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おにぎりプロジェクト第12弾高橋商店「繁桝」(福岡八女編)

昨年の2月からスタートしたおにぎりプロジェクトことONIGIRI FOR LOVEも早いものでもうすぐ1年になる。本プロジェクトの共同パートナーの成澤シェフには継続への揺るぎない信念のようなものを毎月注入していただいている。簡単なようで継続とは意思の確認作業の連続だ。そして何よりも酒造りの最中で忙しい中、このプロジェクトに賛同してくださった多くの酒蔵の皆さんにこの場を借りて感謝したい。皆さんの声がけがなければ、地元の料理人や関係者の方々が集まることはなかっただろう。継続するということはそういう一年の振り返りも意味する。

さて、今日は記念すべき12回目の開催日であった。ちょうど3ヶ月ほど前だろうか、それは相方堀江の一言から始まったのだ。「おにぎり、ぜひ八女で開催できたらなぁ。高校の先輩が高橋商店という酒蔵をされていてさ。」そんな一言から僕らの八女アプローチは始まった。WAGYUMAFIA設立以前より八女茶を使っていたこともあり、そして堀江の故郷であるということも手伝って、僕らは八女にはとても大切な気持ちを持っている。

八女市役所とは八女伝統本玉露が指揮する椎窓さんと一緒に、八女が誇る玉露を世界デビューさせるアイディアを密かに進めていたりするのだが、今回も椎窓さんチーム経由で高橋商店の中川社長にアプローチ頂き、この年始の忙しい中開催の快諾を頂くことになった。

有明の水産資源の多様性を支えているの一つは矢部川である。この矢部川が生まれるのが三国山であり、福岡県南部の八女が水源とされる。この肥沃な土地から流れ出るミネラルが豊富に含む水が有明海に注ぎ込まれ、生態系を支えているのだ。当然、水源である八女は前述の本玉露に代表されるお茶、そして高橋商店のような日本酒、農作物に至るまで多くの特産品を生んでいる。堀江のおじさんが作っている「あまおう」の畑を見学させていただくが、素晴らしい環境で国内最高と称される苺が実っていたのが印象的だ。

高橋商店の代表である中川社長は、結婚をきっかけにこの日本酒蔵の経営に入る。元々はゼネコンの大型トンネルの工事管理をしていた方で、温和な物腰だが並々ならぬ日本酒への信念を感じさせる。僕らが到着するとすぐに「蔵見をぜひ」と、蔵の中の本当に細部の細部まで見せていただいた。小箱での発熱プロセスを熱管理していく方法論なども僕らが見たことのない独自の管理システムを作り、また酵母の培養状態をみて、そのアクティブ度合いで投入する酵母を選んでいるところなど、中川社長の7年間の日本酒への愛情のすべてを教えていただくような時間だった。

1717年に生まれたこの歴史ある蔵に必要なのはこういう外部の人材なのだなということを強く感じる瞬間だった。堀江は日本には昔養子といういい制度があって、そのシステムを使って血縁以外から優秀な人間がやってきた。伝統産業に必要なのはこういうことじゃないかと熱く語る。中川社長が用いた言葉で印象的だったのは「並行複発酵」だ。世界中のどの種類でもこの発酵というプロセスを経てアルコールを作り出す。糖質原料をグルコースに分解することを糖化といい、グルコースをアルコールに変化するのが発酵だ。並行複醗酵はグルコースレベルを低く保てるため高いアルコールレベルを作り出すことができる。この話しが出たのが日本酒のアルコールレベルをあげて熟成させるという会話のくだりだった。現行の酒税法では22度まで上げても大丈夫だからだ。伝統を理解しながらも新しい手法を絶えず模索しているのだろう。

高橋商店の日本酒は「繁桝」(しげます)だ。JALのファーストクラスにピックアップされたこの地域の地元に愛され続けている日本酒だ。「酒は繊細な心を持っている」との会社のキーワードのひとつに代表されるように、14名の蔵人たちの大切な気持ちが入っている、そんな気持ちにさせられるから、日本酒は実にロマンチックな酒だと思う。

かしわ飯のおにぎり、そして伝統本玉露で作ったおにぎり。成澤さんと僕なりにこの八女への想いをおにぎりに入魂したつもりだ。いつもの通り、総勢20名強、日の出が遅くなり、去年の今と同じく真っ暗な中で炊き出しがスタートする。新年だから餅つきもしようという堀江の発案で、おにぎりプロジェクト史上初となる石臼での餅つき大会が始まった。堀江のお母さんも参加され、みんなで心を込めて握ったおにぎりは、彼が生まれた公立八女総合病院に届けられた。

院長はこうおっしゃった。

「コロナも3年目となり、ケアワーカーたちの心を安定させて維持していくのがとても難しく感じる今日このごろ。そんな中でこういうおにぎりを頂くことが何よりの励みになる。」

水が繋がり、そして心が通い合っている。
八女はそういう土地だと、改めて再確認する。

八女プロジェクトに関わっていただいた多くの皆さんに感謝したい。

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