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商品を愛する売り手のプロたちが集う新宿伊勢丹

親父が病床に伏しているときだからか、それとも1歳時の子供と過ごしているからか、幼少期にしてもらった記憶が鮮明に蘇ってくる。僕らはよくデパートに行った。両親がデパートでいったい何をしてたのかは全く記憶にない。それでもランチの新幹線プレートに乗っているお子様ランチはいつも楽しみだったように思える。デパートの中でもやはり特別だったのは伊勢丹である。両親の出会いが、東京銀行だったということもあって、新宿が彼らにとっての都心だったのだろう。不思議なご縁で、僕の料理人としての最初のデビューも伊勢丹本店だった。今も残るB1のキッチンで、和牛のコースを出しませんか?と提案いただいたのだった。WAGYUMAFIAが生まれるちょっと前の話だ。

子供ができて歩き出す年頃になるとデパートのありがたみが分かる。とにかく歩き回れるからだ。僕は食品街を歩くのが好きだ。マーケットにいるような錯覚に陥る、キューレーションはとくに面白く何を取り揃えているか、久しぶりにいくとマーケットリサーチ的にも面白い。ところどころに名物店員みたいな人たちがいるのもまたいい。今日はチーズコーナーで、チーズを愛しすぎている人と出会ってしまった。とにかくこのチーズがいい、あのチーズがいいと、圧倒的なチーズ愛で攻めてくるのである。チーズも多分美味しいのだろうが、きっとこの人の話の方がチーズよりも美味しいはずだ。

日本酒売り場も食べ物が好きそうなぽっこりお腹の店員が、冬にもかかわらず汗を額に浮かべながら、「ちょうどひやおろしの季節ですものねー」と、日本酒を購入する客に笑顔で話している。そう、このデパートが偉大なのは本当にそのプロダクトが好きな人が物を売っているということだ。昔、図書館にもこういう人がいた、そして御茶ノ水のどでかい本屋にもこういうプロがいた。売り手のプロというのが、最近はつくづく減ってきたなぁっと思うのだった。消費者サイドはこういうプロの売り文句みたいなものを受けたことがないから、ある意味この手の売り方をされると抗体がない分、みんな買ってしまうのだろう。

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