLPを見つけたことから始まった。

プリテンダーズ

1980年に発売されたプリテンダーズのデビューアルバムだ。当時大学生でロック、ジャズ、クラッシックとレコードを聞きまくってたわたしはこのバンドの曲をFMあたりで聞いて即買いしたのだろう。しかしあまり聴き込んだ覚えはなく、実際このLPを見つける日まですっかり忘れていたからもう数十年も聞いていなかったことになる。それでその夜にストリーミングでこのアルバムを聞いてみた。

ぶっ飛んだ

久しぶりにロックを聞いて震えた。続けて2ndアルバムも聞いた。1stほどのインパクトはなかったが気に入った。翌日サードアルバムを聞いた。

またぶっ飛んだ

わたしはyoutubeでライブを探して観まくった。ロックバンドにはスタジオアルバムはよくてもライブがイマイチ響かないバンドがある。例えば技巧派プログレでもイエスなどはライブはしっくりこないが、クリムゾンはライブのほうが良かったりする。
プリテンダーズはどうか?と観まくったらライブが圧倒的にかっこいい。オリジナルメンバーのギタリスト、ハニーマンもいいし、何よりロック界の姉御と呼ばれるクリッシー・ハインドがカッコ良すぎる。
果てはハインドの自伝(原書)まで買ってしまった。

要する私はハインドに惚れたのである。70の婆さんに。

何かすごいかって?例えばこの映像を観ればわかると思う。2005年にロック殿堂入りしたセレモニーのときの演奏だ。ハインド55歳のときである。

いきなり炎のようなスピリットでテレキャスターをかき鳴らし、ドラムを巻き込むその勢いは男顔負けのロック魂を感じる。これですよこれ。ロックはこうでなければ!そのへんの若者ロッカーにこの熱量があるか?

このPreciousという曲は、ファーストアルバムのOPであるが、これとthe wait、キンクスのカバー曲stop your sobbingをデモテープに録音してロンドンでのデビューにつながったのでハインドにとって思い入れ深いもの。特にオリジナルメンバーのギタリスト、ジョニー・ハニーマン・スコットの存在は大きく自伝で彼女はこう言っている。

I casually waved goodbye as Jimmy got on the train back to Hereford, without thinking about when or even whether we’d meet up again. Then I sat down to listen to the demos. I was stunned. I listened again; the songs had taken on another life. These weren’t my songs anymore—they were ours. James Honeyman-Scott was the one I’d been searching for. It was him.

ジミーが列車でヘレフォードに戻るとき、私はさりげなく手を振って別れた。そして、座ってデモを聴いた。私は唖然とした。曲は別の人生を歩んでいた。これはもう私の曲ではない。ジェームス・ハニーマン・スコットこそ、私が探し求めていた人だった。彼だった。

Hynde, Chrissie. Reckless: My Life as a Pretender (English Edition) (p.240).

しかしジミーは、2枚のアルバムを出した後、ドラッグの過剰摂取で25歳の若さで亡くなってしまう。サードアルバムLearning to Crawlに収録されている2000miles という曲は彼に捧げた曲だ.。


デモテープに収録したThe waitという曲も名曲でライブでは必ず演奏されるようだが、個人的にも最も好きな曲だ。

このライブはネットで見られるものの中でもかなりオススメだが、The waitは10:30あたりから演奏される。もうかっこよすぎて痺れっぱなしである。

オリジナルメンバーのライブにこだわるならこれかな。

The WaitはOPで演奏される。

クリッシー・ハインドは決して歌が上手いわけではない。聖域はコントラアルトと自分で語っているように女性で低い声だし、何のトレーニングも受けていないからテクニカルな歌いまわしもできない。だから熱唱系のバラッドはあまり似合わない。しかし、彼女の歌には技量を超えた独特の魅力がある。これについて彼女は自伝でこう語っている。


Rock singers aren’t schooled to take care of their voices. There is no training involved in singing rock and roll. If anything, voice lessons or a voice coach would probably work against you, as would anything that might make you sound like someone else. Distinctive voices in rock are trained through years of many things: frustration, fear, loneliness, anger, insecurity, arrogance, narcissism, or just sheer perseverance—anything but a teacher.

ロック・シンガーは声をケアするための学校教育を受けていない。ロックンロールを歌うのにトレーニングは必要ない。どちらかと言えば、ボイスレッスンやボイスコーチは、他の誰かのような声を出すようなことと同様に、あなたにとって不利に働くだろう。ロックにおける特徴的な声は、何年にもわたって、挫折、恐怖、孤独、怒り、不安、傲慢、ナルシシズム、あるいは単なる忍耐など、さまざまなことを通して鍛え上げられる。

Hynde, Chrissie. Reckless: My Life as a Pretender (English Edition) (p.278).

(和訳はすべて機械翻訳)

要するに、ロックの歌い方なんてものは教わるものじゃない。人の歌い方を真似て自分の個性を失うだけで良いことは何一つない。
まったくそのとおりだと思う。
実際にJPOPの歌手を聞いてみると(前にも記事に書いた記憶があるが)、皆同じような歌い方で、上手いのだがぐさっと響かない。ハインドの歌は、決して上手くはないが好きなひとにはたまらない魅力がある。もちろん好みがあるので万人受けしないだろうが、そもそも万人受けする芸術なんて存在しない。

ハインドは、ロンドンで28歳でデビューしたが(遅咲き)、生まれはオハイオ州アクロンである。故郷オハイオのことを歌った曲があって(サードアルバムに収録)わたしはこの曲が好きだ。

I went back to Ohio
But my city was gone
There was no train station
There was no downtown
South Howard had disappeared
All my favorite places
My city had been pulled down
Reduced to parking spaces
Ay, oh, way to go, Ohio

私はオハイオ州に戻ったが、私の街はなくなっていた駅もダウンタウンもなかったサウス・ハワードは姿を消していた私のお気に入りの場所はすべて取り壊され、私の街は駐車スペースになっていた。

もうひとつお気に入りの曲を紹介。
サードアルバムのオープニング、middle of the road。
これもライブの定番だ。


それにしても、ハインドの活力は衰えを知らない。
菜食主義者で東洋神秘主義者で毎年インドに(修行に?)行くらしいがそのせいか(笑)。60-70歳あたりのミュージシャンはみんなでぶでぶしているからいつまでもスリムなハインドはかっこいい。
今年もまたアメリカでツアーをやるそうだ。すげえな。73歳だぞ。。

わたしもまだすべてのアルバムを聞いていいないからなんとも言えないが、プリテンダーズの全盛期は最初の3-4枚なんだろうと思うし、以降彼女のソロアルバム「ストックホルム」(これはなかなか気に入っているのだが)含めて、初期のころのような尖った感じが薄れたのは否めない。
しかし、70歳超えてまだロックであり続けるというのは、すごいと思う。
ロックの殿堂自体にすごい意味があるとは思わないが、レジェンドというのは、やはり別格なんだなと思う今日このごろである。

最後に2009年のロンドンライブを紹介しておこう。これは音質画質ともになかなか良い本格的なライブ映像だからぜひ観てほしい。

とにかく惚れちまったよ。
クリッシー・ハインドに(笑)。

追記:おすすめアルバム
Youtubeのライブ映像漁って気に入ったなら
「Pretenders」(1980年)
「Learning to Crawl」(1984年)
まずこの2枚かな。
気に入ったら、セカンド聞いて、ポップな感じも好きなら、「Get Close」もという感じ?
そのあたりはお好みで





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