『悲哀クラブ』 〜フランス映画(MyFrenchFilmFestival)長編19番勝負 10/19〜

おもしろすぎる!
ハンサムで精力的な元プロテニス選手・レオンと出会い系に夢中の非モテ童貞・ブリュノの対照的な兄弟が、母違いの妹を名乗る女性クロエとともに、家庭を顧みずモテ道を突き進んだ父・アルトゥール失踪の謎を追う、ポール・オースター『シティ・オブ・グラス』やジェフ・ニコルソン『装飾庭園殺人事件』、あるいは佐藤友哉『クリスマス・テロル』のような、探偵小説の形式を借りたポストモダン文学の系統に属する物語ゆえ、彼らが本当に探し求めるものはもちろん人間アルトゥールではなく、その思い出と記憶、だからこそ「肉体は重要ではない」わけで、カラッポのからだを思わせるがらんどうの生家でレオンが発見する父の手がかりーー複数の女性から送られた手紙、息子の練習用に作られた特製のテニスボールランチャーーーは、単なるモノを超えてそれぞれの人生に深い影響を及ぼす。
“思わぬ拾い物”として興奮気味にレビューした短編『ダブルミックス』のヴァンサン・マリエット監督の長編作とあって大いに期待を寄せて見たが、その期待を遥かに上回る傑作、意表を突くズームインが特徴の不可思議なカメラワーク、どうやったらそんなん思いつくねんという怒涛の超展開の連続(アルトゥールの愛人に鈍器代わりのインテリアオブジェが振り下ろされた瞬間、無数のカットが高速で点滅する演出は『時計じかけのオレンジ』のパロディだろうが、こんなにさりげなくオリジナルなパロディは初めて見た!『ヘルタースケルター』で醜悪なオマージュを捧げた蜷川実花、とくと見よ!)、そして、脈絡なく炸裂する世界の暴力性を根元から解体するユーモア、すべてにおいて唯一無二の個性に彩られた、紛うことなき天才の所業!

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