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老舗レストランが好きな理由

WAGYUMAFIA相方の堀江が「このハンバーグがいいんだよ」と送ってきたのが、春日に本店を構える「せんごく」の通称ステバーのステーキバーグだった。東大も近いから、若かりし頃よく通ったのだろう。店内に流れるt.A.T.uのヒット曲と中国人の店員さんの接客にどことなく親しみを覚えながら、僕のステバーがやってきた。もやしの上に乗っかったステバー、そこにせんごくバターが乗っていてなんとも旨い。半世紀も地元民から愛されたきた味というのは、それだけで美味しさが格別に違うのだ。時間の積み重ねのたくさんの「旨い」を吸収してきているようなそんな味がするから不思議だ。

すっかり食欲に火が着いた僕は、その足でステーキしのだに電話する。ここは鉄板焼きのステーキ屋さんなのだが、鉄板で焼いたゴロステーキをスパイシーなカレーにどんとぶっかけてくれる名店なのだ。電話するとおじいちゃんマスターが「何名?あとどれぐらいで来られますか?」とタイミングが微妙に外れたコミュニケーションで聞いてくる。そう、鉄板を温める時間を聞いているのだ。僕は10分後に行きますと伝えるとブツッと電話は切られた。

純喫茶のような店内に不釣り合いな熱帯魚の水槽、そして貫禄ある鉄板が2台。フードが今作ったらこれ高いだろうなぁっという立派なものだ。鉄板越しには今やレアアイテムとなった山崎のボトルが鎮座している。そう、ここは名店なのだ。少し耳が遠くなったマスターがぶっきらぼうにサラダをどんと突き出してくる。そこから肉を焼き出すわけだ。そのシズル感ある音を水槽のエアレーションの音と混ぜながら楽しんでいると、噂のカレーが登場する。見た目以上にさらっとしている濃厚なルーに肉がどんと乗っている。福神漬けも昭和な暗い黄金色でこれがまた心地いい。食後にバニラアイスと鉄板の上で丁寧に淹れてくれる熱々なコーヒーが無言でサーブされる。きっとこのお父さんが辞めると決めたらもうこのお店の味はなくなってしまうのだと思うと、どうにもやるせない気持ちになる。

そんなお店は日本にたくさんある。そして本当に消えていったお店もたくさんある。それでも僕の頭のその店の五感センサーで感じたなにかが残っている。そういう記憶たちに助けられて僕が好きな味というものが出来ている。だからもしかしたら消えてしまうかも知れない老舗レストランを愛してしまう。

色褪せた山崎のボトルラベルにこのお店の歴史が分かる。もう新品の山崎が並ぶことはないのかも知れないが、また今日みたいな日にふらっと立ち寄りたい実に気持ちのいい店なのだ。



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