しらない恍惚を盗む人〜聖なる鹿殺し、ヨルゴス・ランティモス、神話的境界〜
聖なる鹿殺し。前作『ロブスター』で未婚者が動物に変えられてしまう寓話世界を描き注目を集めたギリシア出身の監督ヨルゴス・ランティモスによる五つ目の長編作だ。
主人公は高名な心臓外科医。眼科医の妻に娘と息子の二人の子供を持ち、庭付きの家で裕福な生活を送っている。ある日、主人公と曰くありげな交流を持つ少年が一家を訪ねるところから、恐るべき異変が起こりはじめる。息子は突然立てなくなり、次いで娘までもーーそれまで礼儀正しかったはずの少年は牙を剥いて主人公を弾劾し、待ち受ける残酷な運命に