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ビジネスマンが犯罪者になる時 カルロス・ゴーン氏も起訴された「特別背任」とは

弁護士として企業法務を専門にしていると、取扱業務は9割がいわゆる民事の案件だったりもします。しかし時折、案件が刑事事件へと発展することもあります。
従業員や経営者の不正な行為に対して刑事告訴していくなどの案件です。
実際に扱う犯罪の類型としては、業務上横領罪、窃盗罪などがございますが、「背任罪」も割とよく使います。背任罪とは何か?
刑法上の条文は次の通りとなっています。

(背任)
第247条 他人のためにその事務を処理する者が、自己若しくは第三者の利益を図り又は本人に損害を加える目的で、その任務に背く行為をし、本人に財産上の損害を加えたときは、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。

非常にシンプルですね。要は背任、つまり「任務に背く行為を」したときに犯罪になることがあるのです。
では「特別」背任罪とは何か。
「特別な」背任と言う事なのですが、何が特別なのかと言うと、行為者が取締役であると言うことです。同じ「任務に背く行為」をした場合であっても、それを取締役がやると罰則が非常に重くなるのです(10年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金)。

そしてこの(特別)「背任」の意味ですが、「任務に背いた場合」というのは非常にふわっとしてるといいますか、解釈次第でどうにでもなってしまう、というのが恐ろしいところです。例えば「〇〇事業部担当取締役」や「〇〇本部長」にとっての任務とは何で、何をすればそれに背いたことになるのか、というのは難しい問題です。そういう性質を持つ犯罪ですから、背任罪で刑事告訴をした場合も、警察はなかなか告訴状を受理してはくれません。
ただ逆に言えば、警察や検察が本気になれば、いかようにでも犯罪に仕立て上げることができてしまう(かもしれない)危険をはらんでいるということです。

カルロス・ゴーン氏の案件についてみると、同氏はまず有価証券報告書虚偽記載罪で逮捕・勾留されています。この逮捕・勾留とは、要は牢屋に入れておくということです。人権を侵害するものであり、刑事訴訟法で厳格に上限期間が定められています。
本件では、有価証券報告書虚偽記載罪に基づく身体拘束の期限が切れたところで、すぐにゴーン氏は特別背任罪で逮捕されました。
これだけ見ると、もしかして、有価証券報告書虚偽記載されての期限が切れたから、それでゴーン氏が外に出てしまっては困るから、別の犯罪で何とかしようとしたのでは?そんなふうに勘ぐってしまいます。
ゴーン氏が海外逃亡してしまった今、真実は闇の中ですが、つまり、背任罪というのは、ビジネスマンにとっても非常にリスクの高い犯罪であるということです。

追伸
ゴーン氏を長期間身体拘束していた、いわゆる我が国の「人質司法」の問題点については、同氏の刑事弁護をされていた高野隆弁護士のブログに詳しいです。心を打つ文章です。
ブログ 刑事裁判を考える「彼が見たもの」
http://blog.livedoor.jp/plltakano/archives/65953670.html

弁護士 野村彩(のむらあや)

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