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聴かせて!「十獅会」のわがこと

「聴かせて!みんなのわがこと」、今回お伺いしたのは十河地区で獅子の活性化を目指して活動する「十獅会」さんです。
なぜ「獅子」なのか。そこには地域の歴史をどう未来に繋いでいくか、地域をどうやって元気にしていくか、という強い想いがありました。

「聴かせて!みんなのわがこと」とは?
香川県内でとても素敵な活動をされている個人や団体にスポットライトを当て、「共感の輪が広がっていってほしい」という想いから、その活躍や想いなどの わがこと(我が事)をインタビュー形式でお届けします。

Vol.12
十獅会

獅子をやりたい若い世代の受け皿に

—十獅会について教えてください。

谷口さん:結成は2011年で、今年で13年目です。
最初は「十河獅子連合会」という名前でやってたんですが、呼びやすくするために「十獅会(じゅっしかい)」としました。
ぼくが会長で、谷本が副会長をしています。

十獅会は、十河の住民なら誰でも参加できる集まりです。活動内容としては、地元の氏神様である鰹宇神社の秋祭りで獅子舞を奉納することを目標に、春から「十河獅子教室」を毎月開催し練習をしています。
また、十河小学校でも総合学習の時間に子どもたちに獅子を教えています。

—獅子というと普通は昔ながらの集落単位、自治会単位でやっているイメージですが、獅子教室は自治会に関係なく参加できるのがいいですね。

谷本さん:自治会に入っていないけど、獅子はやりたいという子どもや若い人がいますからね。
そんな人の受け皿になればというのはあります。いま、大体20〜30名くらい参加しているかな。

―秋祭りで獅子を使えるなんて、子どもたちにとってはすごくワクワクする体験ですよね。

谷口さん:今年からは秋祭りの後に「へんど」といって、地域内の個人宅や企業をまわって獅子をする巡業活動もやっています。
十獅会メンバーは各自治会の獅子にも所属しているので、秋祭りでは複数回の演舞が難しいんです。「へんど」に行くことでたくさんの舞を披露する機会が増えて、本来の獅子の醍醐味を体験できるようにしています。

谷口さんは木工所を経営。当日は工場でインタビューでした。
右が谷口さん、左が谷本さん。

—獅子の道具はどうやって揃えたのでしょうか。

谷口さん:獅子って本格的なものは頭だけで60万円くらいするし、胴体部分の布地は油単というんですが、こちらはさらに高くて100万円以上します。親子獅子なら単純に費用も2倍近くになるし、そのうえ鉦や太鼓なんかも必要だから、いきなり揃えられるものじゃないんです。

だから、最初は地域の祭りのバザーにクレープ屋を出したりして、少しずつ資金を集めていきました。
道具を買うにも自分たちの欲しいものは高価で手が届かないので、安価なものから少しずつ揃えていったんです。

―そもそも獅子ってどこで売っているんでしょうか。

谷口さん:県内に職人さんがいて、本格的なものはその人のところで作ってもらうんです。
もちろんそんなお金はないので、メルカリで買ったり。

—獅子をメルカリで買えるんですか、それはビックリです。

谷口さん:探せばありますよ。瀬戸大橋開通のときに記念品として作られたものとかあって、ちゃんと獅子職人さんが作っています。
ちなみに、ぼくもいくつか個人で獅子頭を持ってますよ(笑)

—個人で!ほんとに獅子が大好きなんですね。

谷口さん:小さい頃からずっと身近でしたからね。県外にいた頃も、必ず秋祭りに合わせて帰省していたくらいです。

谷本さん:獅子好きが高じて、しまいには二人とも結婚式を鰹宇神社で挙げたんですよね(笑)

谷本さんの着ているのは十獅会のTシャツ。
獅子と言えばはっぴですが、こういうのもいいですね。


獅子を未来に残すために

—活動を始めたきっかけは。

谷口さん:鰹宇神社の秋祭りに参加した十河地区の各自治会メンバーが集まった打ち上げで、「若い世代で十河を盛り上げていこう!」という話になったのが最初ですね。

獅子は基本的に自治会単位で活動しているので、祭りでは顔を合わせても普段は話す機会がないんです。
それが打ち上げで集まると、やっぱりみんな獅子が大好きなのですぐに意気投合したし、「あいつも獅子好きだから誘おう」とさらに人数が増えて、どんどん横のつながりができていきました。
団体の立ち上げメンバー4人も当時からそれぞれ自分の住んでいる自治会で獅子をやっていたし、いまも自治会の獅子もやっていますね。

—自治会で獅子をやりながら、さらに新たな団体を作ったんですね。

谷口さん:このままだと、いずれ獅子も地域も先細りになるという危機感があったんです。

十河地区は30年ほど前までは緑豊かな田園地帯で、住民も顔なじみの人ばかりだったんですが、平成6年に長尾バイパスが開通して大型商業施設ができ、それに伴って新興住宅地が広がるようになりました。
ここ20年で約4,000人だった人口が9,000人近くまで増加した一方で、自治会加入率は30%台にまで落ちこんでしまっています。

ぼくたちも最初は当たり前のように地元の自治会に入り、自治会の獅子がやれたらそれで充分楽しかったんです。
けど、他の地域から若い人が引っ越してきても自治会に入れなかったりするから、自治会の活動も年々縮小しているし、獅子も担い手が高齢化する一方でどんどん減ってしまっている。

これはまずいぞ、どうにかしないと、というのがぼくたちの出発点なんです。

獅子教室の様子。
小さい子も大きい子も大人も、みんな真剣。

―最初は獅子も持っていなかったんですよね。どんな活動をされていたんでしょうか。

谷口さん:十獅会を立ち上げた当初は、会として獅子を持つつもりはなくて、自治会で獅子の活動が弱ってきていたのを継続できるように活性化したい、というのがみんなの想いでした。

でも、それだけじゃないなと。
獅子を未来に残すために大事なのは、若い世代が獅子に興味を持ってくれて、獅子に参加してくれること。
それなら自治会の延長だけではなくて、自治会に入っていない若い人、子どもたちが参加できる受け皿が必要だなと考えるようになったんです。

—周りの反応はどうでしたか。

谷口さん:やっぱり、なかなかすぐには理解してもらえないですよね。なので、地域の活動には積極的に参加しました。
神社のしめ縄を交換するのも、高所での作業となるので年配の方だけでは大変で、ぼくたちがお手伝いすることで喜んでもらえたし、そんな積み重ねで少しずつ認知度を上げていったんです。

インタビュー中の谷口さん。
マイ獅子頭とともに。


小学校での活動が転機に

—獅子教室や小学校での活動はいつ頃からでしょうか。

谷口さん:転機となったのは2016年です。十河小学校が総合学習の全国大会を担当することになり、地域のお祭りということで獅子が選ばれたんです。
それでぼくたちにお声がかかり、学校で獅子を教えることになりました。

そうなると獅子も太鼓も鉦も必要ということで、全自治会に道具の貸出を承諾してもらいました。獅子に合わせて太鼓や鉦で演奏される曲も、自治会ごとに全然別物。だから、曲も新たに作ったんです。
秋祭りの時に鰹宇神社での奉納もさせてもらえるようお願いして、認めていただいたことも大きかったですね。

それから毎年小学校で教えるようになって、そうするとやっぱり本物の道具がほしいね、ということで本格的に道具を揃え始めました。
そして、文化庁の補助金をもとに2020年に獅子教室をスタートしました。その直後にコロナ禍が広がって大変でしたが、密を避ける工夫をしながらなんとかやってこれたことも成果として大きかったですね。

自前の獅子を持って、団体としての活動をしっかりやっていくことで、少しずつ地域で認められてきたかな、と思います。

子どもたちが見守るなかでの獅子演舞。
大迫力!

—いま感じている課題はありますか。

谷口さん:獅子って地域の中では少し希薄化してきているところがあります。
母体である自治会の高齢化や未加入率が高くなると、活動を縮小せざるを得なくなります。獅子を存続させていきたい気持ちもあるけれど、体力的なことや仕事が忙しいことなどで顔をだしてくれる人が少しずつ減ってきていますね。
また、金銭的なところでも負担がかかるので、そこは自助努力で工夫をしながら活動をしています。

それと、単純に地域内での横の繋がりが薄くなってるんですよね。獅子って子どもたちにとっては初めての社会体験の場になっていたんですが、それが無くなりつつあります。
 
谷本さん:あと、昔からの住民と新しく移住してきた人たちとの配慮も必要になってきていますね。
昔は、祭りが近づいてくると日暮れとともに十河地区全体に太鼓や鉦の音色が響き『ああ、お祭りが近づいてきたな』とワクワクしていたものでした。
お祭りを知っている人は風物詩として感じますが、初めての人たちは急に大きな音が鳴るのでびっくりされることもありますね。
生活リズムの変化や小さな子どもにも配慮しながら活動しています。

―当初4人だったメンバーも増えてきているのですよね。

谷口さん:今は30人ほどいて、月1回定例会を開いて話し合いをおこなっています。
比較的若いメンバーが多くて、同年代同士がつながり、ぼくたちの想いに賛同して参加してくれています。また地域の諸先輩方もぼくたちの活動に理解をしてくれるようになり、応援してくださるようになりました。
もちろん、メンバーの中にも仕事や家庭で都合が合わず、なかなか参加できない人もいますが、お祭りには参加してくれるし、一緒に盛り上げてくれています。
 
谷本さん:今年で4年目を迎える獅子舞教室も参加してくださるお子さんが増えています。
なかなか本物の獅子に触れあうことがないので、みんな目をキラキラさせながら練習をしてくれています。舞を覚えるだけでなく曲を覚えて、太鼓や鉦に挑戦する子どももいますよ。
1回目に開催したときに参加していた子はいま高校生ですが、ずっと熱心に参加してくれている子もいて、すっかり『獅子ぼっこ』ですね(笑)

谷本さんはハウスメーカーの営業さん。
当日は仕事の合間に駆けつけてくださいました。


自分たちのベースはあくまで地元に

—これからの展望について教えてください。

谷口さん:これまでは道具が揃わないなか、なんとかやりくりしながらの活動だったんです。
でも、本物の道具を買うと決めてからは腹をくくって会費を集めたりして、ようやく来年には道具が一通り揃えられるところまで来ました。

秋祭りだけではなく「へんど」でも演舞ができるようになって、獅子教室も経験のある子どもが、入ってきたばかりの子にいろいろ教えられるようになってきたし、少しずつ形ができてきたなと思っています。
ここからは、団体として次のステージに進んでいきたいですね。

―十河以外の地域での活動も広げていかれますか。

谷本さん:活動を続けてきて、団体としてのノウハウもだいぶ蓄積できてきたなと感じています。
他地域でも獅子の活動が難しくなってきているところが多いので、困っているところがあればサポートできればと思っています。

谷口さん:ちゃんとした道具が揃うことで活動の幅が増えていきます。演舞依頼なども実際ありますし、これからはどんどん外に出ていきたいと考えています。

ただ、ぼくたちのベースはあくまで、鰹宇神社での奉納演舞なんです。
先人が五穀豊穣を願って獅子を奉納した歴史を引き継ぎ、地域がこれからも栄えていくことを願うのが、ぼくたちが獅子をやることの意味なのかな、と感じています。
そのうえで今の時代に合わせた獅子の継承スタイルを作り、バランスを考えながら活動の幅を広げていきたいと思っています。

実は、十河の獅子は一時期衰退していたんです。昭和50年代にぼくたちの親世代が復活させたから、いまに繋がっています。
獅子が続いていくためには、続けるための努力が必要なんです。

獅子が好き、という人をもっと増やしていきたいし、そういう十獅会にしていきたい。
地域を大事にしながら、獅子があるという「当たり前の日常」を、これからも残していきたいですね。


取材を終えて

「『当たり前の日常』を、のこしていきたい」
この言葉を聞いたとき、便利になりすぎて知らず知らずに失いかけているものがあることに気づきました。
子どもの頃は、どこからかお囃子が聞こえてきて、お祭りでお菓子をもらえたり、近所のおじさんからほめられたり、地域のおばあちゃんが見にきていたり。日常生活の中に溶け込み、世代間交流の場となっていた獅子。
そんな懐かしい風景が、ふっとよみがえり、子どもの頃の体験って、何十年経ってもからだにしみついているもんだなとあったかい気持ちになりました。

それが特別なものではなく、これからも当たり前にしていくのは自分たち十獅会なんだ!という強い意志とエネルギー。
「とにかく獅子が好き」知識や技術だけではなく、想いを子どもたちに継承していくその姿に、今後の十獅会から目が離せないなと思います。

何より、楽しそうに獅子のことを話す谷口さんと谷本さんの笑顔に「こんな大人かっこいい!」と感じずにはいられませんでした。
秋のお祭りが待ち遠しいです!

取材当日は冷たい雨が降る寒い日でしたが、お二人の熱がとても印象的でした。
ありがとうございました!

十獅会
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